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6 城の人々が言うには 側近side



「クロおおぉーー!!!」


 今日もまた、城では叫び声が上がる。


 僕、ピーター・パンは眉間を押さえた。

 なぜなら、この声を聞いた我が主君が仕事を放棄して彼女のもとへ行ってしまうからだ。


 陛下の執務室へ向かうと、案の定彼はいなかった。

 

 哀れな行政官が僕をみた瞬間泣きついてきる。


「陛下がっ陛下がぁっ!」


「落ち着いてください、バーガー行政官」


 話を聞くと、陛下が決裁する書類を持ってきたとのこと。そして、今日が期日であるとのこと。


「陛下は私をクビにしたいのだぁっ!」


「陛下にそんな他意はありませんので、ご安心ください」


 そうあの方に他意はない。

 ただ不純な思いをある人に向けているだけだ。


「陛下はある女性の尻………失敬、後ろを懸命に追っているだけですのであしからず」


 行政官をなんとか宥め、部屋から出す。


 陛下の机をみると、書類が山積み。

 部屋の窓は開け放たれ、カーテンが風で揺れている。


「一足遅かったか……」


 今まではこの執務室から頑として動かなかったが、今の状況は正反対だ。


 書類は前よりも滞るようになった。


「やれやれ」


 自分の席に座り、可能な範囲で書類の決裁を行う。


 ピチピチっ


 小鳥が窓から飛んできた。陛下の書類の山の上に立ち、不思議そうにその紙を啄いている。


 平和だ。


 少し前までは、この執務室は人で溢れかえっていた。喧々囂々とした部屋で、陛下は淡々と書類を捌いていた。


 しかし、書類が滞っている今のほうが平和。


 多分、陛下は優秀すぎたのだろう。

 凡人が追いつけないスピードで思考し、決定する。

 我々はもちろん、国民も彼に追いつけない。


 目まぐるしく動く状況に、皆が翻弄されていた。


 それがピタリと止まった。

 そして、この国に合った時が流れるようになった。


「あとはもうちょっと陛下が働いてくれたらなぁ」


「不敬だな」


「あ、陛下だ」


 小鳥よりも静かに窓から帰ってきた陛下。

 表情をみるに、満足するまで彼女に構ってもらえたようだ。


「構ってもらえたんですか。よかったですね」


「黙れ、さっさと仕事しろ」


「はーい」


 陛下は明らかに丸くなった。

 以前の陛下にこんな口をきけば、よくて追放、悪くて処刑だろう。それほどまでに厳しかった。


(変わったなぁ、陛下)


 最近の陛下について城の皆に問えば、口を揃えて言うだろう。


 陛下は愛で変わった、と。


 でも、僕は正直あれは愛じゃないと思う。

 だって、あんなの執着だ。

 僕は鎖で物理的に縛られたくないし監禁も嫌だ。


「陛下」


「なんだ」


 以前の陛下なら返事もしなかっただろう。

 これも全て彼女のおかげだ。

 だからこそ、彼女を束縛するのはよくない。


「キサラギさ―――――」


 その名を口にした瞬間、凄まじい殺気を浴びた。


「その名をお前に許した覚えはない」


「………はい」


 陛下は丸くなった。 

 でも実際のところは、負担があの人にすべて降りかかっただけなんじゃないかと思う。


 けれど、僕はただの陛下の側近。


 王の妃に関してまで口を挟む権利はないのだ。


「お力になれず、すみません」


 その謝罪が彼女に届くことはなかった。




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