4 選ばれし者のペニスだけが地球の中心を指し示す事が可能なのだ。 そして、桃太郎は三匹の家来に裏切られる。
この四話目で最終章になります。下品な親父たちの下ネタオンパレードから卒業です。
昨日からジェットバスの装置が故障しているので、お湯が噴き出る音が聞こえない。湯船の入り口にクラブからの謝罪文が掲示してある。
『申し訳ございませんが、只今ジェットバスの超音波発生装置が故障しており、マッサージ機能が使用できません。ご入浴は可能です。』
俺はジェットバスから超音波が発生していることを、この表示で初めて知った。
とても静かだ。スパ内は停止と沈黙が支配している。
親父たちは、様々な独自のスタイルで静かに湯船に浸かっている。
湯船の端に、体育座りの姿勢でお湯に浸かっている親父がいる。目を閉じたまま頭をガクンと前に垂らし、顔を水面のすれすれまで近づけて、じっと動かない。いつもこのスタイルで長い時間、湯船に浸かっている親父のことを俺は『コクーン親父』と呼んでいる。他には、半身浴状態で湯船に浸かる親父が一人、湯船の縁に頭を乗せ寝そべった状態で風呂に浸かる親父が三人、そして足湯の状態で湯船の淵に座っているのが俺だ。親父達の姿はまるで博物館の倉庫に収容された塑像が、展示されることなく無造作に放置され朽ち果てるのを、永遠の時間の中で待っているかのようだ。しかし、親父達に永遠は存在しない。ゆっくり、繭の中で蛹が成虫に変わっていくかのように蠢き始めるのだ。反対側の半身浴状態の親父はその場で腕をクロスさせて肩のストレッチを始める。寝そべっていた親父の一人が、伸ばした足の先を片方ずつ湯船から出したり戻したりして、ゆっくりとした背泳のキックの動きを始める。隣の親父は親指でグリグリこめかみを押さえて顔面のマッサージをスタートさせる。肩のストレッチをしていた親父が湯船の中で足を肩幅に広げてゆっくりと立ちあがる。両腕をピタリと水平方向に広げる。そして、腕の身を動かして、ゆっくりと上げたり下ろしたりを始める。他の体の部分はピクリとも動かさない。レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた人体図の様だ。(後で調べたら『ウィトルウィウス的人体図』というらしい。綽名には不向きなネーミングだ)親父オリジナルの体操だろうか。この親父はとても痩せており、皮膚の下の筋肉や太い血管の動きが手に取るようにわかる。股間に脂肪が少なくて骨盤が浮かび上がって見え、そこから垂れ下がったペニスは竿の部分が細長く亀頭が大きく、その全体の容姿はまるで矢印の様な形をしている。驚いたのはこの親父が腕を動かしている間ペニスはピクリとも動かず真下を指し示していたことだ。人間の身体は繋がっている。全裸の状態で身体を動かすとそれに連動する様にペニスも揺れるのが普通の事なのだが、この親父ペニスは大波の中でも狂うこともない羅針盤の様に矢印となって、真っ直ぐ地球の中心点を指し示しているのだ。親父は80歳くらいの老人だろう。通常陰嚢の皮は年齢を重ねると、経年に亘る重力の影響で伸び、睾丸の位置が下がっていくことは知られているが、痩せ型で亀頭の大きな親父たちは、ペニス自体の全長も伸びているのではないだろうか? 俺の妄想を誘う動き出した親父たちだが、コクーン親父だけはその間も少しも変わらないで同じスタイルを貫き通していた。そして俺も、ゆっくりと湯船に浸かる。先ほどまで立ち上がって手を上下していた、『矢印親父』が、今度は湯船の縁に手を乗せて腕立て伏せを始める。それでも『矢印親父』のペニスの先端は地球の中心を向いたままで、腕立て伏せの動きに合わせ湯の中へ入ったり出たりを繰り替えしている。それは地球の中心点との性行為を試しているかのように。
