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13 夢から醒める時




「グルルルッ!」


「ほう?獣風情が俺に楯突くか」


 私は今、最悪な状況にある。


「あの、ちょっと話し合いを―――」


「「スイは黙っててくれ(グルルル)」」


「そこは意見が一致してそうだね……」


 ドリート王国へ向かう途中、私は運良くクロに会うことができた。それと同時に最悪な出会いをした。


(まさかクロがここまで嫉妬深かったとは……)


 ちょうどその時、私はもふもふタイムを堪能していた。この時間は辛い旅の中で唯一の癒しだった。しかし、クロにとっては許せない行為だったらしい。


 そして現在、彼は虎に決闘を挑んでいる。



「ドリート王国が王、クロヴィス・デ・ドリート」


「ガゥガゥガウ(リアリ王国が第三王子、ルイ)」


「「いざ(ガル)―――」」


「じゃなーーいっ!!」


 両者が片方が剣を構え、片方が牙を剥き出した瞬間。


 スパーンっ


 商店で買っていたスリッパを両手に持ち、クロと虎の頭をしばく。私は基本暴力は反対派だ。しかし、衝撃を受けなければ正気に戻らない状況があることも知っている。だから、これは暴力ではなく必要な実力行使である。


「スイ、なんで……」


「ガウ………」


 落ち込む王と虎。

 両方とも凄い存在なはずなのに、なんか情けない。


「今はそんなことしてる場合じゃないでしょう」


 砂漠の真っ只中で決闘など、自殺行為だ。

 脱水症状になったらどうするんだ。


「……というか、クロ。君はちゃんと入国審査した?」


「さあ、どうだったかな」


「これはしてないな……」


 呆れていると、クロは想定外のことを言った。


「俺はこれからリアリの宮殿へ向かう」


「え、なんで?」


「まあ、話し合いだ」


 ぴくっ


 虎が耳をそばだてる。

 そして、低く唸った。


 この行動は、旅の途中で盗賊と会った時以来だ。


「………クロ、本当は宮殿で何する気?」


「………はあ、その虎は邪魔だな」


 殺してしまおうか。


 そんな言葉を言外から感じ取る。


「スイ!オレの後ろに!」


「ぅえ!?ルイさん!?」


 虎が消え、目の間に人間のルイが現れる。


「獣の皮で幼気なスイを誑かすのはやめたのか?」


「黙れ、殺戮者」


 殺伐とした空気が流れる。

 

 しかし、私にはどうしても確かめなければならないことがあった。


「…………ルイさん」


「なんだ、後にし―――」


「オアシスの宿」


 カチーン


 ルイさんの動きが完全に固まる。

 どうやら、あの時のことをしっかり覚えているようだ。


「私たち話し合うことがありますよね、ルイさん?」

 

「……………………」


 私たちの異様な雰囲気を感じ取ったクロは、静かに剣を鞘に収めた。









 オアシスの宿。

 私と虎状態のルイが少し前に泊まった所だ。


 そこは何の変哲もない宿だった。

 しかし、あの夜は異様に熱い夜であった。

 

 そのため、ほぼ全裸事件が生じたのだ。


 詳細は簡単だ。

 ほぼ全裸な状態で虎と寝た。

 何の問題もない。


 だが、その虎が人間であるなら別だ。


 私はつまり、ほぼ全裸の状態で妙齢の男性に抱きついて寝たということになる。




「ルイさん?貴方は虎の時の記憶があるということですか?」


 嘘でもいいからここで否定すれば丸く収まるのに、彼は馬鹿正直に答えた。


「…………ああ」


 その正直さに面食らう。

 そして、こんな正直者を問い詰めている自分がバカらしくなった。


「そうですか。じゃあこの話は終わりで」


「ああ………すまな、え?」


「あの時のことは墓場まで持っていってください」 


 そして、私は話を切り上げた。


 一方ルイは、はやる心臓を押さえていた。

 あの夜を思い出してしまったからだ。


 リアリ王国は性に開放的だ。だからこそ、特殊な肌の合わせ方に敏感だ。裸で肌を合わせることには抵抗感はないが、逆に着衣したまま肌を合わせると異常なほど燃える。


 つまり、ルイはその状態に陥ってしまっていた。


(この胸の高鳴りは一体………)


