依頼編 ヒバナとハナビの火水晶 幕間
数刻前。
カイエンの火窟、下層。
「あのよー、大将」
『……なんだ』
「ほんとにやんの?」
『問題ない。いいからやれ』
「いやいやいや、一年生に『なすり』なんて、俺やだよ?もしも死んじゃったりしたらめっちゃ後味悪いじゃん?」
『……逃げ足だけは早い臆病者のカクガネがついている。そんなことにはならん』
「そりゃあ、あの先輩なら目隠してても余裕だと思うよ?でも違うじゃん。一年が五人とかいるじゃん。話全然違うじゃん」
言外に乗せた、『あの先輩が一年見捨てて逃げたらどうすんの?』って当然の疑問に、大将は。
『もしも、あいつがギルド員を見捨てて一人で逃げるようなら』
「……ようなら?」
『お前が間に入って一年を逃がしてやれ』
これまた素敵な回答が返ってきやがった!
「うわ!大将!そりゃねえよ!やりたくねえよ!どんな顔して『逃げろ、一年!』とかやればいいのか俺全く分っかんねえよ!」
『そうなったらなったで追加で報酬を用意してやる』
「うえー」
こういうことを言い出す時点で大将も本気だ。
「そもそもこういうのザインのが得意でしょうが」
『あいつは支援科だ。下手をすれば気配でバレる』
「はは、そんな、まさか……」
『……………』
「は?なんでそこで黙るんすか?いつものくそ面白くもないジョークの類じゃなくてマジなんすか?」
『通信を終わる』
「あー!」
自分に都合が悪くなったからって逃げやがった。
「ったく、なんで、こう」
術師側から一方的に切られりゃ、こっちは追及の手段とかねえし。
「……まあ、お仕事ってんならやらなきゃいかんのよね」
仕方ねえ。例のパーティーが来る前にちゃちゃっとやっちまおう。
屑魔石で作った礫を取り出して、溜めの形を作った親指の上にセットする。
「あーあー」
火の川の水辺。水はないけどまあ水辺で、すでに手ごろそうなのは見繕ってある。
「そこのトカゲ君も、一年生ちゃん達も」
ぐっと、魔力を引き絞って。
指で弾く。
「本当、運がないねえ」
それなりに威力の乗った指弾に当てられて、こっちを睨みつける首長トカゲ。
目元はしっかりとバリバリにキレた感じで。
「まーじでやりたくねえ」
こっから、上層までこいつを引っ張って一年ギルドに擦り付け。
そん後は。
「まーじでめんどくせえ」
恨むんなら大将の方を恨んでくれよっと。




