選択
私は、
最初から知っていた。
しょう兄ちゃんに、
恋人がいることも。
結婚するかもしれないことも。
そして、
私たちが「恋人」にはなれないことも。
分かっていて、
夜を重ねた。
言葉にしない約束。
未来を語らない時間。
その場限りのぬくもりだと、
お互いに理解したまま。
それでも、
心は少しずつ削れていった。
ある日、
彼の結婚が決まったと聞いた。
誰かから、
噂のように。
不思議と、
涙は出なかった。
——ああ、やっぱり。
そう思っただけだった。
私は、
地元を離れることを決めた。
ここにいれば、
きっと、また彼を思ってしまう。
選ばれないと分かっている恋に、
縋ってしまう。
だから、
離れる。
それが、
私にできる唯一の
「大人の選択」だった。
引っ越し前の夜、
最後に彼と会った。
彼は、
私の決意を知らない。
ただ、
いつも通りの顔で、
いつも通りに笑っていた。
「結婚、おめでとう」
その言葉に、
彼は一瞬だけ目を見開いて、
すぐに照れたように笑った。
「ありがとう」
それだけだった。
——さようなら。
その言葉は、
胸の奥にしまったまま。
手を握った感覚を。
抱きしめられたぬくもりを。
キスをした感触を。
視線が混ざり合った、
あの一瞬を。
私は、
忘れないように胸に抱いて、
悟られないように、
またすぐ会えるかのように別れた。
それが、
私の最後の選択だった。