 ルイの熱い視線に気づいたのは、スイではなくクロだった。


「おい獣。その汚い目をスイに向けるな」


「ドリート王……!」


「彼女は()()スイだ」


「!!」


 クロの言葉にルイの心臓が急速に萎む。

 その変化にルイが目を白黒させるが、クロはさっさとスイの元へ歩み寄った。


「スイ、ドリートへ帰ろう」


 クロの言葉にスイは微笑んだ。


「もちろん、クロも帰るよね?」 


「俺は……」


「帰るよね?」


「いや………」


「帰ると言いなさい」


「……………」


 圧に屈しているのに断固として譲らないクロに、スイはため息をついた。


「そんなにリアリ王国が嫌い?」


 ルイが息をのんだ気配を感じる。

 クロに目を向けると、彼は凪いだ目で答えた。


「ああ、叩き潰したいほどに鬱陶しい」


 なるほど、蝿並に嫌っているのか。

 でも、このまま彼を行かせれば血の雨が降る。


「じゃあ、こうしよう――――」



















「第二王子殿下」


「なんだえ?朕の時間を邪魔するな」


 傍に侍らせた踊り子たちと戯れる恰幅が良い男。

 

「貴方様がご所望していた()()()()()()()が到着しました」


「………ほお?」


 踊り子たちを部屋から退出させ、第二王子はニヤニヤと笑う。


「さっさと連れてくるのだ」


「はっ。こちらに」


 ドサッ


(あイタっ)


 大きな麻袋に入れられた私は思わず声を出しかけた。


 その瞬間、麻袋の中でも空気が凍ったのがわかった。


「…………ん?なにやら寒くないか?」


「いえ、気のせいでしょう」


 呑気に会話しているリアリ王国の第二皇子たちは知らない。

 この部屋に潜んでいる二名の刺客のことを。


「どれどれ、ドリート王国の王が入れ込んでいる女の顔を拝んでやろう」


 ノシノシとした足音が近づいてきているのを感じていると。


「なッ!?」


「うがッ!!」


 ドサッ ドサッ


「「キャアアアァァァーーーー!!!」」」


 劈くような悲鳴をハーレムの女性たちがあげる。

 その声を聞いて、クロとルイが行動を開始したことを把握する。


 生憎、麻袋の中にいる私は周囲の状況を把握できず、ただただ地面に転がっているしかない。

 まあ、今回の「第二王子粛清作戦」の要はあの2人であるため、私は何もする必要ないんだけど。


 ガサガサッ


「!」


 突然、体を麻袋からすくいだされる。

 急な光に目を細めていると、私を抱える黒い影が話しかけてきた。


「スイ」

 

「…………クロ?もう終わったの?」


「ああ」


 やっと光に慣れた目で周囲を見渡すと、誰一人この部屋にいなかった。

 撒き散らされた果物や酒が、先ほどまで人がいたことを証明していた。


「帰ろう」


 優しく微笑む彼には、一切血はついていなかった。

 …………けれど、私は見てしまった。


 笑って第二王子の胸に剣を突き刺したクロの姿を、麻袋の中から見てしまった。


 恐らく彼によって音が消された空間にいた私は、今でもあの光景が現実だったと思い難い。地面に血痕はないし、浴びていたはずの返り血が彼にない。

 

 でも、差し出された手から、一歩二歩と後ずさる。


「…………スイ?」


 初めて人の死を見た。

 そして、これが夢ではなく悪夢であると理解した。


(はやく、めざめないと)


 この世界が現実であるはずがない。

 一度はこの世界の住人であるクロに現実だと説明されたが、誰が夢の中の住人の言葉を信じるだろうか。ここは夢だ。だから、私は自由に動き回って、好き勝手に行動した。


「――――目覚めないと」


「スイ?――――スイ!!」


「この夢から醒めないと!!」


 伸ばされた手が届く前に、私の意識は暗転した。



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