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三頭犬の左側 ~残った二頭はバカとエロ~  作者: エル
一年目 カク先輩の章

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ふるえよツルハシ、明日のために! リザルト!


「くっくっく」


 あたし、段々分かってきた気がします。


「まあ、まあまあ」


 この人、こんな悪人面で悪だくみとかしてそうな笑い方してるけど。


「お前らもまあまあやるじゃねえか、あぁ?」


 あれは多分、自分に都合の悪いことをごまかそうとしてる笑いで。

 最後にそれっぽく凄んだのは見栄の類なんじゃないかなぁって。


「くくくく、今回はこっちの方が一歩届かなかったみてぇだが」


「…………一歩かなぁ?」

「っし!パドちゃん、っし!」


 取り決めてた制限時間が過ぎて最初に広場に戻ってみれば。

 明らかに質の劣る石ころと何故か魔獣の遺骸が積み上げられた山が。


 あたしたち一年組はなんであんな襲撃をされたかを察したし、カク先輩に至っては顔を引き攣らせてさえいる。


 秘書さんの『流石に比べるべくもありませんね』という一言で、あっさりと勝負はあたしたちの勝利となった。


「互角の。そう、互角の勝負とはいえ、まあ、こっちの負けは負けだ。なに、潔くそれは認めてやるよ」


 互角とか、潔くの意味知ってます?

 とは思っても口に出さない。

 

 あのカク先輩ですら渋めの顔をさらに歪めて額に皺まで寄せて我慢してる様子なんだから。

 

