楽しい縄跳び
「千回跳べたら、出してあげる。いくよ!一、二、三、四、五……」「簡単、簡単!」軽やかに縄を廻し跳ぶ少女と向かい合い、縄跳びに誘われたアケミは楽しそうにリズミカルに跳んでいる。「十一、十二、十三……ねえ、アナタ何年何組?」「えっ?わたし……四年……」「十七、十八……」縄を廻す速度が上がった。「えっ?ちょっ……は……やい!」「二十一、二十二、二十三、二十四……」更に速くなり、その速さに追い付けない。「速いって、止めて!出して!」「二十八……」「ああ……っ!」あまりの速さにアケミは縄に足をひっかけた。その拍子に転んだアケミを見下ろし、少女はほくそえんで言った。「縄跳び下手な子、いらない子」少女が思いきり廻した縄に入った瞬間、アケミの姿はどこにもなかった。
「新條アケミさんが最後に目撃されたのはこの公園……」「情報によりますと、同じ年くらいの子と縄跳びをしているところを見たっきり、と言う事らしいです」噂を耳にしアケミを助け出そうと訪れたのは、霊感少年、垣間封治と幽霊少年の亜曽琵盛だ。封治は伸びた前髪をかき上げ、普通の人には見えない第三の眼差しで公園を視る。「霊魂、見っけ!」封治の眼差しが捕らえたのは、縄跳びで遊ぶ少女。盛にも当然視えている。縄跳びの少女は不機嫌な様子を見せ、斜に構えた姿に出る。「お邪魔虫が!あたしを封じに来たんだな!そうはいくか!あたしはずっと、縄跳びで遊ぶんだ!」敵意むき出しの言葉を吐き出し、縄跳びの少女は封治、盛を睨み付けた。「遊び盛りの魂です。ボクと趣味が同じです」「話が通じるかも知れないぞ、交渉してみるか」封治は縄跳びの少女へと歩み寄ると、縄跳びの少女は憎しみ全開の顔を見せる。「封じるのが目的な奴なんかに、心は許さないよ!」(安心して、封じるんじゃない……送り出すんだ)心から語る封治には、偽りの気持ちなどない。穏やかな情のみを放つ封治と、彼に寄り添う盛。二人に在るのは無垢な心。「信じてください。ボクらは貴女を救います」(だから、今まで連れていった子達を返してくれないかい?)二人を睨んでいた縄跳びの少女は彼らの心を見たうえで、切り返した。「じゃあ、あたしと縄跳びで勝負しな!縄跳び千回跳べたら、皆を返してやるよ!」思うように事が運んだ。遊びなら盛にも自信がある。「では、入ります!」(宿します!我がタマトモ)盛が封治の体内に入った。封治に遊びの才能が宿る。「ふん!……お兄さん、お入んなさい♪」「ありがとう♪」少女が廻す縄に封治が軽やかに入った。「一……千!はい、千回跳び、成功!」封治の霊力と盛の遊び心が合わさり、一瞬で縄を千回廻せた。「……な、なんて奴。千回跳びきるなんて……」「約束だよ、皆を返して。君の事も送り出すから」縄跳び遊びはもう終わり。縄跳び少女は、普通の少女に戻った。「ありがとう、さよなら」(もう車にひかれないで……上手に空に行ってね)少女が空に向かう間縄跳びの音がしていたが、その音は遠くなっていった。