その時、スパの扉が開いて新たに二人の親子連れが喋りながら入って来た。父親の方は中肉中背でどこにでもいそうな日本人の男だが、息子の方は肌が褐色で、顔は東洋人にはないシャープな印象の高校生だ。その親子二人の会話から聞こえてくるのはネイティブな大阪弁だ。インターハイ出場がどうのと聞こえてくる。スポーツの競技までは聞き取れなかったが、息子は将来有望なスポーツ選手なのかもしれない。
先に風呂にいた親父たちは、チラリとその親子に目をやるが、すぐに自分の入浴スタイルに戻っていく。しかし、一人の親父だけが動きを止めて、褐色肌をしたハーフの息子の方を無表情にじっと見つめ続けている。全く視線を外さずに無表情のまま凝視し続けているのだ。群れのテリトリーに入って来たよそ者を、値踏みする動物のようだ。多様性の時代と言われているが、日本人離れした見た目の者に対する免疫は親父達には余りついていないようだ。テレビに映る有色人種のハーフであり日本人であるスポーツ選手が、日の丸を背負って世界で活躍することは応援できるのだが、自らの生活テリトリーに入って来ることや、日本国の文化や政治、行政が影響を受けること事は、受け入れ難いのだ。日本人離れしか容姿の人間が、大臣や、警察、自衛隊の幹部になることなど想像することさえありえない。黒人やそのハーフの天皇や皇后が誕生することなど、思い浮かべることさえ受け入れられないのだ。
そんなことを考えていたら、ハーフの息子と父親が湯船から出て洗い場に向かおうとしている。この時、俺は二人の股間のペニスを見て小さな衝撃を受けたのだ。父親のペニスは、日本人に標準的な、皮が剥けた小さめなサイズのペニスなのだが、褐色の肌をした息子のサイズは、父親の倍以上もある、包茎のままの巨大なペニスだったのだ。それでも親子たちは、誰の視線も気にする事もなく、仲睦まじい様子で洗い場に向かう。人種偏見を越えて、愛する女性と結婚する覚悟があるなら、生まれた息子のペニスの大小など問題にしない広い心を持ったお父さんなのかもしれない。いやしかし、本当の心の奥底には、小さなコンプレックスの熾火がチラチラ燃えているのを覆い隠しているのかもしれないのだ。もしかしたら、少子高齢化が問題になっている日本で移民政策が進んでいないのは、男性中心社会を支配している、親父たちのペニスコンプレックスが理由の一つではないのだろうか。そんなことを考えていたら『コクーン親父』はいつの間にかスパから消え去っていたのだった。
親父たちはそれぞれに誰かを愛しているか、愛したい、愛されたいと心の底で考えている。
親父たちの中には、陰毛をきれいに剃って股間が無毛状態の奴らがいる。その目的は、自らの美意識、嗜好のためなのか。陰毛を剃ってのセックスは陰毛がある時より、感度が良くなり興奮すると聞いたことがある。パートナーの意向に沿っての行動なのかもしれない。
実際にスパの洗い場で隣の親父が陰毛を丁寧に剃っているのを見たことがあるが、親父の表情は、真剣そのもので、その作業に必要な根気と集中力を物語っていた。
