13 ようやく自己紹介
朝食にと出てきたのは刻んだ野菜やベーコンの入ったたっぷりのスープと、柔らかいパンだった。デザートにはプリンもついている。飲み物は真っ白いミルクがコップに並々と注がれていた。
ミスティアだけの特別メニューに、目を輝かせて皿とルーシーとメリーの間を視線が何度も往復する。
ルーシーとメリーに連れられてやってきた食堂では、皆が同じメニューを食べている。それぞれトレーの上に大きなソーセージを茹で焼きしたものと、青々としたサラダ、パンは三つまででそれ以上はマッシュポテトに焼いたベーコン。スープもついている。
ミスティアのやつれ具合や食べっぷりから、長いこと胃をまともに使っていないのは明らかだ。
昨日はスープとパン粥を食べ、今日はスープとパンだ。少しずつ普通の食事に慣れさせるつもりらしい。
オルトの手配である。
「食べていいのよ」
「……!」
メリーが優しく頷くと、ミスティアはふかふかのパンを手に取った。まだ温かいそれを割ってみると、ふわりと湯気が立つ。
バターの香りがするそれに齧り付く。
口の中に麦とバターの柔らかい香りが広がって、ミスティアは勢いよくパンを口に入れた。
固くなったパンではない。焼きたての柔らかなパン。
その食べっぷりを微笑ましく眺めていたメリーとルーシーは、スープを飲み始めたミスティアを見てぎょっとした。
両手でスープの入ったボウルを持って直に飲み始めたのだ。
「ミスティアちゃん、おいしい?」
「……!」
口いっぱいにスープを流し込んだのを飲み込んで、ミスティアは頷いた。見習い神官服は既にスープの餌食である。
「……ミスティアちゃん、スプーンって知ってる?」
「? ……料理のなまえですか?」
「うん、そこからなんだね。オーケー」
何か吹っ切れたように笑ったルーシーが頷いて、自分の食事に取り掛かった。
メリーも「今日はもう、思いっきりやっちゃいなさい」と笑顔で言って自分の食事に専念している。
ミスティアは、スープもパンも食べ終わったのち、今度は陶器の器に入ったプリンを手で掘りながら食べ進めて、食事を終えた。
即座に二人の女性神官に部屋に連行されたのは言うまでもない。
◇◇◇
「私は神官のオルトだ。位階は権正階第一位を頂いている」
「……」
綺麗な服に着替えた後に連れてこられたのは、神官オルトの執務室だった。昨日挨拶をしたところである。
今は向かい合って座り、お互いの名前をちゃんと名乗っていなかったので、そこから話を始めようということになったのだ。といっても、ミスティアは何を彼に言えばいいのかわからず、終始ぽかんとしている様子だったが。
「……こほん。君はミスティア嬢、いや、もう見習い神官だからミスティア神官、か」
「神官? 聖女ではなくですか?」
「聖女を名乗るのは、もっと後になるだろうな」
「では、見習い神官のミスティアです」
うん、とオルトは真面目な顔で頷いた。
にこりともしないが、ミスティアに対して怒っているわけではない。
敵意はもっと肌に突き刺さるものだとミスティアは知っている。
肺を狭め、息が苦しくなるものだと、ミスティアはよく知っている。
「これからは、君は教会内の誰かを呼ぶ時には名前の後に神官、と付けて呼ぶように。私の場合はオルト神官、だ。君の世話をしてくれた彼女たちも、ルーシー神官、メリー神官、だ。ここまでは大丈夫か?」
「はい、オルト神官」
「よろしい」
もの知らずではあるが、ミスティアの頭の回転は悪くないと知って、オルトの口元が自然と笑みを形作る。
一般常識はこれからあの二人が指導すると言ってくれているし、ミスティアがしっかり回復し体力をつけるまではこの教会に居る予定だ。
そのため、まだ上にはミスティアの書類をあげていない。オルトはそれを承認する権限があるため、あげる必要もない。
「さて、それではこれまでと、これからの話をする」
「はい」
ミスティアも精一杯背筋を伸ばして頷いた。