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10 レッツ誘拐



 クロは段々落ち着いていった。


 私が傍に居なくても不安になることも少なくなり、私を縛りたいという欲求も鎮まってきた。


 城の雰囲気も悪くない。


 城で働く多くの人々はクロの変化を喜んだ。

 彼らの話によると、国の雰囲気も穏やかになったらしい。


 すべてが順調だった。


 だから、残り一ヶ月になったタイムリミットのことを伝えても大丈夫だと判断した。



 ―――――けれど、それを伝えることはなかった。



















「こいつがドリート王の妾か?」


「なんか、地味だな」


 ガラガラガラ


 馬車が荒れた道を走る。 

 そして、私は手足を縛られ猿ぐつわをされていた。


「ほんとにこの女であってるのか?」


「………わからん。オレも自信がなくなってきた」


 失礼すぎる。

 この誘拐犯共、人が話せないからって好き勝手言いやがって!自分の平凡さくらいわかってるよ!


「ま、まあ、あいつらが印をつけてたんだし間違えでもあいつらの責任だろ」


 そう、私は何やらマーキングされていたらしい。

 

「匂いでわかるなんて、あいつらやっぱ獣だな」


 そして、私を誘拐するよう依頼したのは「獣人」と呼ばれる種族らしい。ちなみに、人族には獣人族を毛嫌いしている派閥がある。誘拐犯たちもアンチ獣人派らしい。


 私は落ち着いていた。

 危機的すぎて危機感が限界突破して何も感じなくなった可能性もあるが、何故か大丈夫な気がしている。


(殺すつもりなら、誘拐なんてしないだろうし)


 まあ、着いた先で殺される可能性もあるけど。


 多分、私は今も夢をみている気分なんだろう。

 異世界の現実は、私にとっては夢と同等だった。

 だから、一人称で映画を観ている気分だ。


(いつ目が覚めるんだろうなぁ)


 この世界は夢。

 だから、これは目が覚めたら終わる。


 無意識にそう思うことで精神を守った。






















【クロヴィスside】


 ドゴンッ!! バキッ!!


「……………………」


「へ、陛下……」


 スイが攫われた。

 それも依頼主は、国境で紛争を起こした国であるリアリ王国の獣人。明らかな宣戦布告行為。


 握りしめた拳はいつの間にか机を破壊していた。


「リアリにはすでに人を送り込みました」


「…………俺も行く」


「へ、陛下!」


 あの蝿のように鬱陶しい国を叩きのめす。

 二度と立ち上がれないように、徹底的に。













【側近side】


 やあ、こんにちは。

 僕はドリート王国の王の側近、ピーターだ。


 実は、不味いことになった。


 陛下の宝が誘拐された。

 それも最近鬱陶しかったリアリ王国の者によって。


 最悪な結末しか想像できない状況だ。

 陛下はリアリ王国を地図から消すつもりだし、万一キサラギ様が無事でなかったら大陸一帯が危うい。


 ドリート王国は大陸随一の武力を誇る。


 その武力とは、兵器や魔術ではない。

 個々人の純粋な武力だ。

 つまり、国民一人一人が兵器ということだ。


 かく言う僕もある分野で兵器並みの力を持つ。


 何が言いたいのかというと、そんな国のトップである王は想像以上の破壊兵器だということだ。


(このままだと、国規模じゃなくて大陸規模で存続が危うい)


 リアリ王国の馬鹿共のせいで、この大陸が終焉を迎える可能性がある。今までの陛下であればそんなことはなかったが、如何せん最近の人情味ある陛下はやばい。


「陛下、お願いしますからリアリ王国だけを破壊してください……」


 リアリ王国の滅亡は確定だ。

 後は、周辺国にまで火の粉が飛ばないよう尽力するしかない。


「キサラギ様、どうかご無事で……!」


 さもないと、大陸が焦土と化します……!


 王の側近は懸命に神とあの女性に祈った。













【???side】


「はあ!?ドリート王国の、それも王の寵愛してる妾に手を出したバカがいる!?」


「はっ、左様でございます」


「どこのバカだ!そんなバカなことをした馬鹿は!」


「第二王子、貴方様の兄上でございます」


 金と黒の毛を逆立て、丸い耳が怒りに震える。

 縞模様の尻尾はバシバシと地面を叩いていた。


「あんの馬鹿野郎がッ!!」


「殿下、一応あの方は貴方様の兄です」


「知るか!血が半分しか繋がってない奴なんか!!」


 虎の獣人である第三王子、ルイ。

 彼は衰退するリアリ王国で唯一の常識人だった。


「前はあのクソ第一王子が女で問題を起こして、今度はバカ第二王子が国際問題だと……!?」


「殿下……」


 髪を掻きむしる哀れな常識人兼苦労人に、配下が哀れみの目を向ける。この方は、毎回後始末に駆り出される可哀想な立場なのだ。


「ドリート王は洒落にならん。この国終わったな」


「殿下!貴方様が諦めたら誰がこの国を救うというのですか!」


「知らん。オレは疲れた」


「殿下ーー!!」


 自暴自棄になった唯一のリアリ王国の良心。

 彼が諦めてしまえば、この国は滅亡まっしぐら。


 宮殿から消えた第三王子を探すため、宮殿中の者が血眼になって彼を探し回ることになった。




「はー、やれやれ。もっと早くから逃げとけばよかったな」


 指名手配された第三王子のルイは、風化した土づくりの家の屋根にいた。一際高い家の屋根からは、リアリ王国一帯が見渡せる。


 そして、あるものを見つけた。


「………ん?あの馬車変だな」


 異常なスピードでこの国に向かう馬車。

 あのままだと、ボロボロとはいえ外壁にぶつかる。


「チッ、寝覚めがわりぃな」


 体はすでに馬車のほうへ向かっていた。


 馬車に乗っている奴が死ねば寝覚めが悪いし、外壁が壊れれば外敵がこの国に侵入してしまう。


 走りながら、そう理由をつけた。





 口は悪いが、根はいい子。

 それが第三王子ルイの周囲からの評価だ。




 

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