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炎帝の焔  作者: いふじ
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第八話: 久保大河

新しい展開?


本編突入!

焔が『具現師』を撃退し、蒼穹市内にある子供たちから絶大な人気を誇る、蒼穹公園内を通っていたときのこと。

 

「ああ~、どないしよう! 明日は俺の停学開けやから盛大にしたいけど・・・そんで

また停学でも喰らったら親父にどやされる~」


 焔の正面から紅と白が織り混ざった学生服姿の少年が歩いて来る。


彼は器用にも歩きながら頭を抱えて悶えるという、端から見れば変質者と間違われてもおかしくない態度であった。

 

「・・・・・・」


 ああいう手合いとは目を合わせないようにしよう。因縁を付けられては面倒だ。それに、その騒ぎで『アトラス』に自分の位置を教えてやるのも馬鹿げてる。


 そう判断した焔は、正面から歩いて来る少年と目を合わせず、そのまま通り過ぎた。


 「待て」


 不意に、たった今通り過ぎた少年が振り返り焔を呼びとめた。


 少年の呼びかけに答えず、そのまま歩き続ける焔の前に、少年が滑り込むように回り込む。


 「待てって言ったやろ」


 焔の前に回り込んできた少年は、偉そうに腕を組み、焔を値踏みするように見つめる。


 「何か用か?」


 煩わしそうに対応する焔の言葉を無視して、少年は焔を観察し続ける。


 「アンタ・・・」


 一瞬にして少年の気配が先ほどから一変した。


 「お前は・・・」


 焔は少年の気配に思わず身構える。


 (こいつもアトラスの異能力者か? だが、そんな気配はどこにも感じられなかったぞ。だったらこいつは何者だ? 俺に異能力者の気配を感じさせず近づいてきたということは相当な使い手だ)


 「う~ん、違うか? いや、でもな~。でも違ってたら・・・よし」


 焔が警戒を強める中、少年は何やら独り言を繰り返し悶々としている。


 (・・・やはり勘違いか?)


 「なあ、アンタ。雪代焔って名前か?」


 少年の口から焔の名前が出てきた瞬間、焔は右手に炎の槍『炎槍』を出現させ、少年の喉元に突き付ける。


 「次から次へと、お前たちはよっぽど暇なんだな」


 『炎槍』を突き付けながら、焔は苦々しく言う。


音速のスピードで繰り出された『炎槍』が風に吹かれ、小さな火の粉がゆらゆらと宙を舞う。

 

一方、少年は、


 「あ、ああ~。勘違いですか、そうですよね~。いやぁ~、すんません! 自分は何も見てませんし、聞いてません! だからお願い殺さないで~」


 焔ですら驚愕するスピードで少年は土下座を発動。


 「つーか、一体俺が何したって言うんや! 俺は別になんもしてないやんか~! ひどいわ! なんでこんなことすんねん! もうちょっとで死ぬ所やったわ!」


 そうかと思えば、泣きじゃくり、嗚咽混じりに焔を責めてきた。


焔は目の前の少年の姿に戸惑う。

 

「お前は『アトラス』の放った異能力者じゃないのか?」


 「なんですかそれは! 自分そんな名前聞いたこともありませんわ! それよりお願い殺さないで~」


 焔と少年の騒ぎを遠巻きに見ていた子供や、その親たちは慌てた様子で携帯電話を取り出してどこかへと電話を掛けようとしている。


どこかとは聞かなくてもわかる。


警察だ。


『具現師』と闘った場所からそう遠くない場所に位置する蒼穹公園。


電話をされれば、すぐにでも警察はやってくるだろう。


焔にしてみれば、警察など恐れることは何もないが、それにしても自分から居場所を教えてやるのは面白くない。

 

