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第20話 アラハバキ3


 神が世界を創ったのではない。

 世界が神を創ったのだ。


 それは、この世界におけるタブーであり真実。


 だからこそ、その情報を持つのは極わずかな人間だけ。

 そう、例えばこの老婆のような『受け継ぎし者』だけである。


 ◇


 それは、世界に繋がる扉を守る番人であった。 

 何人たりともその扉を通すことは許さぬ破壊の化身。

 全てはそれの前に等しく滅ぼされ、全てはそれの前に為す術もなく壊される。


 それが現れた世界は、一度原始に回帰する。


 SF小説のように時間を巻き戻す訳ではない。荒々しく破壊され、原始に回帰する。


 曰く、それは人の叡智が世界を暴こうとした時に現れる。


 曰く、それは世界の防御反応であり根源を消すまで止まることは無い。


 曰く、それは世界への鍵のひとつでもある。

 

 そして、ソレの名前はアラハバキ。


 今から約二千年前に世界に降臨し、当時の人類と文明を破壊し尽くした荒神である。


 そして、数少ない生き残りの一人が絶望しその果てに泡沫へと至る。

 それは、「受け継ぐ」という強い思いと共に発芽された。

 そして望み通りに受け継がれる。子孫の絶望に伴い発現する、泡沫という形で。


 記憶の継承。それが老婆の持つ泡沫であった。

 

 

 ◇


 「それって、俺の泡沫も引っかかるんじゃないか?世界の記憶(アカシックレコード)を覗いてるわけだし」


 話を聞いたネズミから漏れたのはそんな言葉だった。

 それに対して笑って返した老婆。


 「なーに、言ってんだい。ネズミちゃんみたいな泡沫持ちはずっと昔からたまに居たよ。問題になるのはもっと深いところ、例えば世界そのものの仕組みを弄ろぅとしているやつさね」


 ならば、何故フラメルの意思はそれを追っているのか。

 アラハバキと接触したとて何が出来るというのか、そんなことを考えていたアラシヤマにひとつの結論が浮かぶ。

 

 「さっき、人類を駆逐したって。もしかしてヤツらの目的は……」 

 「ああ、人類の淘汰だろうな」


 アラシヤマの言葉を続けたのはネズミであった。


 「よし、今一度『フラメルの意思』の目的をアラハバキの顕現に伴う人類の淘汰と仮定して動く。アラハバキの調査については引き続きマスターとタビトに任せる」

 「りょーかい。ボスは別件に?」

 「ああ、直接動かなきゃならないことがあってな」


 そういうや否や、外でクラクションが短く2回鳴る。


 「おっと、ちょうど来たようだ。バッチリだな」


 そんな軽口を叩きながら本堂を出ていくネズミ。

 それをマスターが呼び止める。


 「ん?どうした?」

 「いや、なんだ、気ぃつけろよ。先日の爆破もあったしボスも危ねぇ」


 心配そうに伝えるマスターに変わらぬ様子で「かかっ」と笑う。

 

 「俺を誰だと思ってんだ。なんでも知ってるシンジュクネズミだぞ?」


 そう言ってネズミは笑った。自ら否定した全知を敢えて語る。そんなどこか強がりに見えたボスのその笑顔に、マスターは何も言えずに見送った。



 ◇


 「して、これ以上何が聞きたい?」


 ネズミが去ったその後、落ち着いた頃にに老婆が口を開く。


 「いや、なぁ。俺としても手詰まりで何からしたらいいか」

 「あんたも難儀なもんだねぇ。アラハバキを探さなきゃならないんだろ?」

 「ああ、少しでも手がかりがあればいいんだが。大体ボスにも分からねぇことをどうやって調べれば……」


 思案に耽るマスターに、呆れた様子で老婆が言う。

 

 「あんたねぇ、ネズミちゃんが分からないなら逆に調べる場所は絞れるんじゃないかい?」


 その言葉にハッと気づいた様子のマスター。


 「よし、アラシヤマ。向かう場所は決まった、出るぞ」


 そそくさと出ようとするマスターに、呆れた様子の老婆。

 変わってないねぇ、と溜息をつく。


 「ちょっと待ってな。二人ともこれを持っていきな」


 そう言って手渡したのは二つの御守り。


 「私が丹精込めて泡沫を込めた御守りだよ。何かあった時に使いな」

 「おう、婆さんありがとうな」

 「ありがとうございます!」


 それぞれの礼を言い席を立つ二人。

 苦笑しながらも慈愛の眼差しで、二人を見つめる。


 二人は振り返ることもせず、ただ真っ直ぐと本堂から出ていく。

 

 そんな二人の背中を見つめて、ぼんやりとつぶやく老婆。


 「ああ、控えめな所も本当に似てるね。子供なんか残して、アンタはどうするつもりなんだろうね……嵐山」


 その呟きは決してアラシヤマへと届くことは無い。

 届いたとしても、聞こえない。

 アラシヤマ自信がその情報を遮断するから。


 老婆は灯りを消すと暗闇の中へ帰る。

 また彼らが来たときに話ができるように、これ以上身体への負担がかからないように。


 横になって身体を休める。


 世界で最後の語り部として、その仕事を全うできるように。



短めだけどキリがいいのでここまでで!

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