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第5話 新宿ネズミはボスである

 とあるインターネットカフェの一室。アラシヤマがミノリ達に拾われた頃、ネズミは虚空を見つめていた。


「やっと回り出すなぁ」


 彼は無事に回収され、成長のための布石は打てた。

 あとはこちら側の……。


 その時、個室の扉が五回叩かれる。しかし、何も応えないネズミ。

 そこにすぐさま合言葉が飛んでくる。


「……アボカドワッペー」

「とーぞ、入ってきてくれー」


 安易な合言葉とともに入ってきたのは無精髭の男、マスターだった。


「毎度のことだがもうちょいまともな所を根城にした方がいいんじゃねーか?合言葉も変だしよ」

「例のブツは持ってきたか?」


 入るな否やド正論をネズミにぶつけるが、聞こえてないかのように彼は催促した。


「はぁ……。どーぞボス」


 ため息と共にマスターが差し出したのはバーガークインのアボカドワッペー。

 それを受け取ると満足そうにネズミは頷いた。


「ありがとうマスター、じゃあ仕事の話をしようか」


 その様子にマスターは呆れ気味に笑いながら別にいいけどよ、と話を続ける。


「アラシヤマんとこのガキンチョの回収は終わったんだろ?今回はいつものやつか?」

「ああ、それもお願いしたいが今日は別件もある」

「なんだー?またテロ組織予備軍でもできたか?それとも本物のテロ組織が動き出したかー?」


 そう言ってカッカッと笑うマスターだったが、ネズミは険しい顔で黙りこくった。

 

「え……?まじ?もしかして、本物の方?」

「……ああ」

「え?素面の奴らじゃなくちゃんと能力持ちの?」

「そうだ」


 マスターがあちゃー、と天を仰ぐ。

 それとそのはず、彼も本物のテロ組織については冗談で口にしたのだから。ネズミの情報探知能力は破格のもので世界のどこにいようと居場所が特定されるとも言われるほどなのだ。

 それ故に今まで小規模の反政府団体は存在しても、行動に起こせる程の団体は産まれる前に潰してきた。

 しかし、それが出来なかったということはネズミの探知外に逃れられる泡沫(バブル)持ちが居るということになる。


「失敗したよ、完全に後手に回ったなぁ」

「ボスがそこまで言うなんて珍しいじゃねぇか?」

「事実は事実だ、受け止めよう。しかも今回はかなり分が悪い。犯人をウチの下部組織に擦り付けられてるからなぁ」

「あー、あれか。荒川スカイタワー爆発したとかでキュウソが犯人とか何とか言われてるやつ」


 マスターはふと昼間に見たテレビニュースを思い出した。最初見た時はどうせネズミの策略の一部だろうと思っていたが、まさか嵌められた側だったとは思いもしなかった。


「そもそもの話だ、思い出せ」

「ん?何をだよ?」


 理解してないマスターに呆れたようにネズミは言った。


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「なっ、なにを……」

 

 何を言っているんだよ、その言葉がマスターの口から出ることは無かった。


 グルグルと記憶が回る。


 荒川スカイタワーはどんな形だった?


 大きさは?

 


「思い出せ、思い出せ。俺達には効き目が薄いはずだからすぐに思い出せるだろ?」


 そういえば、ニュースで見た映像には一切タワーそのものが写っていなかった。



 段々と記憶が鮮明になっていく、荒川沿いにも荒川区にもそんなタワーは存在していない。

 それを当たり前のように受け入れ、当たり前のように真実だと思い込んだ。

  

「情報改竄系の泡沫(バブル)持ちか……」

 

「ご明察。泡沫(バブル)持ちには泡沫(バブル)のチカラは効きにくい。だから俺達は直ぐに正気に戻ったが、一般の人間には何を言っても思い出せないだろうな」

 

「犯人は?どうせお前のことだ、分かっているんだろ?」

 

「ああ、もちろん。奴らの名前は『フラメルの意思』錬金術師気取りのイカれ野郎さ」

 

 ニコラ・フラメル。

 それは十四世紀にかつて実在した人物で錬金術の研究をしていたとされる人物である。

 また、賢者の石の作成に成功したとも言われ永遠の命を得て今もどこかで生きながらえて居るという噂すらあるのだ。

 もちろん、現実に魔法じみた錬金術などと言うものは存在しないためそれを真に受ける人間は少ないのだが。


「なるほどな、じゃあボスは不老不死の錬金術師か?数世紀生きてますよーってか」

「いんや、『アカシック・レコード』を覗いたがアイツらのボスは存在してなかったよ。上手いこと考えてある、存在しないボスを立てることで組織を回してるのさ」


 マスターはその話を聞いて厄介だ、と率直に思った。

 ボスが存在するのであればそこを潰せば勝手に瓦解していくことが多い。

 だが、この手の組織は根まで根絶しないと次から次へと湧いて出てくる。


「おーけー、敵はわかった。それで結局俺は何をすればいい?」

「話が早くて助かる。マスターにやってもらいたいのは今から指定する組織への潜り込みだ」

「中から壊せばいいってか?」

「いや、なるべく静観で情報だけ渡してくれ。それで相手の泡沫(バブル)の程度を測る」

「リョーカイ、リョーカイ。それじゃあ行ってきますわ」


 背中を見せ手を振りながら出ていこうとするマスターにネズミが声をかける。

  

「ああ、任せたよ『変幻自在』 」


 ふっと振り向き一礼。

 

「仰せのままに。ご主人様」


 それを見てネズミは楽しげに笑った。

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