6 助けたい
眠ってしまったミスティアを再度ベッドに運ぶと、オルトは近くの椅子に座って頭を抱えた。
彼女は庇護するべきだ。そう強く思う。
しかし、ここで何か問題を起こせば自分は簡単に追放される。この教会の誰かにとって便利な存在で、他の誰かを守るには少々力不足だろう。
それでも、彼女の骨と皮だけの軽すぎる身体や、その身体に無数に残る傷、頼りない声を思い出すと、会ったばかりのこの子を助けなければとも思う。
オルトは、自分の地位に然程執着があるわけではない。
教会での生き方しかしらないだけだ。
だから躊躇っている。すべきだ、と思うのに。
(どうすれば……)
まだちゃんと情報を引き出せていないが、あの灰色のステータスは特殊だった。
授かりの日にはいくつか守らなければならない決まり事と違反できない理由がある。
どんな子供でも12歳ならば必ず教会に連れてくること。
もし連れて来なければ、儀式を行う教会に神託が下り、聖騎士が迎えに行く。
聖騎士は神官とは一線を画す、最も厳格な命令に則って行動する。
最も厳格な命令。それは神託だ。
子供を教会に連れてくる。
その子供が奴隷であって周囲が抵抗するのならその周囲はあっけなく首と胴体が別れることになる。
その子供が病気であって病床から動けないのであれば最高位の回復魔法を施す。
聖騎士の厳格さは、融通の利かなさでもある。
その子供が教会にて授かりの日を迎えることができたのならば、後の背景には関与しない。
再び奴隷として過酷な環境に戻されようとも、病が再発してもう一度病床に戻ろうとも、聖騎士は動かない。
その例外が、聖女や聖人、そして覚者と呼ばれる神から職を与えられた者だ。
神の命令である神託に次いで、神からの職を与えられた者は世界でも各国のトップよりも地位が上とされる。
教会内部に引き込むことができたのならば、その権力は世界に及ぶ。
神に次いだ位置にその者は召し上げられる。好むと好まざるとに関わらずだ。長い世界の歴史で、必ずそうなった。
(可能性があるとすれば、それか……)
規則正しい寝息をたてるベッドの上に視線をやると、オルトは下唇を噛んだ。
「これで本当に聖女だったと、神託が正しく本人に下ったのだと後に分かれば、きっとこれを後悔する」
呪文のような声で呟いた。抑揚が無く、当たり前の事実として、オルトの口から紡がれた言葉。
――彼女を、助けたい。
助けなければではなかった。オルトは、彼女を助けたいから悩んでいる。
つまり、どうしたいかはもう自分の中にあったのだと気付いて苦笑が漏れた。そう、彼女を助けたいのだ。心の中で繰り返す。
きっと目覚めが悪いからとか、そういう動機しかないのだが、その奥に眠っている大きな使命感のようなものがオルトにはあった。
「そうだな。彼女を、助けよう」
そうと決まれば領主の元に向かう必要がある。
立ち上がってベッドに近づき、長い髪に隠れた痩せてやつれボロボロの顔を眺める。
彼女の話を聞くのは、まずは安全を確保してからでいいだろう。
このような状態になるまで追い詰めたのだから、きっと領主にとって不必要な存在であるはずだ。
ならば揺るがしてやればいい。その正当性や地位に関係ないところからだ。
「話が回る前に、私もここを離れなければな……」
今から詐欺を働く決意をして、オルトは部屋を出た。