「・・・すまない」


 言って、焔は『炎槍』を消し、すぐにその場を離れた。


 「ふ~、まあ、わかってもらえれえば、俺はええねんけどな」


 「ああ、悪かった」


 「うん。まあ、お互い人間やし、生きてるうちで間違いの一つや二つはするもんやからな! 気にせんでええよ!」


 少年は笑いながら気軽に焔の肩を叩く。


 そこで焔は立ち止まった。


 「お前、何故俺について来る?」


 「ほむやんのことが・・・好きやねん、ってはいごめんなさい冗談ですだからその熱いのんを向けやんといてください~」


 少年は再び焔に『炎槍』を突き付けられて涙を流しながら許しを乞うのだった。


 蒼穹公園内を抜け、近くにあった空き地に腰を落ち着けて、少年が泣き止むのを待つ焔。


 「・・・ホンマ、冗談言うのも一苦労やな。ほむやん、そんなんやったら友達なくすで?」


 「俺には友達なんてものはいない」


 無言。


 少年は無言で焔を見つめている。


 「久保大河」


 少年は焔に向けてそう言う。


 「俺の名前や。覚えとき」


 「・・・・・・」


 大河と名乗った少年を、焔は無言で見つめ返す。


そんな焔に大河は確認するように聞き返す。

 

「そんでアンタは雪代焔で間違いないやんな?」


 「・・・ああ」


 「オッケー。そんじゃあ、これでお互い名前もわかったことやし友達同士やな。よろしく」


 言って大河は右手を差し出す。


 「・・・・・・」


 差し出された大河の右手を不思議そうに見る焔だったが、そんな焔の左手を大河が強引に掴み、ぶんぶんと繋いだ手を上下に振る。


 「ところで友達になったことやし、特別にほむやんには俺の秘密を教えたるわ」


 そう言って大河は前方を眩しげに見つめる。


大河の視線を追うように焔も視線を向ける。


そこには小さな子供たちが蒼い園児服を着て無邪気に遊ぶ姿があった。


そんな子供たちの姿を見て、大河は言った。

 

「俺、実はロリコンやねん」


 ・・・・・・。


 「死ぬか?」


 「だから冗談やん! も~、ほむやんは硬すぎやで! つーか冗談言うたびにそれ向けられたら心臓に悪いからお願いやめて~」


 またしても突き付けられた『炎槍』を指差し、泣きながら言う大河。


そんな大河を見て呆れたように溜息をついた焔は、『炎槍』を消す。

 

「どこで俺のことを知った」


 鋭い眼光で大河を睨む焔。


 「う~ん、どこでっていうか・・・学校で?」


 ほらこれ見てみい。そう言って、大河は学生服の内ポケットから一枚の写真を取り出して焔に見せる。


 「!」


 そこには今よりも少し幼い印象が見受けられる焔と、焔の横で偉そうに仁王立ちする凛々しい表情の少女が写っていた。


少女は仁王立ちしながらも、どこか嬉しそうな表情である。


隣に映った焔は、何を考えているかわからない顔であるが、やはりどこか嬉しそうであった。

 

写真に写っているのは、焔がまだ学校に通っていた頃の写真である。


 中学時代の、雪代焔と、平野光の姿がそこに映されていた。


 「これを誰から貰った?」


 「平野本人から。写真の裏見てみい」


 言われた通り写真を裏返して見ると、

 

 「この男を探している! 発見次第、アトランダム学園1年、平野光へ!」


 でかでかとマジックペンで書かれていた。


 「ほむやんと平野ってさー、昔付き合ってたんやろ? なんで別れたん? ああ、ごめん。やっぱり言わんでええわ。理由聞いても俺にはどうにも出来へんし。でもな、どういう事があって別れたんかは知らんけど、自分の居場所くらいは教えたりや。その写真な、俺だけやなくてアトランダム学園の全校生徒が持っとるねん。俺も入学してすぐにこの写真を平野から渡されてんけど、そんときのあいつ、すっごい必死な顔でな。今でもお前のこと好きなんやと思うで? 本人からは聞いてないけど、凄い伝わってきたわ。だから・・・って、ほむやん聞いてる?」


 焔は無言だった。


 無言で食い入るように写真に写る光を見ている。


 「・・・光は元気か?」


 「うーん、元気っちゅーか、元気過ぎて困ります」


 「変わってないんだな」


 大河は、初めて焔が見せた笑顔を見て、


 「なんや、ほむやん笑えるやん」


 「笑う?」


 意味がわからないことを言う大河に、焔は軽く首を傾げた。


 「うん、今ほむやん笑ってたで」


 「俺が・・・笑ってたのか?」


 自分が笑ったということが信じられなかった。


 「あのな、最初ほむやんを見たときに、昔の妹みたいやと思ってな。あ、言うの忘れてたけど、俺には妹がおって、名前は沙耶っていうんやけど、これがもうめちゃくちゃ可愛い妹でな。まあ、血は繋がってないねんけど。沙耶は、異能力者やねん」