そして、俺はその時、姉が修学旅行に行く前の晩、カミソリを使って足の毛を丁寧に剃っているのを思い出していた。俺は、人が手を使って集中し作業をしている姿を見ると、催眠術をかけられたかのように気持ちが落ち着き、ぼんやりとした状態になることがある。その時も姉が足の毛を剃るのを、放心した面持ちで見ていたのだ。そして、俺が修学旅行に行く前日、姉にすね毛を剃ってもらった。姉の丁寧な手の動きと、カミソリの通った後にすね毛がなくなる皮膚の変化をぼんやり眺め、気持ちよくなり、不思議な幸福感が広がっていくのを思い出す。俺が初めて丁寧な手作業を見て幸福な気持ちになった記憶は、小学2年生の頃だ。学校のストーブが故障した事がきっかけだった。修理に来た業者の中年男性がストーブを丁寧に解体し、故障部品を交換、再び組み立てている作業をじっと観察している時だった。人が行う丁寧な手作業には見ている者を引き付け、穏やかな気持ちをもたらし、脳内に幸福に繋がる物質を放出する作用があるのだろう。それにひきかえ今、俺の隣で体を洗っている親父の雑さ加減は、脳内にイライラする物質を放出させている。中腰になってシャワーヘッドを股の下に入れ、肛門から陰嚢周辺を洗い流し、そのまま連続してシャワーで顔を洗い、そしてシャワーのお湯を口に含みうがいをする。その間、シャワーのお湯が辺りに飛び散り続けるのだ。親父が肛門や股間を洗っている時も、俺の顔に跳ね返ったお湯が飛んできたのだ。しかし、こんな親父でも帰るときは、スポーツクラブ受付横のロビーで嫁さんと待ち合わせ、仲睦まじい夫婦として帰って行く。この嫁は、連れ合いがスパの洗い場で、下品な迷惑行為をしているのを知っているのだろうか?それとも、まさか自分自身も女性用のスパで同じようにシャワーを使って肛門や股間を洗っている、似た者同士下品丸出し夫婦なのだろうか。
2月2週目の日曜日、トレーニングを終え、いつものようにサウナを出て水風呂に入り、そのあと湯船の淵に座って自分のペニスの伸び縮みを見ていたら、ゴルフの松竹梅親父たちの話が聞こえてきた。
「なんで竹ちゃんだけお菓子もろたんや」
「荒川さんにスイングを撮った動画を送ったんですよ。そのお礼ですよ」
「竹ちゃんにも遅い春が来たんちゃうんかいな」
「バレンタインデーはまだですやん」
竹中は独身で彼女もいないようだ。松竹梅ゴルフグループに新しい女性が入ったらしい。
「バレンタインデーは平日やから、先に渡してくれたんやろ。ホワイトデーのお返しなんか作戦考えんとあかんな」
「はあ・・・・・」
竹中が煮え切らない返事をしている時、スパに若い男が入ってきた。初めて見る顔だ。十代だろうか。色白で少しポチャリ体形、髪型は少し長めのくせ毛、体毛は少ないようだ。長いまつ毛、くりくりした目をしており、眉毛は太めできりっとしているが童顔の印象が強い。包茎の柔らかそうなペニスも色白の皮で包まれており、まだ成長途上だ。
俺は彼を見て何故だか昔話の『桃太郎』を思い浮かべた。そして、彼のような柔らかそうで、小さくかわいらしいタイプの男が、遠洋大航海の大海原、閉ざされた船の中で女の代わりを求める荒くれた男たちの性欲処理の奴隷となるのだろうとイメージしてしまう。そして俺の想像の中で、このスパに集うお馴染み親父たちが、赤色や青色の多種多様で邪悪な鬼となって『桃太郎』を入れ替わり立ち替わり輪姦するのだった。
俺はゲイではない。俺の性欲の対象は、成熟した成人女性だ。肛門は排泄のためにだけ使いたいと思っている。排泄物の残り滓があるかもしれない肛門にペニスを挿入することなど想像する事もしたくない。しかし、この時の想像、イメージの入り口に立ってしまったことが、後々苦いしっぺ返しを食らうことになるのだった。