「なに俺は負けたからと言って勝負の前に決めた条件を破るほどケチ臭い男じゃねえ。今回の採掘で採った獲物は、全部お前らに譲ってやる。その上」


 ニヤっとした悪人顔から。


「俺から健闘を称える意味で、俺たちが今日使ってた採掘装備、全部譲ってやるよ」


 さらっと、とんでもない提案が飛び出した。


「は?」


 最初はその意味が分からずに間抜け面を晒したけど。


「超いい人じゃん」


 思わずぽろっと漏れた。

 それが本当なら、今後あたしたちは地味に高いレンタル料を学園に支払わなくて済むようになるし。


 それどころか、装備を一から揃える手間とか資金とかがまるまる浮く。


「……いいのか?」


 カク先輩のその声は、遠慮してると言うよりもなにか裏があるんじゃないかと訝しんでるご様子。


「くくく、驚いてるようだな、カク」

「……まあ、そうだな」

「なーに、俺らにとっちゃあこの程度の出費なんざ屁でもねえ。そろそろ装備の更新もしてえと思ってたとこだし、むしろ捨てるようなもんだからよう。気にすんなって、な?」

「その割には」


 向こうの用意した装備一式をちらりと見て、カク先輩は言う。


「あまり使い込まれているようには見えんが」

「あ?そりゃ、あれだよ。買ったはいいが、倉庫の肥やしになってた、的な?」

「倉庫の肥やしにしてたものを新調するのか?こんな大事な時期に?」

「そりゃあ、まあ、大事な時期だからこそ、というか。そういうことも、あんだろ」

「……はぁ。バカだバカだとは思っていたが、お前という奴は本当に」

「あの」

「シズク、問題ない。貰っておけばいい」


 カク先輩は訳知り顔で言い切ったけど、あたしには意味のよく分かんないやり取りにちょっと戸惑う。


「ええっと」

「こいつが、俺の想像をはるかに超えるアホだと、そういう話だ」

「おい!なに憶測で勝手なこと抜かしてやがる!」

「……どういうことです?」


 本当に事情がよく分からないのでこそっと聞くと、カク先輩はため息を一つ漏らして。


「後で説明してやる。それより今は、店が閉まってしまう前にさっさと換金に行くぞ」


「っけ!野郎ども!俺らも帰んぞ!」


「「「うっす!」」」


「はい、グレン様」


 予想外に荷物の多くなったあたしたちとは違って、ほとんど手ぶらなのでさっさと支度を終えて、逃げるように去っていく『赤猫の戦団』の皆さん。


 そして、去っていくその最中。


「おーい!カク!」

「なんだ。今更返せと言われても」

「話がある!後でちょっとツラ貸せや!」


 首だけで振り返って、それだけ一方的に叫んで。


「すっぽかすんじゃねえぞ!」


 私たち『私たちの同盟(ユニオン)』と学園最強と謳われた人との邂逅は、それで終わった。




◇◇◇◇



「それで」


 行きは下りだったってことは、帰りは上り。

 さらに言えば増えた荷物やら装備やら素材やらを抱えての帰り道。

 一番荷物を多く持つあたしと次いで多くの装備を背負ったカク先輩は一行の最後尾に付いて話をする。


「これ、どういうことなんです?」

「簡単なことだ」


 カク先輩は面倒くさそうに増えた装備を揺らしながら言った。


「グレンは俺が新しくギルドを立ち上げにかかわったと聞いて、祝いの品でも送ろうと考えたんだろうが」


 その呆れを含んだ声はどこか気安い。 


「素直に渡すのは恥ずかしいとでも思ったんだろう。それで、こんな茶番を仕掛けて、賞品として渡そうと、そんな魂胆だった、という訳だ」


 それは、なんとも。


「アホなんですか?」

「だからそう言ってる」


 それに付き合わされるあたしたちからすれば、たまったもんじゃないんですけど。


「うーん」

「まあ、報酬そのものはデカい。俺たちにはまず金がいるんだ。有難く受け取っておこう」

「けど、それで採掘に必要な装備揃えて、一式くれるって」

「あいつはそういう奴だ。敵には容赦がないが、身内にはアホ程甘い」

「あははは」


 あたしは思わず笑っちゃって。


「なんだ?」


 自分が笑われたのかと思ったのか、ぶすっとした顔のカク先輩。


「そりゃ笑いますよ」


 だって。


「カク先輩、あの人にとっては、まだ身内だと思われてるってことじゃないですか」

「………………」

「ギルドでパーティー組んでたのだって、随分前のことなのに」


 そんな仲間がいるのって。

 なんだか少し、羨ましい。


「そんなに、いいギルドだったんですか?」

「……ああ、そうだな」


 カク先輩が昔いたっていうギルド。

 なんだか凄い場所だって、アウル君は言っていたけど。


「俺なんかには勿体ない、解散するのが惜しいと思った、そんな」


 あたしからすれば。

 学園に残されたいくつもの実績よりも。


「そんな、ギルドだったよ」


 この時の、その実感の籠った一言が。

 ずっと、一番の印象になるのだった。




◇◇◇◇



「よう、カク」

「何の用だ。わざわざ呼び出しまでして」


