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炎帝の焔  作者: いふじ
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第四話:一時の休息

ははは。


なんという・・・。

一旦CMです。

「どうぞこちらへ」

 

と、静に案内されて門扉を潜った先に見えたのはまるで別世界のような場所である。


 門扉の外側は無骨なコンクリートや洋式風の家屋が建ち並ぶ高級住宅街であり、風情という言葉とはかけ離れた場所であった。


しかし、足を一歩踏み入れたその先は色とりどりの花が芽吹き、大都会の中、それも敷地内とは思えぬほど雄大に育った木々があり、その大木と言っても差支えがない木の枝には、数種類もの小鳥たちが至る所に巣を作っている。


その光景が外観を損ねるどころか、神話の世界を垣間見せるような作りとなっている。この光景を意図して作ったとなればそれはとんでもない腕の職人技である。


だが、焔が目にした光景はあくまで自然に即したものであるが故に神々しいものとなっているのだ。


焔は誰に教えられるでもなく、そう感じていた。


 思わず見とれてしまっていた焔に、


 「お気に召していただけましたか?」


 屈託のない優しい笑顔で静が訊ねてきた。


その笑顔を見て、焔は自分のような存在が今のように綺麗な笑顔を浮かべることができる可憐で美しい


少女の傍にいるべきではないと、改めて思うのだった。


 だから、再び歩を進めながら焔は言った。


 「ああ、気に入った。ここは俺が知っている光景の中で一番綺麗で心が休まる場所だ」


 焔の言に静はまるで自分が褒められたかのように頬を淡い桃色に染めていた。


 「気に入っていただけて、あの、とってもうれしいです。ここは、私も大好きな場所ですので」


 「ああ、だろうな。どんなに心の荒んだ人間でも、この場所に来れば心が癒されるはずだ。でも、だからこそ、こんなに綺麗で優しい場所に俺のような人間が居ていいわけがない」


 「え?」


 静は焔が続けて言おうとしている言葉に、何故か恐怖を感じた瞳で焔を見つめている。


 「今日は任務で来た。アンタの心はどうすれば癒されるんだ? 俺に可能なことならば何でもしよう。だから、俺を早くこの場所から遠ざけて欲しい」


 「あ、あの・・・」


 そう言って、おどおどと焔を見てくる静にはもう先ほどまでの美しさはなく、晴れ渡った青空が灰色

の雲に覆われて世界全体を曇らせていくような、そんな悲しい表情を浮かべていた。


自分がそんな顔をさせていると思うと焔は少し心が痛んだ。


 焔にとって心が痛むという経験はこれが初めてであり、今の気持ちをどう制御すればいいのかなど見当もつかない。


ただ、今の焔の言葉は、自分のような存在が静と同じ場所に立ち、これ以上、静という存在を汚したくないという、焔が人生で初めて得た、相手を慈しむ心でもあった。


自分に今のような感情があったことに驚いた焔だったが、静には動揺した自分の姿を見せないように心掛けていた。


心の機微一つでさえ、静を汚してしまいそうだと焔は感じていたからだ。


 「アンタみたいに笑える人の親ってのは、本当に良いやつなんだろうな」


 何を以て善悪とするのかは人それぞれだが、焔にとって最大の悪とは自分を捨てた母親であり、最大の善とはいかなくとも、それに近い存在が重国や力也であった。


 「そう・・・ですね。お父様やお母様はとても優しいです。特に、お母様は私の本当の母ではありませんが、それでも私に接するときは本当の娘のように接してくれます。ですから、私はお母様と今のような関係になれたのでしょうね」