『桃太郎』とは、その後、すぐに会うことはなかったが、一週間後、俺がサウナに入ると彼もサウナの上段に座っていた。俺も空いていた隣に座り、黙って数分過ごす。同じタイミングで彼の後に続いてサウナを出たとき、『桃太郎』の汗を噴いた白い尻と背中を見ていると突然、掴みかかりたい衝動が俺の身体中に起き、その尻から目が離せなくなっていた。そのまま一緒に並んで水風呂に入ったのだが、混乱した感情を平静に戻すことに精一杯で、水風呂を楽しむ余裕はまったく無くなっていたのだ。水風呂の冷たさではなく、自分の感情の乱れが辛くなって、先に出て行き、いつものジェットバスの湯船の淵に座って時間をやり過ごした。その後『桃太郎』の存在を意識しないようにしてスパを後にした。家に帰ってから、今日サウナを出た後で起こった感情の処理をするため、俺は俺を外から見直した。そして一時の発作のようなものだと結論し、感情をリセットすることに成功したと思っていたのだが。次の日はパウダールームの鏡の前で髪を乾かしている『桃太郎』を、次の日はスパで体を洗っている『桃太郎』を、次の日はロッカールームで服を脱いでいる『桃太郎』を、三日間連続で目撃することになった。四日目には『桃太郎』に会えなかった。そして、五日目には、『桃太郎』の姿を探している自分を見つけることになってしまっていたのだ。その後二日間、『桃太郎』を見かけることはなかった。次の日、俺がパウダールームで濡れた頭を乾かしている時、隣の椅子に突然『桃太郎』が現れた。いや突然ではなかった。俺が彼を探していたからこそ、突然と感じてしまったのだ。これでは恋する乙女が恋する相手に出会うことを突然と感じてしまうことと同じではないか!そのことに気が付いた俺は、ここでもまた、『桃太郎』によって感情が揺さぶられている事にイライラしだしたのだった。が、もう遅かった。次の日もスポーツクラブに向かう途中から、俺は『桃太郎』に会うことを思い浮かべていたのだ。ロッカールームに入ると、空いているロッカーを探すふりをしてうろついていたが、本当は『桃太郎』が見つかることを期待していた。ジムでトレーニングをしている時も、無意識に辺りを見回していたり、誰かが入って来たら、すぐそちらに目を向けたりしていたのだ。
或る日、スパへの入り口とプールへの入り口が分かれるスペースで、『桃太郎』が水着姿でプールに向かうのを発見した。水泳が得意ではない俺は、プールに行くことは殆どない。夏の暑い日、涼むのを目的で水中歩行をするくらいだ。しかし、次の日は寒い中、用意していた水着に着替えプールに向かった。プールのエリアに入ってみると、ジュニアのスイミングスクールのレッスンが行われていた。沢山の子供たちの歓声、熱心なコーチたちの掛け声が聞こえてきた。生徒たちの熱気と暖房の利いた高い室温と高い湿度にプールの水を消毒する為の塩素の匂いが混ざりあって、俺はむせ返るようだった。
そこに『桃太郎』を見つけることは出来なかったが、後から来るかもしれないし、そのまま帰るわけにはいかないので、一番端の水中歩行専用コースで俺はしばらくの間歩くことにした。8コースある25メートルプールの内4コースを使ってスイミングスクールの子供たちが練習をしている。大勢の子供たちがクラス分けの為、色違いのスイムキャップをかぶって、激しく水しぶきを上げ練習に励んでいる。中央のコースでは、黒のスイムキャップをかぶった、上級の生徒が見事なクロールで一人ずつ泳いでいる。どうやら記録会が行われているようだ。プールサイドから派手なバスタオルを肩に掛けたミズシマさんが、ストップウォッチとクリップボードを持って、スタートの合図を出し、生徒が懸命に泳いでいる間、大きな声で激励の言葉を投げかけているのだ。
「キック!キック!キック!」「もっと!もっと!もっと!」「頑張れ!頑張れ!」