 夜、換金と分配を終えてギルドのメンバーと別れた後。


 俺はわざわざ町でグレンたちが拠点として確保している郊外の一角に足を踏み入れた。

 広いが雑多で、あまり清潔とは言えない、廃墟にも近い家屋だが、それがこいつの気に入ってるところらしい。


 今は人払いをした後なのか、俺たちの他には誰もいなかった。


「そう警戒すんなって。久しぶりだから、ちょっと話がしたかっただけだよ」


 わざわざ椅子ではなく机に行儀悪く座り込んで意味深に笑う。

 俺は一応の警戒として、座るのではなく、奴の近くの壁に背を預けるにとどめておく。


「それで、話というのは?」

「なに、気にはなってたんだ。お前が、新しくギルドを、それも一年生ばっかのギルドを立ち上げたって聞いて」


 そして。


「お前が本当に、一年生を騙してあのギルドの再現なんてしようとしてんじゃねえかって、な」

「それは」

「ま、杞憂だったみてえで安心したよ」


 くくく、と、グレンは昼間の戦闘を、そしてシズクに切られた啖呵を思い出しでもしたのか、楽しそうに笑った。


「いい仲間、持ったじゃねえの」

「ふん」


 鼻を鳴らして、否定も肯定もしない。

 色々と癪だったからだ。


 特に、その確認のためにぶん殴られた身としては。


「流石に俺らやシンラのバカと競争はできそうにはねえがな」

「もとより、そんなつもりはない。ただ単に、目的が合致したからだ」


 俺の出した条件を、あの考えなしのギルド長が一も二もなく了承したから。


「それ以上でも、それ以下でも」

「本当にそうか?」

「…………………」 

「ま、最初の動機なんてどうでもいいさ。俺だって」


 グレンは両手を広げて誇示するように言うのだった。


「最初にこのギルドを作ったのは、あの記録に挑戦するためじゃねえ。ただ、たった一人の女を救うためだった」

 

 この場所を、ひいては。


「そういう出会いがあって、けど俺はあの団で、あいつらと一緒に俺たちのあの偉業に挑戦したいと思った。俺の作った団は、俺の集めた団員共は、あの日の俺たちを超えられるのか、どれだけのことが出来んのか試したくなった」


 自分のギルドを。


「あいつらのお陰で、俺は吹っ切れた。本当に、感謝してんだよ」

「俺は」

「シンラのバカは最初っから気にしちゃいねえ。そういうタマじゃねえ。そんで」


 多分。


「噂は聞いてたんだ。一人の斥候が、魔石をずっと搔き集めてるってな」


 ここからが本当の意味での本題なのだろう。


()()に、まだこだわってんのか?」

「当然だ」

「諦める気はねえのか?」

「無い」

「先輩はそんなつもりでお前に『アレ』を託したんじゃねえぞ」

「知っている。先輩だって俺だって、いや、あの時いた誰もが、こんなことになるとは思っていなかった」


 だが、今更。


「退けるものか」

「ライルとぶつかることになってもか?」

「……なに?」

「さっきの考えに、俺だけが至るとは思えねえってことさ。特にあいつは、少人数で、『五人』での攻略にまでこだわってやがる」

「……『ビフレスト』」

「少数精鋭なんざ建前だ。そんな奴が、お前のギルドの噂なんて聞いたら、どう思うかね」

「俺のでは」

「同じだよ。俺も最初は勘違いしたくらいだしな」


 それはお前が迂闊なだけだろう、とは思ったが言わずにおいた。

 

「ま、そういうこった」


 それで話は終わりだ、とでも言うようにグレンが机から降りる。


「言うべきことは言った。後はお前次第だよ」

「忠告としては受け取っておく。それと」


 意趣返しとばかりに、俺は去っていくその背中に一つだけ言ってやる。


「お前の団、そこまで言うのなら、一人の女を救うために作ったギルドだというのなら」

「あん?」

「その女の名前くらい正面から呼べるようになったらどうだ?」

「あぐ!」

「くく」

「っんだと!てめえ!」


 言うだけ言って、俺もいざという時のために確保しておいた退路を取った。

 追いかけてきそうな勢いだったが、影も踏ませない。

 

 俺は逃げるのだけは得意で。

 グレンは相変わらず、戦闘以外は苦手ばかりの。


 どこまで行っても、不器用な奴なのだ。



◇◇◇◇


「ったく、余計なお世話だっての」


 言いながら、学園に戻るために根城を出る。


「お話は終わりましたか?」

「おう、今終わったとこだ」


 そこには、月明かりの下で、俺のことを待ってくれていた。


「帰るぞ。ア、ア」


 アイリスの、姿が。


「アイ……、秘書ぉ!」

「…………………グレン様」

「なんでもねえよ!行くぞ!」

「……意気地なし」

「あぁん!?」

「なんでもございません。参りましょう」

「……おう!」


 



『赤猫の戦団』斥候役兼、回復役、アイリス。


 特技は『盗み()』と。

『盗み聞き』である。


 

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