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第29話 全面戦争4

『よくぞ集まってくれた。同士たちよ』


 モニターの向こうで高らかにに演説をするのはネズミ。いつもの浮浪者じみた格好ではなく、きちんとした正装でモニターに写っている。


 総勢40万人にも上るギルドの面々がそれを見ていた。 それだけの人数となると流石に1箇所に集まるわけにも行かず、東京の複数箇所に別れてネズミの演説を聞いている。

 その各所で、ギルド所属の泡沫持ち達が待ちきれない様子でネズミの言葉の続きを待つ。


「ネズミさん、気合い入ってんねー」


 テンチョー不在の店で、スナック菓子をつまみながらそれを見るミノリ。

 一人ソファに寝転がりながら、だらけた様子でネズミの言葉を聞く。


「ドキドキしますね。アラシヤマさん」

「……そうだね」


 興奮した様子のアリスと、真剣な眼差しで見つめるアラシヤマ。

 マスターを失くした伽藍堂の店内。

 珈琲の匂いが染み付いたその店の中で、小さなモニターを前に二人はネズミの言葉を待つ。


「ついにはじまったようだネ。忙しくなるヨ。仕上げにかかろうカ。ヤマダクン」

「ええ、これでやっと……」


 白を基調とした無機質な室内で、達観した様子でモニターを見つめるドクターと付き従うアルバイト。

 無機質な面で隠されたその素顔は、笑っているのか嘆いているのか。


 様々な場所で、様々な立場でそれぞれ傾聴する。


『我々、ギルドは未曾有の敵を前にしている。敵の名は「フラメルの意思」。錬金術師を気取るイカれ野郎共だ。泡沫持ちの強制発現や、数々のテロ行為。更に奴らはこれからアラハバキと呼ばれる神を顕現させ、世界を滅ぼそうとしている』


 それまで、内容を深く知らされていなかった一般のギルドの構成員達が息を飲む。

 そして、皆がそれぞれ直感する。

 ここから始まるのは、戦であると。

 かつて無い規模の争いが始まると。


『奴らによって、仲間が何人も殺された。奴らによって幸せだった人間が何人もコチラ側に連れてこられた。奴らによって全てが蝕まれつつある!世界の秩序を護るギルドとして、奴らの蛮行は放っておく訳には行かない。故に!それ故に我々は!奴らを叩くことにした!』


 誰かが、その手を深く握る。

 そしてまた誰かがその歯を強く食いしばる。


『聴け!ギルドの面々よ!これは争いでである!戦である!勝ち残るのはどちらかのみ!フラメルの意思()か!ギルド(我々)か!我々ギルドは……』


 モニターを前にした面々は静まり返っていた。

 誰もが、続くネズミの言葉を待つ。

 その先に続くネズミの言葉を聞き逃すまいと全意識をそれぞれのモニターへと向ける。


『……これより全勢力を持って掃討を行う!時は12月25日!場所は秋葉原!奴らが行おうとしている全てをこの日に食い止める!全面戦争だお前ら!完膚なきまでに叩き潰すぞ!』


 湧き上がる各所。はち切れんばかりの歓声が上がる。あるものは拳を上にかかげ、あるものは泡沫で生み出した剣を掲げ。

 それぞれ、喉が壊れるほどの雄叫びをあげる。


 湧いていた、その歓声に震えていた。


 ここに、戦は開かれた。


 敵は「フラメルの意思」。

 錬金術師気取りのイカれ野郎共。


 泡沫で全員の士気を察したネズミは、いつものようにカカッと笑った。


 ◇


 ギルドがネズミの演説に燃える頃、フラメルの意思はアラハバキ降臨の準備を着々と進めていた。

 そこは、本拠地の協会の中にある一室。

 長机に幹部十二人が一斉に会する。


 扉から一番遠い椅子に座る男が、顔をフードで隠したまま口を開く。


「我々フラメルの意思はその目的を達するため、神降ろしを決行する」


 それに対して、誰も口を開かない。

 縫い付けられたように、縛り付けられたようにその場に固まる。


「長い時であった。苦痛に耐え、苦行に耐え。この世を何度でも恨んだであろう。だが、それも終わる。かの荒神によって全ては無に帰すのだ」


 仰々しく話す男に何も返さない面々。

 いや、返せないのだ。それぞれが拳を握りしめ、必死に耐えている。

 何故ならその男は恐怖を振りまいていたから。

 根源を揺さぶるような例えようの無い恐怖を。

 

 その者は、王であった。


「それに伴い、今より贄を集める」


 そう言って机に広げるのは古びた大きな地図。それは東京を拡大したもので、通常の地図と違い大雑把な土地と古風な文字で構成されている。

 そして、その地図の一点を迷いなく指さす。


「場所は荒神(アラハバキ)の眠る地アキハバラ。そこに三万の心無き魂と、四万の正常な魂を集める」


 そのままその地図へ泡沫を流すと、一つの模様が浮かび上がる。それは12個の点が一定の距離で打たれていた。そしてその点同士は線で結ばれ、それぞれが瞬くように点滅している。


「とはいえ三万人を越えても構わぬ。育てた泡沫持ちは全部投入しろ。失敗は許されぬ。決行日は12月25日。全てはニコラ・フラメルの為に」


 冷や汗をかきながらも、それぞれが応える。  

 

「「……ニコラ・フラメルの為に」」


 これにてフラメルの意思は動き出した。

 アラハバキを降ろすために、全てはこの世界を作り直すために。

 12月25日。世界がサンタに願う頃。

 壊れた錬金術師達は世界の破壊を願う。

 

 12月25日。世界がサンタを待ち望む頃。

 壊れたネズミたちは世界を護らんと全てをかける。


 徐々に動き出していたそれぞれはここ来て一気にクライマックスへと加速する。

 

 回り出した歯車は、もう止まらない。

 


 

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