オールドターキー
巨大な鉄屑が、まるで隕石のように唸りをあげて降り注ぎ、鋭利な鉄パイプがアルキの顔面に突き刺さる。と思われた直前で、すべてが弾かれる
とんでもない質量を持つはずの鉄屑は、まるで軽いブロックのおもちゃのように弾け飛んでいく
「――キャ〜!って、えっ?……」
先程まで90メートルもの上空から落下していたはずが、落ちていない……落ちていないどころか、アルキ達4人は、上空に上がっている。宙に浮いている?と思わせるほど、軽やかに空を飛ぶ
襲いくる「鉄屑隕石」を弾き、反動を利用するように空を駆け上がっているのだ
「――ちょっ!アルキ……空飛んでる!」
「カハハハ!こりゃぁ愉快だ!」
「――えっ?……誰?」
「あん?オレは「ターキー」だ!カハハハ!」
「――?「ターキー」ってどういう事?……アルキじゃないの?」
杏子の右手には梅が、その杏子を胸に抱き、右手で気を失った「佐倉咲」の手を掴みながら「物体を弾き」、駆け上がる「ターキー」。
「やっぱり最後はオレしか頼る奴がいないなぁ!?アルキ!」
「ターキー!レディ3人だ!丁重によろしく頼むぞ!」
「知るかボケ!まぁオレに触れていれば、怪我はしねぇよ!全部「弾いて」やるよ!」
「――どういうこと?アルキが、アルキだったり、アルキじゃなかったりする……」
杏子はあまりの出来事に、自分がおかしくなってしまったのではないかと思い、動揺している
「オプティマスブリッジ」が「共振」により巨大な蛇のようになり、襲ってきたこと
信じられない身体能力で、杏子を抱いたまま荒れ狂うワイヤーや隆起する道を、渡り切ったアルキ
梅の「兎角」が暴走し、「余剰次元」により、いつ全てが消え去ってもおかしくなかった状況
アルキには聞いていたが「探求科」を追い詰めていたのが、顧問の「佐倉咲」先生だったこと
そしてなにより……今自分を抱いているアルキの中に「もう一人の人格」がいること
「ターキー」……アルキの中の「もう一人の人格」
あきらかに「兎角」である人物……降り注ぐ物体を弾いていく。「反発力」……すなわち「斥力」の能力、弾くチカラを利用して中央部分がほぼ崩壊した「オプティマスブリッジ」に舞い戻る
崩壊の砂煙が舞い散る中、「ターキー」の動きを確認したのは杏子だけだろう
気を失っている二人を優しく地面に寝かせて、杏子と「ターキー」は向かい合う
「カハハハ!いや〜楽しいシチュエーションだったなぁ!オンナ!」
「……「ターキー」って……表情が違うから顔も違って見える……同一人物なの?」
「ふん!オレのほうが男前だろう?」
「……わたしはアルキが好きだから……でもそうなると「ターキー」のことも好きってこと?」
「カハハハ!案外肝が据わってるなぁ!オレを見てビビらねぇなんて!」
「だって「ターキー」が助けてくれたんじゃん!怖いわけ無いよ」
「……ほぅ、見込みはあるな……まだ若いが……」
「でしょ?わたしはアルキの「未来の伴侶」になるのよ!」
「ほほぅ、その意味……分かって言ってんのか?」
ターキーは猛獣のような鋭い目つきで杏子を見つめる
「わたしもいちおう、「探求科」の天才の一人よ!アルキはただの「一教師」じゃないんでしょ?」
「……まぁこれだけ見せてるんだ、テメェはもう巻き込まれてる……オレとアルキは警視庁公安部兎角課「フクロウ」のエース「オール・ド・ターキー」だ!」
「――!な……な……何それ!めちゃくちゃカッコいいんですけど!」
「誰にも言うなよ!」
「もちろん!二人だけの秘密だね……いや三人か?」
「待て待て!何ベラベラ喋ってるんだターキー!」
「――あっ!アルキだ」
「うるせ〜!どうせコイツには、いずれバレる!だったらいっそここで口止めしたほうがいいだろが!」
「――あっ!ターキーに変わった」
「ふむ……、一理あるな、ターキーにしては珍しく……」
「こっちはアルキだ」
