死神の鎌
自分的には嫌いな分類の小説です、感情が先走りすぎです
見ないことをお薦めします。
それでも見たい人はどうぞご覧ください。
評価は随時お待ちしております…
「では、思い残す事はありませんね?」
狭い倉庫のような場所でスーツを着込んだ男が胡散臭い笑顔を顔に貼り付けて私の肩に手を置いた。
関係のない話だが男のスーツ姿はまるで似合っていない。
「この死に方を選ぶ人少ないんですよ、手間とか色々とかかるしそれにとっても…」
まるで私の顔色を伺って反応を楽しむように男は少し間をあけた、そんな事はわかっている。
「苦しくて醜い死に様になりますから。」
男の言葉は私の期待した通りだった、期待…と言うよりは『そうでなければ困る』と納得するような感覚だがどうやら私の選択は間違っていないらしい。
「はい、そうじゃないと困りますから、お願いします。」
そう答えた私に男は口づけでもできそうな程顔を近づけてきた、睫が長くて綺麗な顔立ちだ、彼はまだ楽しそうに笑っている。
「実を言うとコレにする人はそれぞれ色んな理由があるんですよ…」
「……理由?」
一瞬なんの事だか検討もつかなかったがすぐに理解する事ができた。
コレ、というのは多分死に方の事だ…、そして男が私に求めているのは恐らくその動機だろう。
「…言いませんよ…」
「別に、聞こうなんて思ってませんよ、だいたいわかりますから…」
飄々とした男の言い方に少しばかり腹が立ったがグッと抑えた。
ここで怒鳴りつけても私に利点はない、ただ彼を楽しませるだけだ。
私が憤慨しないのをわかっていたのかそれも関係なく続けるつもりだったのか男はまた話し始める。
「私の見た事があるのは…そうですね…、基本的には3つ、一番メジャーなのは病気に蝕まれた人や、死にたくもないのに死ななくてはならない人とかが選ぶ場合ですね…、まぁメジャーと言ってもそんな人達も少数な訳ですが…、なぜだかわかります?」
「興味ありません…」
だんだんと苛立ちが酷くなり、抑えるのが難しく感じだした、しかしそんな私に男は少し距離を開けただけでまだ話す。
「最後に『私は生きている…』と言うことを目一杯感じたいらしいですよ?、バカですよね〜、それを感じたら次に感じるのはそれを失う恐怖なのに、あ…!、もう一つは最高の苦しみを味わいたいっていう輩ですね、まぁこういう輩は言ってしまえば痛みと快楽をすり替えた頭のイかれた変態ですがね。」
「っ…!!」
まるで重く濁った泥土のような感情が、私の中で溢れだした。
苛立ちはいつのまにか怒りに変わっていたのだ。
まるでバカにされているようで…。
まるで『どうせお前もそんな理由だろ?』、と囁かれているようで…。
私の手は私の意識とは別で男に掴みかかっていた。
一言…、たった一言だけ怒鳴りつけたかった。
「あなたに私のなにが…!!」
しかし私が怒鳴り終えるより早く彼は耳元で呟いた。
「わかりますよ…、だって最後はあなたみたいに自分の罪の贖罪として苦しもうとする人ですから…、わからない訳がないですよ?、だって前説のどれより一番愚かで醜い理由ですから。」
男の顔はまるで『思惑があたった』と喜ぶような汚くていやらしい笑顔だった。
何かが崩れたような音がして、目の前には男の靴が見える。
崩れたのは私の足だった。
「贖罪?、ひ弱な分際で偉そうに…、お前が苦しみ抜いた死に、お前の犯した罪ほどの価値はないんだよ?」
体が震えた、屈辱と悲しさ…、なによりすべてを見透かされた恐怖に涙が零れそうになった。
そして掴みかかった時と同じように私の意識とは別に…、無意識に呟いていた…。
「どうして…」
『やめて…』
心はその言葉を拒絶した、しかし重い泥土は簡単に溢れ出して止める事はできなかった。
「どうして…、そんな酷い事…」
すでに声は震えていた、同時に抑えていた涙が涙腺を壊したように溢れる。
男の顔が滲んでいるが微かに見えた。
楽しそうに笑っている、冷たく…、ただ…、笑っている。
「見てわかるように私…、性格が悪いんです、この仕事もこれが楽しみでしているんですよ。」
そう言って男は倉庫の扉を開けた。
「待って!」
必死に、無我夢中に私は男の腕を掴んだ。
しかしその腕は簡単にするりと抜ける
その時見えた男の顔に笑みはなかった。
遊び古して飽きた玩具をみるような、冷たい軽蔑しているような顔がそこにはあった。
しかし彼の顔はまたすぐ笑顔に戻る
肩が冷たい何かに掴まれた。
それが男の手だとすぐにはわからなかった。
最初は確かに人の暖かさがあったのだ…
今は…、まるで…
「それでは、自己嫌悪と嘔吐するほど醜い最後をどうぞ楽しんでくださいね…」
鋭い死神の鎌のように冷たかった。