子供たちが激しく水飛沫を上げ泳いでいるその隣、一般会員用のコースでは細い材木のような腕を非常にゆっくりと回転させてクロールで泳ぐ老人がいた。子供たちとこの老人では、時間の進み方が全く違うようだ。よく見るとその男は、以前、スパ内で出会った矢印型のペニスを持ち、ダ・ビィンチの人体図ポーズをとって、そのペニスで地球の中心を指し示していた親父だった。からくり人形のような動きのクロールで隣の子供たちの十倍ほどの時間をかけて、非常にゆっくりと泳いでいるのだ。しかも俺が来た時から帰るまで30分以上あったが、その間全く休むことなく泳ぎ続けていた。スパで矢印ペニス親父がしていた体操は、特別な訓練の意味があったのかもしれないと改めで思い直す。
そして、俺が歩いていたコースの反対側の一番端のコースでは、イトウ君がコーチ用のスイムキャップをかぶり、スイミングの指導をしているのを発見したのだ。大きな声を出して、リズミカルに手を叩き、中級の子供たちにバタ足の練習をさせている。遠くから見ても、その顔は熱意と集中で輝いていた。スイミング生徒の子供たちは七人。お揃いのオレンジ色のスイムキャップを、小さな頭にかぶって練習に励んでいる。
遂にイトウ君は念願かなって七つのドラゴンボールを見つけたのだった。
それから何回かプールに行ってみたが、『桃太郎』を見つけることはなかった。そして、会えない状態がしばらく続き、想像が膨らむばかりで、俺にとって彼はますます気になる存在になってしまったのだ。イメージの入り口から、すっかりその中に入ってしまい、その罠に俺はすっかり縛りつけられていた。
翌週の金曜日、残業で遅くなった俺は、軽い食事をしてから22時直前、スポーツクラブに入った。平日、クラブの退館時間は23時だ。トレーニングをするか、スパに入るか悩んだが、翌日は休日なので家に帰ってから遅い風呂に入っても問題ないと判断し、筋トレをすることにした。着替えてトレーニングエリアに向かうと、利用している人は、5、6人だけだったが、その中に、『桃太郎』がいたのだった。スマホの動画を見ながら、エアロバイクで汗を流している。何とも表現できないものが入り混じった気持ちが、俺の体温を上げ全身が熱くなる。筋トレをしている間、時々彼を見ていたら股間の中心部が疼きだすのがわかる。細胞の奥深く、DNAやヌクレオチドから喜びが溢れ出しているようだ。
そして、再び彼とサウナを共にし、一緒に水風呂に入ることを妄想するのだった。水風呂の中で、桃太郎の股間に手をまわした俺は、柔らかく白いペニスを優しく包み込む。『桃太郎』のペニスは徐々に固くしなやかに勃起する。水の中で俺が口に含むと、『桃太郎』は痺れるような快感に身体をのけぞらせる。さらに膨らんだ妄想は、冷たい水の中、カウパー線液に包まれた俺の精液が連なり、くねくねと泳ぐ線虫となり、彼の柔らかい尻にゆっくりと近づいて行くのだった。話したい。彼と話をしてみたい。しかし、どうしたらよいのだろうか?何の会話をきっかけに始めたらよいのだろうか?狂った妄想と平凡な望みが繰り返し頭に浮かぶ状態で、身の入らない筋トレをしていたら、施設利用終了時間が近づいていると放送があり、『桃太郎』は汗を拭きながらロッカーに戻っていく。俺もロッカーに戻ったが、どこを探しても彼はいなかった。もしかしたら、着替えないで、靴を履き替えて、上着を着ただけで帰ったのかもしれない。俺が着替えている時、優しい音楽が流れだす。このスポーツクラブの終了時間を知らせる音楽は『蛍の光』ではなく、何故か『ホーム・スイート・ホーム』なのだ。帰り道、郷愁を誘う優しいメロディが繰り返し頭の中に流れ、俺の性的に高揚した気持ちを静めていく。しかし、その夜に夢の中で俺は、身勝手で狂った妄想に対する罰、厳しい仕打ちを受けることになる。
その夢の中。スポーツクラブのスパで、俺はいつもの湯船の淵に座っていた。いきなり孤『独な老人』な湯船の中に現れ目の前に立っている。
「あんた、あの子、好きなんやろ」
