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第33話 全面戦争8

全面戦争 8

「アラシヤマさん。なんで、道がわかるんですか?」


 場所はラジオ会館内部。

 ミノリとアリスがそれぞれの十二使徒を相手する中、アラシヤマと追加メンバーの二人でその深部に向かって進んでいた。


「いやー、何となく分かるんだよね。実家のような安心感……みたいな?」


 ケタケタとふざけた様子のアラシヤマに。

 不信感を覚える二人。

 当然進んで行く先でフラメルの意志のメンバーが在中しているのだが、気付かれる様子もなく淡々と進む。


 それは、先程アラシヤマに尋ねた男の泡沫だった。

 外からの認識を薄める泡沫。アルバイトの持つ泡沫に近い能力だ。


「僕たち三人で何とかなるんですかね……」


 そう言って不安そうに呟くのはもう一人のメンバー。名をハラダと言う。

 ネズミからの突発的な指示で潜入したはいいものの直接的な戦闘ができるのは自分とアラシヤマのみ。

 そしてすれ違う何人もの敵を見てその戦意は地の底まで落ちていた。


「まあ、何とかなるでしょう」


 アラシヤマの泡沫について詳しくは聞いていない。

 だが、この様子だとおそらく相当強力な能力で本当に一人で問題ないのだろうと納得した。

 不意に、ソレが現れるまでは。


「なんとかなると……いいですがね」


 その声が聞こえたのは背後、耳元。

 その次の瞬間には、ハラダの首は身体と別れを告げる。

 落ちた首が一度、二度、三度跳ね、ボールのように地面を転がった。


「ハラダ!?」


 認識阻害の泡沫持ちが声をかけるも、それを最後に事切れる。

 首が落ちたハラダと同じ末路を辿ったのだ。


「あらあら、俺は殺されないのか」


 仲間の死を気にした様子もなく、飄々と嘯くアラシヤマ。

 襲撃相手はアラシヤマだけには手を出さなかった。


「ええ、嵐山 旅人様。貴方様は丁重にお出迎えするように仰せつかっておりますので」


 そう言って姿を表したのは執事然とした長身の男。

 その顔には目元のみのベネチアンマスクを装着しており、口元以外の表情は見えない。


「それにしてはやけに剣呑な視線を感じるけど?」


 アラシヤマの言うように、いつの間にか現れた男以外の周囲の人間からは険しい視線が飛んできている。


「これはこれは、申し訳ない」


 そう言って男がとった行動は、惨殺。

 瞬く間にアラシヤマ以外の全ての人間の首を切り落とし、足蹴にする。


「これで問題は無いでしょう?」


 そう言って男は歩みを進めた。


 ◇


 そこを一言で表すならば玉座の間と言ったところか。

 たった一つの玉座に黒衣を纏った男が座っていた。


 そしてそこに続くまでのカーペットの横で、王座へ続く道を表すように頭を垂れる五人の者たち。


 アラシヤマを連れてきた男もその列に加わる。


「……来たか」


 そう呟いたのは、黒衣の男。

 顔をフードで隠したままアラシヤマに向かう。

 直後強まる圧。

 王の放つそれに頭を垂れるものたちは思わず両膝を着く。

 だが、アラシヤマは何食わぬ顔で突っ立っている。


「ふはっ!どうやら!どうやら本物のようだ」


 ご機嫌に両手を叩く黒衣の男。

 それに伴い段々と圧が強まっていく。

 アラシヤマ以外は耐えきれず地面に這いつくばってしまう程に。


 アラシヤマは何も言わない。

 ただ、連れてこられるがままに黒衣の男を見つめる。


「お前は何をしに来た?何を、どうするためにここまで潜り込んできた?」


 えらく興奮した様子の男。

 それとは対照的に冷静に返すアラシヤマ。

 ただ、一言。


「お前を殺しに来た」


 男がフードを脱いだ。

 そこから露になる男の顔。


 白髪混じり、程よく皺の入った中年。


 ただ、一番の特徴といえば。


「お前の殺意を歓迎しよう、我が息子よ」


 その顔はあまりにもアラシヤマに似ていた。




 アラシヤマの心中に揺らぎが生まれた。

 父親を名乗る男の顔があまりにも自分に似ていたから。


 記憶に欠片も残っていない父親。


 母からは消えたと聞かされていた。


「お前は……」


 辛うじて絞り出した言葉に、笑って返す黒衣の男。


「私は黒衣の王……などではない。十二使徒が一人ケテルのアラシヤマ。そして、お前の父親だよ。旅人」


 その優しい微笑みに心が揺れる。

 知らない、貰っていないはずの愛情。


 その威圧感に這い蹲る周りと、飄々とした様子のアラシヤマの差はその父親からの愛情故か……。


 ――――否。


 等しく威圧感はかかっている。


「すこし、話をしようか。お前のこれまでと、これからについて」


 語り出すは過去の話。

 アラシヤマ本人の知らない嵐山 旅人の話。


「竹山 旅人」

「何故それをッ!?」


 ここで見せる驚愕の表情。

 父親を名乗るこの男の事を信じてはいなかった。

 なぜなら、アラシヤマは嵐山 旅人ではないから。


 だが、彼の口から出たのはアラシヤマ、元い竹山の本名。


「始まりは、十年前。お前をあの女に預けたところから始まる」


 そうして滔々と語り出す黒衣の男。

 アラシヤマの知らない過去が、ここに始まった。

 

 

 


 

 

 



 

 

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