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11 虎と馬車と砂煙と




 ガタガタガタッ!! ガタンッ!


(あばばばば……!!)


 現在、私は暴走中の馬車に乗っている。


 誘拐されたと思ったら、その馬車が暴走するなんて聞いてない。誘拐犯たちはすでに逃げた。手足を縛られた私は逃げることもできず、ただ天命を待つしかない。


(あの誘拐犯どもめ!呪ってやるっ!!)


 いくら悪態をついても馬車は止まらない。

 多分、私はどこかにぶつかって死ぬのだろう。


 そっと目を閉じかけた時。


 ガダンッ


「!?」


「おいそこのバカ!こっちに来い!」


 天井が破壊され、太陽と砂煙が降り注ぐ。

 そして、そこから1つの腕が伸びていた。


「おい早く!……ってお前縛られてんのか!!」


「もがもが!」


「クソッ!こうなったら……!」


 助けに来てくれた誰かは、消えてしまった。

 絶望しかけたその時。


「ガルルルッ」


 虎がこちらを覗いていた。


(あ、終わった)


 私の意識はすっと遠のいた。











 目を覚ますとベッドの上にいた。


「気がついたか」


「あっ、あの時の腕の人!」


「は?腕?」


「さっきは本当に助かりました!」


 虎の耳と尻尾を持つ彼は虎の獣人だった。

 そんな彼にお礼を述べ、今の状況を尋ねた。


「今アンタはリアリ王国の宿にいる」


 どうやら誘拐は成功してしまったらしい。

 まあ、誘拐犯たちがいないから依頼達成もなにもあったもんじゃないけど。


「大体アンタはなんで暴走馬車ん中縛られてたんだ?」


「あ、誘拐されました」


 ドリート王国から誘拐されたことを説明すると、彼は眉間を揉んでいた。そして、何度も私の顔と身体をみて、首を横に振った。なんだろう、なんか失礼なこと考えられてる気がする。


「失礼なこと聞くが、アンタ誰かに抱かれたことあるか?」

 

 ルイがこの質問をした訳は、リアリ王国の風習にある。彼はスイのことをドリート王国の妾だと疑っていた。しかし、如何にも平凡な容姿のせいで決めかねていた。そこで、抱かれたかどうかを確認しようとしたのだ。


 リアリ王国では、妾となるにはまず王に抱かれなければならない。だからこその質問であり、性に基本奔放なお国柄だからこそのデリカシーのなさでもあった。


「………は?」


「いや大丈夫だ、ないんだな」


「は?」


 オブラートにオブラートを重ねる世界で生きてきたスイにとって、この質問は火力が高すぎた。


「じゃあ次の質問だが」


「は?」


 その結果、「は?」しか言えない状態に陥ってしまった。簡単に言うと、あまりのデリカシーのなさに脳がショートしてしまったのだ。


 その後、互いに意思疎通がうまくいかず取り調べは明日に回されることになった。










「ルイさんはデリカシーがない」


「すまん……。こっちじゃそういう話は結構オープンにするから……」


「は?」


「いや本当にすまない……」


 ルイさんと話しながら分かったことだが、私はどうやらこのリアリ王国と相性が悪い。


 見知らぬ私を助けてくれたお人好しのルイさんでさえ、性に関する事柄にめちゃくちゃオープンなのだ。食べ物や体とかにすごく配慮してくれるジェントルマンなのに、そこだけデリカシーがない。


「これが異文化交流か……」


 遠い目をしていると、横から視線が突き刺さった。

 そちらを見ると、すごく申し訳なさそうな目でこちらをみるルイさんがいた。


「………私も過剰に反応しすぎました。すみません」


「いや、謝るのはこっちの方だ。オレたちの国は特殊なんだとお袋にあれほど言われてたのに……」


「お母さんは違う国の人なんですか?」


「ああ、オレの母は―――」


 互いの文化に理解を示し、私たちは仲良くリアリ王国を歩いた。そして、この国は砂と太陽の国だと感じた。


「………なんだか、皆疲れた顔をしてますね」


「ああ……この国は戦争が絶えないからな」


 悲しげな顔をした彼に、私は焦った。


 言えない。私がここにいると、ドリートの王が報復に来る可能性があるとか、絶対言えない。


(ルイさんの為にも早くドリートに帰ろう)


 幸い誰かに捕らわれることもなかったし、このまま無事に帰れば誰も報復されることはないだろう。


「ルイさん、ドリート王国に帰るにはどうすればいいですか?」


「え、あー……」


 言い淀む彼に嫌な予感を覚える。


「実は―――」







 ルイは昨日の夜、ある情報を手に入れた。

 

《ドリートの王がリアリへ報復にやってくる》


 リアリ国各地で馬車が襲われる事件が多発している。そして、その犯人は馬車の内部を調べた後、忽然と姿を消すらしい。


 ルイは確信していた。ドリートの王は自分の妾を攫った馬車を探しているのだと。


 ドリートへ行くには馬車に乗らなければならない。この国は砂塵が凄まじく、騎乗して移動するには人族は脆すぎる。スイの体を考えれば、馬車しか選択肢がなかった。


(だが、馬車に乗ればドリートの王に襲撃される危険がある……)


 今は誰も殺されていないが、万一気が変われば分からない。そんな不確実な状況で馬車に乗せるわけにはいかない。


 ドリート王のことは誤魔化しつつ、スイにそれらのことを伝えた。











「え、馬車が使えない…?ど、どうしよう……!」


 このままだとリアリ王国が焦土と化す可能性がある。

 それほどまでに、クロの力は絶大だ。


 一刻も早く帰らないといけないのに……!


「………あ、そうだ!ルイさんの虎を貸して下さい!」


「………は?」














【ルイside】


 ルイは困惑していた。


 まさか人生の中で、獣型になった自分を貸してほしいと言ってくる人物が現れるとは思わなかった。


 スイはどうやら獣人の基本的なことも知らないらしい。


(――ったくどこの箱入り娘だよ)


 無知な彼女に自分がその虎だと言おうとして、はっと口を噤んだ。確かこの娘は、虎を見て気絶したことを思い出したのだ。


 自分が虎になると知れば、また気絶するかもしれない。


 ルイは優しい男だった。特に女子供には優しい。

 だからこそ、ややこしい状況が生まれることになった。


「………分かった。虎、貸してやるよ」


「ありがとうございます!これで馬車を襲われても返り討ちに出来そうです!」


 平凡な顔に見合わず物騒なことを言う彼女に、ルイは段々後悔し始めた。


 たとえ気絶させてしまっても本当のことを言うべきだったのではないか、と。


 嘘をついたことがバレれば返り討ちにされるのは自分の方なんじゃないか、と。



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