水風呂の中の『桃太郎』を指さし、無遠慮に俺を問いただすのだ。
返事に困っている俺の言葉を待たずに『孤独な老人』が続ける。
「『ヘラクレスさん』も、あの子がお気に入りのようやで」
サウナの扉が開き、汗だくの男が、ヘラクレスオオカブトの幼虫のような巨大なベニスを股間にぶら下げ出てくる。水風呂にいる『桃太郎』を見た『ヘラクレスペニス男』は、彼に語り掛ける。
「お前、かわいらしいな。俺の『ヘラクレス』で貫いてやるよ」
嫌がる『桃太郎』を『孤独な老人』と、いつのまにか現れた『親切マッチョマン』と『もぐら親父』の三人で水風呂から引きずり出す。『モグラ親父』がとてもいやらしい顔で俺を見て嗤っている。『ヘラクレスペニス男』の股間から赤黒く太い棒がゆっくりと湯気を立てて立ち上がる。それを見ていた俺は、桃太郎を助けようとしたが、身体が石のように固まり動くことができない・・・・・・
動けない俺の耳に、男の荒い息遣いと恐怖で歪んだ悲鳴が聴こえてくる・・・・・・・
風呂場の湯気と精液の混ざり合った匂いが辺りに充満する・・・・・・・
夢を見た次の日、スパで『桃太郎』を見つけたが、話しかけることは出来なかった。
やはり、彼はこのスパでは、静かに守護されるべき存在ではないのだろうかと俺は思い込むのだ。スパの入り口では、『モグラ親父』がイトウ君に水風呂の温度についてクレームをつけていた。俺が、怒りと狂気に支配されたこのスパの親父たちかか『桃太郎』の静かな日常を守らなければならない。しかし、狂っているのは俺ではないのか。勿論、その通りだろう。人間は年齢を重ねる毎に積み重なっていくイメージの氾濫を処理する能力が低下していき、人生を正常に理解し、押し進めることが段々難しくなるのかもしれない。そして、それを軌道修正することも難しくなるのだ。
『桃太郎』がこのスポーツクラブで、おかしな人間に変わっていくのを、狂った俺が護って防がないといけない。俺は頭の中で、おかしな正義感がその支配を広めていくのだ。
でもどうすればよいのだろう。出来るだけ『桃太郎』と同じ時間帯にスポーツクラブを利用しなければならない。同然スポーツクラブの滞在時間が長くなる。クラブに早く来て遅くまでいることが多くなり、休日には朝から晩までクラブに居ることになるのだ。クラブに来て何もしない訳にはいかないので、運動過多になり俺は疲労困憊だ。スパでも彼が来るのを待ち彼が出るまでそこにいた。風呂に入る時間も長すぎて肌が荒れてくる。俺は自分がどんどんやつれていくのがわかった。それでもその甲斐があり『桃太郎』と同じ場所で同じ時間を過ごすことが多くなった。プールで泳ぐ『桃太郎』も見ることができたのだ。それほど泳ぎは上手いとは思わなかったが。プールを出た後の寒さで、彼のペニスが萎んだ風船のようになっているのも見ることができた。しかし、まだ彼に話しかけることができない。『桃太郎』が『親切マッチョマン』に筋トレ器具の使い方を教えて貰っているのも目撃したし、プールサイドで女性スタッフと笑顔で話しているのも見た。俺はなんと声をかければよいのだろう。かれと何をしゃべればよいのだろうか。見ているだけでは彼を護ることは出来ないことは判っているのだが。
