第一章 私はスパイに向いてない。
やばい、今、非常にやばい。
「まだ抵抗する元気あるんだー。さすがあいつの用心棒だったっけ?それだけの事あるねー。」
こんな状況でなければ、きゃー素敵っ!って言ってもいいくらいの美しい笑顔をその整った顔の男は沙耶に見せた。
「........。」
何も言えねー。ってか身元バレバレやん。
嘘だろ?
「ねえ、沙耶ちゃん?だっけ。そう意地張らずにオレんとこおいでよー。悪いようにはしないからさ。」
おいおい、どこのチンピラだよ!絶対悪いようにしかならないだろって台詞にしか聞こえないぞ、その発言。
やばい、本当にどうしよう。
状況を説明しよう。
まず私、沙耶の状況だが、武器である刀は折られ、敵陣とも言える奴の屋敷の中に居る。折れた刀を持って、壁際に背中をぴったりとくっつけている。
そしてすぐ目の前にはイケメンこと、この国の氏族である結城様がいらっしゃる。
「僕のところに潜入しようなんて、本当失敗したねえ。
けど僕は良かったよ。君みたいないい人材見つけられたんだし。君、もうちょっと鍛えたら、最高の隠密になりそうなんだよなー。あ、それが嫌なら僕の物になりなよ。あいつのところに居るより楽しいよー、絶対。」
沙耶は思わず何度も首を横にブンブン振り、青ざめた。
怖い怖い怖い。こいつの言いなりなんて何されるか分かったもんじゃない!
てか、何で潜入してきた私をスカウトしてんだこの人。
「い、嫌です!絶対嫌!」
私、沙耶は転生者だ。
この世界に生まれ出て来た時から他の人物として生きた。
つまり前世の記憶があった。
私の前世は警察官。なりたてホヤホヤだったんだと思う。
亡くなった時の事も何となく覚えている。
見事に殉職だ。
そのまんま赤ちゃんに転生しちゃったんだから、そりゃもうパニックだったなあ。大泣きしまくりだった。まあ赤ちゃんだったから泣いてても何の違和感もなかったんだけどね。
ってかこれ転生って言うのかな?
私が居るこの世界、、、、日本じゃね?
しかも弥生時代もしくは古墳時代辺りじゃない?
まず転生して、目が見える様になった時、お父様の姿を見て一番最初に頭に浮かんだのは某芸人のやっていた
「ヒミコサマーーーー!」
というネタだった。
けど、学校で習ってた教科書の弥生人とはちょっと違って、着ている物はもっとこう、ファッショナブル?って感じかな。
私の今居るところは、私の推測では、多分九州かなと思う。
なんとなくだけど、私の住んでた辺りのじゃないかな。
本当、勘でしかないけど。
と言う訳で、連想はこれくらいにして話を戻そう。
私は今非常にヤバイ状況にいる。それは、先程の結城様との会話でお察ししていただけてるかと思う。
私、沙耶はとある重要人物のSPをしている。
つまりは用心棒だ。
前世の私とほぼ変わらないな。
女のくせにって言われる事は日常茶飯事。
沙耶になってからの方が多いかなあ。
ストップ男尊女卑!腹立つから絶対に文句なんて言わせないように強くなってやる!ってのが今一番の目標だ。
「ご、誤解です!私はこのお屋敷がとても広かったので、迷っちゃってそれで。」
「僕の部屋に入っちゃったって訳?」
沙耶は勢いよくブンブンと頭を振った。もちろん縦に、だ。
そして、真っ赤な嘘。めちゃくちゃ任務失敗しちゃってる。
さあ、どうしようか。
「さあ、どうしようかな。」
結城様が、ニヤニヤしながら呟いた。
あら、シンクロしちゃった。