 妹の話をしながら、くねくねと奇怪な踊りを見せる大河だったが、異能力者という件で表情を曇らせる。


 「まあ、異能力者って言っても、他の奴らとは違って、生まれ持っての異能力者やなくて、後天的異能力者やったから、能力を安定させて使うことが出来ひんかってな、そんで力が暴走して、実の親に化け物扱いされて」


 ・・・・・・。


 焔は大河の話を黙って聞いていた。


大河の妹、沙耶という少女と、自分の生い立ちが少し似ていたからだろう。

 

「そんで、親に捨てられて。それでも、沙耶自身はそんなクズどものことを好きやったみたいやから、家に帰るわけよ。そしてさ、母親からは罵られて、父親からは手加減なしで暴力振るわれて。偶然通りかかった俺が、沙耶を家に連れ帰って強引に俺の妹にしてんけど。はぁ~、そんときには沙耶の心はもう壊れてもうて、取り返しがつかんようになっとってな・・・」


 深く、深く溜息をついた大河。

 

「それで、妹は?」


 「ん、あ~、今は・・・」


 「兄さん!」


 長く流れるように滑らかな黒髪を風がたなびかせ、袴姿の元気な少女が竹刀を手に息を荒げながら大河の下まで走ってくる。


少女は大きくてくりくりとした可愛らしい瞳で、大河を睨んでいるが、怒っていても小動物のような印象を受けるためか、あまり怖くはなかった。


身体は健康体であり、大河の下へ走ってくるときに、すらりとした足が見えた。

 

「妹の沙耶です。現在中学三年生。趣味は家がやってる剣術道場で剣術の修業をすること。他の趣味はなし。もっと女の子らしいことに目を向ければいいのにと思う兄心なわけですが、もし妹に手を出そうとする世間知らずな男がいれば、俺と親父と母さんが全力を以て相手に制裁を加えます。あ~、権力って最高だよね~!」


 大河は何を考えているのか、恍惚な表情で笑っていた。


 「大きなお世話です! それより兄さんはまだ謹慎中の身のはずですよ! こんな所で何をしているんですか! さあ、家に帰りましょう。そして私と一緒に稽古をしましょう。全く、ちょっと目を離すとすぐにどこかへ行ってしまうんですから・・・」


 と、ぶつぶつ言っている少女を見て、焔は大河から聞いていた妹が目の前にいる少女だとは思えなかった。


 母親に罵られ、父親に暴力を振るわれた少女。


名前は沙耶。


恐らく、焔よりも酷い身の上のはずの沙耶。


だが、今、焔が目にしている沙耶からは悲壮な感じが一切感じられない。


むしろ、溌剌としていて彼女を見た者にその元気を分け与えるような、そんな印象さえ感じる。

 

どういうことだ? 大河の話は嘘だったということか?


 そう考えていると、


 「あれ? 兄さん、こちらの方は?」


 沙耶の大きくてくりくりとした視線が焔の姿を捉えた。


今までは大河のことしか目に入っていなかったようで、すぐ隣にいた焔を見て少し驚いている。

 

「ああ、こいつは俺の友達でほむやん。ほら、沙耶も知ってるやろ? 平野の探し人や」


 「光さんの? 嘘、それじゃあ・・・この人が『炎帝』さんなんですか?」


 「そうや。それとな、こいつとはさっき友達になったばかかりやねんけど、なんや昔の沙耶によう似た雰囲気やったから、ちょっと心配でな」


 大河が言った「昔の沙耶」という言葉に、沙耶は一瞬顔を陰らせる。


しかし、すぐに何もなかったような笑顔を焔に向けて言う。

 

「でも、まだ間に合いそうで良かったです。兄さん、焔さんに代わってお礼を言います。

ありがとう!」


 そんな兄妹の会話に焔は一切口を挟めず、黙って成り行きを見守っているだけだった。


 「ところでほむやん。いきなり変なこと聞くけど、帰る所はあるんか?」


 何もかも知っている。


大河の瞳はそう語っているようであった。


帰る家、ではなく、帰る所、と言ったのはそういうことではないだろうか。

 

「・・・ない」


 いつもの焔ならここで話を切り上げ、黙ってどこかへ去って行っただろう。


それなのに、大河の言葉に焔は自然と答えを返していた。


 何故だろう?


