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17 『状態回復』

「あ……」


 ミスティアの口から音にならない声が漏れた。同時に、赤い血がかふっと口の中から外まで溢れる。

 自分の身体が宙に浮いている。ワイバーンの爪が、呆気なく自分を刺し貫いた。


 ミスティアに邪魔をされたワイバーンは、一体なにが起こったのかと不思議そうにしてから、邪魔なものがくっついた脚を乱暴に振ってミスティアを地面に落とした。


 くしゃ、という音、それが少し跳ねて、地面の上を滑る音。

 オルトは怒りと冷静を同時に自分の中に感じながら、ワイバーンに向かって居住まいを正す。

 もう、手を出さずに済む段階ではないと思い知った。


 背後にいるオルトは茫然としてすぐ、奥歯を噛んで両手を重ねてワイバーンに向ける。


「光は槍となって我が敵を穿つ。光槍七度(こうそうななど)、撃っ!」


 呪文を唱えると青白い魔法陣が手を中心に展開し、撃、の言葉と共にオルトの手から白い光の槍が7本飛び出る。青白く、銀色の魔力を纏った槍。

 一旦曲線を描いて広がった光が、オルトの狙った場所に向かって収束し、ワイバーンの胸、鱗の薄い場所を撃つ。

 オルトの三倍はあろうかという巨体を大きくのけぞらせ、それだけでなく、籠められた魔力が感情により大きくなっていたためにワイバーンの胸を焼き、爆発を起こした。


「ピギャアアア!!」


 ガラスが何枚も割れるような、甲高く不快な悲鳴をあげる。

 爆発によって胸元の肉が抉れ、内臓まで黒焦げになってワイバーンは絶命した。


 先に下りた仲間の死亡。オルトが敵意を籠めて睨んだことで、結界の外で様子見していたワイバーンたちは再び旋回に戻った。

 この結界の穴は小さい。一体ずつでは、オルトとの戦いに不利だと判断したらしい。


「ミスティア!」


 オルトはすぐさまミスティアに駆け寄った。

 ミスティアの四肢は投げ出され、ぴくりとも動かない。


 近づいて傍に跪く。恐る恐る抱き上げようと手を伸ばしたその時だった。


「状態回復……」


 ミスティアの口から零れた言葉に、オルトは動くのをやめた。


 口の端からも、腹に、肩に空いた穴からも血を垂れ流し、土埃に汚れたミスティアの身体が、金色の魔力にくるまれる。

 繭のように全身を包んで宙に浮かび、暫くその形状のまま魔力が循環すると、しゅるしゅるとほどけて霧散した。


「……神よ……」


 オルトは思わず呟いていた。

 傷ひとつ、汚れ一つない、衣服も含めて全てが元に戻ったミスティアが、ふわりと降りてくる。

 腕を伸ばしてその細い身体を抱きしめた。


「……オルト、神官……」

「あぁ、ミスティア……なぜ飛び出したのだ、どうして!」

「あなたを、うしなうの、いやだって……すごく、胸の内側が変になって……、夢中、で」


 無事でよかった、とミスティアは微笑む。

 ミスティアの笑った顔など初めてみたオルトは瞠目し、それから、泣き笑いのような表情になる。

 不器用で愛想がなくとも、オルトは情に厚い人間だ。


 腕の中の頼りない少女が自分のためにと飛び出し、怪我を負い、死ぬのではないかと恐ろしかった。

 だが、生きている。


「あぁ、無事だ……ありがとう、ミスティア」


 その声は、こらえきれなかった涙に濡れていた。

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