 いつの間にか、二人は歩いていた足を止めていた。


二人は見つめ合うような形でいる。


焔は急に自分たちの周囲が真空状態になったようだと感じていた。


焔は沈黙したまま口を開かず、静も焔の沈黙が伝染したように俯いて口を閉ざしていた。どれほどの間


そうしていたかわからなかったが、焔は今の状態をむしろ歓迎していた。


この状態が続けば相手が諦めてくれるかもしれない。


そう考えていたのだが、


「あの」


「なんだ?」


 「わがままは言いません。あなたを困らせるようなこともしません。ですから、あともう少しだけでいいですから。私に、あなたと過ごす時間を下さいませんでしょうか?」


 「・・・・・・」


 静の言葉に焔は虚を突かれたように呆然と立ち尽くしていた。


 どうしてこの少女は自分のような存在といたがるのだろう。


 それが不思議でならなかった。


 自分とこの少女は、例えるなら少女が光で自分が闇だ。


光と闇は決して混じり合うことはない。


混じり合ったように見えても、それはただどちらか一方が、もう一方を飲み込んでいるだけである。

それなのにどうして。


 「やはり、それすらわがままなのでしょうか?」


 焔の沈黙を否定と感じたのか、静は親に怒られた子供のように、瞳を潤ませ項垂れていた。


 「いや・・・」


 そんな静を焔は見たくなかった。


静には笑顔が一番似合う。


神々しいまでに美しくて、向日葵のように可愛らしい、そんな笑顔が。


 「それで、アンタの気が晴れるなら」


 そう答えた焔の顔は夏でもないのに赤く染まっていた。


 「風邪でも引いたか・・・」


 焔はまるで他人事のように呟いていた。



 綾瀬川の家は途方もなく大きかった。


いや、家という言葉はあまり似つかわしくない。


正確には屋敷だ。


二人が立ち止まり見つめ合っていた場所から五分も経たぬうちに、焔は綾瀬川の屋敷にたどり着いた。


それでも門を潜って三十分以上歩いてやっとたどり着いたのだから、綾瀬川の敷地の広さが窺い知れる。


そう思っていた焔だったが、さらに驚くべきことに綾瀬川の屋敷の奥に見える山すべてが綾瀬川の敷地であるらしい。


 「どうぞ」


 言って静は障子のように簡易的な扉を開けて先に進みだす。


 この家の警備システムは大丈夫なのだろうかと不安に駆られそうになったが、静の後ろについて歩いていると、そんな不安は全くの杞憂であったと悟ることになる。


 屋敷の壁中に小さな違和感をいくつも感じた焔は、歩きつつもその違和感を見落とさないように注意を払って観察していく。


 そこで焔は気づいた。


 屋敷中で感じていた違和感の正体は、小さく細長い針のような形状をしたものだった。普通の人間なら気付かないだろう。


焔のような日常的に荒事を生業としているその道のプロでさえ、かなり注意を払ってい

なければ、その存在に気付けないのだ。


しかも、それは最近綾瀬川グループが発明した最新式の、超小型侵入者迎撃システムという、本来軍に配備されるはずのものである。


 少し前に、力也がこの噂を聞いて興味を示し、綾瀬川グループに何故かコネを持っている重国に頼み、この超小型侵入者迎撃システムを一式調達してもらっていたのを思い出していた。


このシステムは事前に認証登録していない人間がシステムの範囲内に入ると、刹那のうちに毒針を打ち出して侵入者を強襲する。


その威力は巨象でさえも一瞬で殺せるような、使い方を一歩間違えればとんでもない殺戮兵器に変貌する代物だ。


 歩きつつ、焔は呆れたように溜息を吐いた。


 「・・・」


突然、前を歩いていた静が歩みを止める。


「どうした?」


焔の声に先を歩いていた静はビクリと体を反応させて振り返った。


 「あの、やはり私といるのはお嫌ですか?」


 「どういう意味だ?」


「・・・溜息を」


「溜息? ああ・・・違う。そうじゃない。ただ、あまり簡単に人を信用するな。そう、じいさんに伝えてくれ」


 「?」


 何のことかわからず首を傾げる静の頭に優しく手を置いた焔は、ポンポンと軽く静の頭を叩いて先に進んで行く。

 

 同時刻

 アトラス作戦車両内



 カーナビに似た四角い物体を囲みながら三人の男たちが薄気味悪い笑みを浮かべて、画面内に映る焔と静を見ていた。


 「・・・こんな焔を見るのは初めてだな」


 男の一人、力也が少し驚いたようにそう言う。


 「そうね。でも、いい傾向じゃない。焔ちゃんはもっと青春を謳歌するべきなのよ」


 男の一人、重国が厳つい顔に似合わない相変わらずな口調で言う。


 「ふむ、ワシもあのように楽しそうな静の表情を見るのは久しぶりじゃ。重国、それに力也くんよ。このような機会を設けてくれたことに礼を言おう」


 最後の一人、昨夜の老紳士、綾瀬川厳三郎が嬉しそうな顔で笑う。


 「お互い様ですよ、翁。私も焔ちゃんのあんな顔が見れて本当にうれしいですし。あの子は、本当はもっと人並の幸せを得る権利があるんです。例えば・・・恋とか」


 「そうじゃな。お主から聞いた話じゃと、静と同じ年とは思えぬ苦悩をあの少年は背負ってきておるようじゃ。ここらで一つ、腰を落ち着けてみるのも良いじゃろうな」


 「ええ・・・」


 そう重国が言ったきり、車内はしんと落ち着いた。


画面の中の二人は互いに遠慮していると誰が見てもわかるが、それ以上に楽しそうであった。


 『静? お客様がいらしているの?』


 その声に画面内の焔と、画面外の厳三郎が肩を震わせて反応した。


 「翁?」


 『焔さま?』


 同じタイミングで互いの相手に声を掛ける重国と静。


 そして、




 バチンッ、という何かが焼き切れる音と共に、今まで焔と静の姿を映していた画面がブラックアウトした。


CM開けです。

どうでしたでしょうか?

感想などお待ちしております。

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