 焔は強くそう思った。


 そして、気が付けば焔は大河と沙耶に、今に至るまでの経緯を一つも余さず話していた。


 「そうか。うん、まあ大変やったな。まあ、言いたいことは色々あるけど、それは後でええわ。とりあえあず、ほむやん。お前は今日から俺の家に来い。その、『アトラス』とか言う組織には絶対お前に手は出させへんようにしたる」


 何故、自分のような存在と大河は積極的に関わろうとするのだろう。


疑問に思いそれを口にしようとした焔だったが、

 

「ただし条件が二つある。一つは沙耶に異能力者として、異能力の使い方を教えたってくれ。住み込みの家庭教師みたいな感じでな。あと一つは・・・」


 「おい」


 強引に話を進める大河に、焔が口を出す。


 「黙って聞けや」


 焔は大河に睨まれて口を噤んでしまう。


大河の力強い瞳に『炎帝』と称されてきた焔は怯んだ。


大河の力強い瞳。


その中にある深い怒りの感情を焔は感じたからである。

 

「そんで、もう一つは、平野に自分の居場所を教えること。この二つを守れば俺らはお前の味方や。あと、文句は一切聞かん。ええな、わかったか?」


 そう言う大河に、焔はただ頷くことしか出来なかった。


 「と、まあこんなことがあって、ほむやんは久保家の正式な客人となりました」


 重国と光は大河の話を聞き終え、こいつ凄え、という感想を抱いていた。


 あの誰とも積極的に関わろうとしなかった焔が、大河の勢いに乗せられてここまでやってきたのである。


 「・・・久保」


 光はドスの効いた声で大河を呼び、無言で近づくと両手で大河の手を取った。


 「ありがとう」


 涙で顔をくちゃくちゃにしかめながらも光は笑っていた。


 「ええって、俺と平野の仲やん」


 びくびくと震えながら答える大河。目はどこか宙をさ迷っている。


大河には光を必要以上に恐れる理由があった。


だからびくびくと震えあがる。


あまり格好いいとは言えない大河だったが、そんな大河の様子は、最早光の眼中にはなかった。

 

大河が焔を連れてきたことを、光は心の底から喜んでいた。


しかし、同時に不安も湧き上がってくる。


大河はどうして自分と別れたのだろう。

 

親に叱られた子供のように、光は恐る恐る焔の表情を窺がった。


 「・・・・・・」


 むすっとした顔で、怒っているようにも見えるが、さて焔は何を考えているのだろう?


 「学園長、ほむやんの面接はよしたって下さい」


 少しでも光の怒りが自分に向かないように必死な大河。


 「え? あ、ああ。面接ね。そうね、うん。必要ないわ。焔ちゃんだったら文句なく合格よ。でも、大河ちゃん。本当に大丈夫なの?」


 「何がですか?」


 「焔ちゃんの学費よ。キツイようなら私が払うけども・・・」


 「ああ、心配せんでも大丈夫です。焔の学費は焔が自分で稼ぐ金ですから」


 「俺にそんな金はないぞ」


 会話に割り込んだ焔は抑揚のない声で言った。


正確には金はある。


ここに連れて来られる間に大河からアトランダム学園に通うために必要な最低費用を聞いていたので、勘定をしてみた。

 

アトランダム学園の入学金は一億円。


中途入学はその半額―焔は中途入学となるので半額の五千万―毎月の授業料が三千万円。


月末までに支払われない場合で、何の連絡もない場合は即退学だそうな。


他にも修学旅行費や、イベント代等々、突発的に支払わなければならない費用が存在するのだが、それはこの際置いておくとして、入学し、授業を受けるだけでも焔は最低、四億一千万円というとんでもない大金を用意せねばならないのだ。


