栗ひろいにいくよっ!
※ 武頼庵(藤谷K介)様主催『この秋、冒険に出よう!!』企画参加作品です。
来週は秋の三連休があります。そこで、パパからすてきな提案がありました。
ゆんちゃんの一家4人と、おじさんの一家3人で、ブドウ狩りに行こうというのです。
「えっ、かりんちゃんも来るの!?」
大好きないとこのかりんちゃんも一緒と聞いて、ゆんちゃんは大はしゃぎです。
パパとママは、行くところのパンフレットを見ながら打ち合せしてます。そこは、くだもの狩りなども色々楽しめる大きな牧場で、お昼はみんなでバーベキューなんだそうです。
ゆんちゃんはもうウキウキで、ママのうしろからそのパンフレットのイラスト地図をながめてたんですけど、その目がある一点に止まりました。
「あっ、ねぇ、『栗ひろいもできます』ってかいてあるよ! ゆんちゃん、栗ひろいもやってみたいっ!」
「うーん、栗拾いかぁ……」
あれ? パパはなんだかむずかしい顔です。ゆんちゃんがやりたいということには、たいがいOKしてくれるんだけど。
ママもずいぶんむずかしい顔です。
「そうねぇ、ゆんちゃんにはまだ早いんじゃないかしら」
「えっ、なんで!? ゆんちゃん、ちゃんとひろえるよ! 栗ごはんにできるぐらい、いっぱいひろってみせるよ!」
「──あのなぁ、ゆん。栗拾いをナメちゃダメだ。栗拾いって、実はとてもあぶないんだぞ」
そう言ったのは和也兄ちゃんです。すぐにスマホを操作して、何かを見せてくれました。
──え? お兄ちゃん、今ウニはカンケイないよね?
「いいか、ゆん。これが『栗』だ」
「え? これってウニじゃないの?」
「色が違うだろ? これが『栗』の本当の姿なんだ」
まわりにびっしりとトゲが生えた姿は、ゆんちゃんがイメージする栗とはだいぶちがいます。この中に、あの栗が入ってるんでしょうか?
「もちろん、トゲが刺さったらものすごーく痛い。素手で触るなんて絶対ダメだ。
長靴でカラを開いて、トングで中身を取り出すんだ。
いいか、刺さってしまったら最後だぞ、もうトゲは抜けないからな。身体の奥にどんどんもぐってしまって──命にもかかわる。やめておいた方がいいぞ」
「だいじょぶ、ぜったいさわらないよ!」
和也兄ちゃんが怖い顔で言ってきますが、こんなことであきらめるようなゆんちゃんではありません。むしろ、やる気に満ちあふれちゃってます。
パパとママは、何だか祈るような顔で和也兄ちゃんの顔を見つめています。
「──そ、それだけじゃないぞ。栗だって食べられたくないから、ゆんに襲いかかってくるんだぞ。
木の上から、頭や首筋を刺してやろうと、飛びかかってくるんだ」
「なら、ぼうしもかぶるし、ぶあつい服もきて、ガードするよ!
ゆんちゃん、栗ごはんのためなら、イノチガケでがんばるっ!」
ゆんちゃんの宣言に、和也兄ちゃんはしばらくぽかーんとしてましたが、ため息をついてパパとママに言いました。
「──ごめん、僕には説得は無理だわ。もうあきらめて」
さあ、いよいよ当日。
まずはお昼のバーベキュー。ここではパパとおじさんが大かつやくで、どんどんお肉や野菜を焼いていきます。
そしてお腹がいっぱいになったら、いよいよ栗ひろい。ここでお腹をすかせてから、その場でも食べられるブドウ狩りに行くんだそうです。
ゆんちゃんはもちろん、長そでシャツに長ぐつ、麦わらぼうしで完全ぼうぎょ。左手にバケツ、右手に金属のトングを持って、気分はすっかりゲームやアニメに出てくる『冒険者』です。
「──和也兄ちゃん、ゆんちゃんはもうじゅんびバンタンだよ」
意味もなくトングをカチカチ鳴らして、気合いも十分です。
まだ小さいかりんちゃんはそろそろ『おねむ』なので、おばちゃんと一緒にベンチでひと休み。おばちゃんが日傘をさしてるから、上から栗がおそってきても大丈夫なはず。
「いくよ、和也兄ちゃん。ゆんちゃん、かりんちゃんにいいとこ見せるんだから」
「ああ、まあ、怪我だけはすんなよ」
それからしばらく、ゆんちゃんたちは栗林の中で、栗ひろいを楽しみました。
落ちている栗のイガは、たいがい一部がもう割れています。そこを足でぐいっと広げて、中の実を取りだすのです。
お持ち帰りできるのは一人につき小さめのバケツ1つ分なので、できるだけ大粒のものをじっくり選びます。
もちろん、一番はりきっていたのはゆんちゃん。かりんちゃんの分まで集めて、鼻高々です。
「ふう、これでおわり! ゆんちゃん、がんばったよ!」
そう言って、ゆんちゃんは自分のバケツからひとつ栗を取り出しました。イガから取り出した栗は、おむすびにも似た形で、きれいな赤茶色をしています。それを顔より高く持ち上げて、うっとりと見つめます。
「ツヤツヤしてて、きれいだなぁ。おいしい栗ごはんにしてもらうからね」
でもその時、ゆんちゃんはあることに気づきました。栗の表面にぽつんと小さな穴が開いてるんです。
「あれ、何だろうこのあな──?」
ゆんちゃんはよく見ようと、栗を顔に近づけます。そして中をのぞきこもうとした時──穴の中から、白いヒモみたいな小さな虫がにょろんと顔を出したのです!
「────う、うきゃあああああああああああっ!!?!」
実は、ゆんちゃんは大の虫ぎらい。その大っきらいな虫が、目に入るくらいの距離でいきなり『コンニチハ!』したもんですから、さあたいへん。ゆんちゃん、完全にパニックです。
バケツもひっくりかえしてママのところにあわてて飛んでいき、しがみついてわんわん大泣きしてしまいました。
「あー、しまったなぁ。ゆんにはこっちの方が危険だったかー」
和也兄ちゃんがぽりぽり頭をかきながら、こぼれた栗を拾い集めています。
「虫食いのやつは僕がよけておくから、もう心配ないよ」
そう言われても、ゆんちゃんはずっと泣きっぱなしです。もう、かりんちゃんにいいところを見せるどころじゃなくなっちゃいましたね。
ゆんちゃんの初めての栗ひろいは、ちょっぴり苦い思い出になってしまいました。
でも、ゆんちゃんの栗好きは相変わらずです。
ただ、しばらくのあいだ、ゆんちゃんは変なクセが身についてしまいました。
栗ごはんや栗の入ったお菓子を食べる時、一粒ずつ取り出してじっくりと見て、虫の穴がないことをたしかめずにはいられなくなっちゃったんです。
※ 作中の和也兄ちゃんの話はもちろん大嘘です。栗のトゲは普通に抜けますし、栗は人間に襲いかかってきたりもしませんw
ただ、落ちてきて頭に当たったりする危険はあるので、帽子はお忘れなく。