「んだとコラァ!珍しくとはなんだ!オレがいなきゃ死んでたところだぞ!感謝しろ!」
「ターキーだね」
「感謝してるよ!全部俺の計算通りに動いてくれて」
「アルキってなんか忙しいね……見た目も変わるから面白いけど」
杏子はくすくすと笑い、ターキーに対しても抵抗が無いようにみえる
「大体この「兎角」の制御も出来ねぇ女の能力を、ずっと封じてたのもオレだからな!」
「――え?そうなんだ」
「そうだな……ターキーは「万有斥力」で杏子の「無限重力」をキャンセルしている、つまり「反重力場」を作ってるんだ」
「そっかぁ……じゃあずっと一緒にいないとね!」
杏子はそう言うと、笑顔でアルキに抱きつく
「ふん、オレに触るんじゃねぇ!」
「――あっ!……ズルい……ターキーに入れ替わってるの?」
ターキーが睨むと、杏子は慌てて手を放して、ぶつぶつと文句を言いながら距離を取った
「じゃあ戻るか!……杏子……俺の言ったとおり、これで授業に出れるな!」
「――うん!」
海面からおよそ90メートルの橋桁は、そのほとんどが原型をとどめておらず。中央は崩落し、全壊こそ免れているが、この「兎角事件」の恐ろしさを物語っている
「オプティマスブリッジ」では、以前「とある兎角」の暴走により、100人以上の死者を出している
今回、橋は甚大な被害が出たが、迅速な対応により死者数はゼロとなった
功労者である七面歩は、この事件には一切関わっていない。全ては警視庁公安部兎角課「フクロウ」の「オール・ド・ターキー」が、処理をしたことになっている
情報操作により、今回の件に関しては「特務課」にですら事実は隠蔽された
そんななか、四ノ宮透だけは納得がいかないと、抗議していたらしい
修徳高校で起きていた「学校の七不思議事件」はこれにて解決。
その後、探求科には百地杏子が戻って来ている。まだ「兎角」を制御出来ているわけではないので、何かあればアルキが……いやターキーがなんとかしてくれるだろう
八神聖には「ターキー」のことだけを話している
アルキの「もう一つの人格」であること
「兎角」を持っていること
この二つのみ……あとは「一教師」であると伝えている。聖はそれ以上詮索するつもりもない……彼にとって七面歩は、「一教師」でいてほしいからだ。「オプティマスブリッジ」での出来事を目の前で見ていた聖にとっては、突っ込みどころ満載であった筈だが、杏子と梅を助けてくれた「先生」……それだけで充分だった
ただ探求科にはまだ一人足りない……「伊倉梅」は、「兎角」の制御を早急に出来るようにするため、「antenna 」の「一華」のところに通っている。
「西川恭吾」に関することも、繰り返された「虐待」によるものであるということで、罪には問われない
強力な「兎角」であることで本来なら「国」の管理下に置かれてもおかしくはないが、「探求科」にアルキがいる限り、という条件付きで、学校を辞めずに済んでいる
今回の主犯として、「国」の兎角犯罪者収容所「コラプサー」へと送られた佐倉咲は、「フクロウ」の事情聴取の際にこう語る
「ヒッグス」は、百地杏子と伊倉梅に最大限の「兎角暴走」を起こさせて、「衝突」させれば、「田口修二のプライド」を救えるはず、そう言っていた……と
「ヒッグス」とは何なのか?
人物なのか組織なのか
どうやら、佐倉咲は何者かに軽い洗脳を受けていたようで、それ以上を語ることはなかったそうだ。
警視庁公安部兎角課のオールドターキーはアルキの頭脳、ターキーの能力で事件を解決していく諜報員。彼らは「兎角」という謎から、人々や世界を守っていくために「フクロウ」のエースとして今後も活躍していくだろう
だが、あくまでこれは、アルキの「未来の伴侶」を探す物語。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
最後にエピローグがありますのでよろしくお願いします。