常人ならば学費に掛けるお金ではないだろう。


しかし、焔の場合は今まで『アトラス』に所属する『炎帝』として数々の作戦を仕事としてこなしてきている。


そして、仕事なのだから当然給料が支払われている。


焔の給料は作戦の難易度にもよるが、そのほとんどが高額―作戦の無い月の給料は公務員と同額―である。


従って、払おうと思えば百回だろうが二百回だろうが、入学から卒業までに掛る費用を払うことが出来る。

 

だが、


 「おい大河。光の話は聞いていたが、ボスの話は聞いていないぞ」


 「俺も学園長がその『アトラス』とかいう組織のボスやなんて知らんかったわ」


 笑顔で悪びれもなく返す大河。


 「それに俺は、お前が金を払うからという条件でこの学園に通うと約束したはずだ」


 「うん、だから約束通りやん」


 「だから・・・」


 いい加減腹が立ってきたのか、焔は髪をがしがしと激しく掻きながら言おうとして、


 「ほむやんは沙耶に異能の力をコントロールさせるために家庭教師をする。久保家はほむやんに家庭教師代を支払う。な? ほむやんが稼いだ金やけど、一応は久保家から出される金や」


 「・・・確かに」


 それで納得したかに見えた焔だったが、


 「・・・だが、俺は『アトラス』から抜けたんだ。その俺が、組織のボスが経営する学園に通うのは・・・」


 「その点は大丈夫。この学園にいる間は、焔ちゃんと私は『炎帝』とボスの関係ではなく、学園長と一生徒だから」


 うふ、と気味の悪いウィンクを重国は焔に投げかける。


焔はどこか不審にそれを見ていた。

 

「・・・わかった。用心はするが、一応信じることにしよう」


 今度こそ焔は納得したようだった。


 「オッケー。そんじゃ入学金は今日中に振り込んどきます」


 「わかったわ。焔ちゃん、何か質問は?」


 「無い・・・いや、一つだけ」


 「はい、何かしら?」


 「俺を狙うのは良い。だが、大河や沙耶を狙うようなら、いくらアンタと言えども容赦はしない」


 言った焔の周囲を熱を感じられない火の粉が舞い踊っている。


瞳は獰猛に輝き、血に飢えた獣を容易に連想させる笑みを浮かべている。

 

「・・・肝に、銘じておくわ」


 春の昼間に、重国の背中にだけ冬季が訪れた。


 「はいはいはい! 詳しいことはまだやけど、大体決まったから今日は解散! ほむやん帰るで! ああ、もう学園長を睨まない! ほい、行くで!」


 言って大河は重苦しく変わったその場の雰囲気を、無理やりに軌道修正する。


焔の手を取り、急ぎ足で扉に向かう。

 

「・・・焔」


 そんな焔の背中に光のか細い声が掛る。


 「私は、お前に嫌われることをしたか?」


 「・・・・・・」


 「どうして、私の前から姿を消した。お前は何も言ってくれない。どうして私とお前は別れなければいけないんだ? 教えてくれ。私はお前のことが今でも好きだ。私の何がいけなかった?」


 そこまで一息に言うと、光は頼りない足取りで焔に近づいていく。


 「えぇっ! 光ちゃんと焔ちゃんは・・・つ、付き合っていたの?」


 一人蚊帳の外の哀れな重国。


 そんな重国の言葉は華麗に無視される。


 「・・・光には、あの男がお似合いだろう」


 光には顔を見せず、焔は背中を向けたまま力なく言う。


 「あの男? 待て、誰のことだ?」


 「二年前。初めて俺からお前を・・・その、デートに誘ったことは覚えているか?」


 「あ、ああ! 当たり前だろう! あの時の感動を忘れるわけが・・・あ」


 光は言葉を失った。


 やばい。


 具体的に言うと、ヤヴァイ!


 具体的にと言っておきながら、ヤヴァイと考えている時点で光の困惑具合がわかる。


 「あ、あれは・・・」


 「あの男と一緒に歩いていたお前は・・・いい顔で笑っていたな」


 「だから―」


 「俺といる時よりも、楽しそうだった」


 「誤解だ!」


 「俺も、そう思ってお前に聞いたさ」


 「え?」


 『俺は光の何だ?』


 光の記憶がフラッシュバックした。


お疲れさまでした!


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