そして、その日、スパの洗い場で『桃太郎』は一番端の洗い場で頭を洗っていた。俺は一つ間を空けた席で彼の様子を覗いながら身体を洗っていた。頭を洗い終わった『桃太郎』がシェービングクリームと取り出しその泡を手に取り、足全体に塗りだしたのだ。そしてT字カミソリで丁寧にすね毛を剃りだした。その様子を見た俺は修学旅行の前の晩、姉が足の毛を剃っていたこと、そして、自分の修学旅行の前の晩、姉にすね毛を剃ってもらったことを思い出した。そして、そのような手を使った作業を見ている時に、自分の頭の中に広がっていた柔らかい幸福感のことも思い出していた。しかし、『桃太郎』がすね毛を丁寧に剃っているのを見ていても、なぜか、俺に幸福な感情がわき起こることは無かったのだ。それどころか、俺の心を乗せた列車が進む線路の先の分岐点でポイント切り替えが起こったように『桃太郎』に対する気持ちの向きが変わったのを実感したのだ。俺が見つけたのは、若い男性が単に、見栄えをよくするためすね毛を剃っている姿だった。俺が『桃太郎』に抱いていた彼が無垢な存在であるという勝手な思い込みが正されたということだろう。俺には、久しぶりに自分がフラットで平安な精神状態に戻ることができたという安心感が沸き起こっていた。これで、俺は『桃太郎』の存在に振り回されることもなく、スポーツクラブ平穏に利用することができるだろうと思ったのだ。そして、それから暫く平穏にスポーツクラブを利用していたが、ある日、『元桃太郎』がジムにいる姿を見て驚いた。右手にグローブのようにギブスをつけて、エアロバイクでトレーニングをしていたのだ。手首か、指を怪我したのだろう。最近は怪我や病気をしても、日常生活への復帰のリハビリ開始が早くなると聞いているが。怪我の炎症が残っているなら、エアロバイクで血行が良くなることは問題ないのだろうか。彼は医者の指示をキチンと聞いているのだろうか。少し心配になった。しかし、手の怪我でもトレーニングを続ける、彼の前向きな姿勢にたくましさを感じるのだ。その時、彼がエアロバイクのハンドルに引っ掛けていたタオルが下に落ちた。俺は素早く歩み寄って、タオルを元の位置に戻してやった。ブルートゥースイヤホンを付けてスマホ動画を見ていた彼は、軽く頭を下げ、無言で感謝を示してくれた。俺は、自分のことを、トレーニングしている彼を見守りそして励ます兄貴的な存在だと想像してしまうのだった。
次の日、右手のギブスの上から透明のビニール袋を巻いてスパに入る彼を見たが、左手でだけでシャワーを扱うのは難しいようだった。それに足の脛にポツポツトと黒いすね毛が目立ち始めている。シェービングクリームを塗って髭を剃っていた、俺は、本気と冗談半々の気持ちで彼に近づき「すね毛が伸びてきたね。これで剃ってあげようか」と新品の使い捨てT字カミソリを示したのだ。最初は、俺が言っていることが解せない様子だったが、『桃太郎』の表情がしだいに困惑、恐怖、最後は憤怒に変わっていく。『桃太郎』の表情が変わっていくのと同時に、俺の喉を後悔のロープが締め付けてゆくのだった。そして、『桃太郎』は周りを憚らない大声で怒鳴りだしたのだった。
「いつも見とるやろ!」
「どっ」
「人のチンポばっかり見とるやろ!」
「みっ」
「気持ち悪いんじゃ!おっさん!近寄んな!どっかいけ!」
「そっ」
了
この小説はソナタ形式で書かれたものです。主題は「ペニス」。副主題は「ドラゴンボール」でしょうか。その辺も考慮してラストは『ドミソ』にしました。
私がスポークラブのスパで衝撃を受けた、初めての出来事は、サウナで座る時にお尻を熱から守る座布団代わりのウレタンシートに、ウンチが着いていたことです。ウレタンシートは使う前にシャワーで洗うのですが、洗う前にウンチが着いていたのを見つけたのです。前に使用していた人のお尻にウンチが残っていたのか、おならをしたところウンチが出てしまったのでしょう。私は善人ですので、ウレタンシートのウンチを洗い流して保管場所に戻し、違うウレタンシートと交換してからサウナに入りました。ここまで読んでいただいた皆さんも、サウナで使用するウレタンシートの座布団を使う時は気をつけてくださいね。