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三頭犬の左側 ~残った二頭はバカとエロ~  作者: エル
一年目 シズクの章

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初めてのダンジョン探索(仮) 9


「ふ、ふふ」


 あえて目標を変えて、術師君へと向けた咆哮(ブレス)。 

 きっと答えは手に入れる寸前。

 けれど目の前には対処すべき攻勢。


 この状況で彼は、いったいどんな回答を見せてくれるのか、非常に楽しみに……。


「あれ?」

 

 そんなことを思いながら、魔力の充填を終えて。

 私は、状況が想定とは全く違う推移を見せていることに気が付く。


「……いや、嘘でしょう!?」


 彼、術式のほうに没頭し過ぎてて、こっちに気が付いて、ない。


「サ、サンちゃん、ひゃっばい!?中止、中止ー!!」


 あれ、無防備な魔術師なんかが喰らったら、洒落にならない!

 流石に試験でそこまでやる気はない!


「と、止まって!」


 必死に発射を遅らせ、威力を散らそうとして。


 けれど、祈り届かず。


(あ、終わった)


 あわや大惨事という事態に、わたしは天を―――。


「……へ?」



◇◇◇◇


(あれ?)


 最初に感じたのは、違和感。


(なんか)


 なんていえばいいんだろう。

 ずっと感じてた、粘っこい視線を、感じなくなった、というか。


「そもそも」


 あたしにずっと向かってた攻撃が、来ていない。

 なにかおかしいと思って、急いで骸竜の方を見やれば。


「嘘!」


 今まで、ずっとあたしのことしか狙ってなかったあの骸竜が、その首を、敵意を、いつの間にかアウル君の方に向けていて。


 その上。


(なんかやばそう!)


 見えなくても、ずっとそれに追われていたから分かる。

 あの赤い魔力が喉を振るわせて、吸い込んだ吐息と共に圧縮されていってるって。


(アウル、くんは)

 

 急な攻撃目標の転換に、それを向けられたアウル君は。

 気が付いて、ない。


(あたしの、せいだ)


 あたしがこの怪物をずっと引き付けていられなかったから。


(あたしのせいで、アウル君が)


 あたしが、引き剥がされた視線に気が付くのが遅れたから。


(アウル君が、死んじゃう!)


 ドクン、と、心臓が早鐘を撃って。

 世界が、動きを止める。


(約束、したんだ)


 アウル君は、あたしを信じてくれたんだ。


(大丈夫って、言ったんだ) 


 だからあんなに集中して、あいつを倒すための準備、してくれてたんだ。


(なら、あたしは)


 時の止まった世界の中で、充足された魔力が左手から足元に集まり。

 爆発的な最初の一歩を、踏み出す。


(みんな)


 二歩、三歩と、魔力を駆使して急速に動く身体を無理矢理にコントロールする。


 考えなしに動いた結果だけど、後悔なんて微塵もない。

 

(力を、貸して!)


 契約紋を通して、その繋がり確かに感じる。

 



 魂の奥深くで、何かが、揺れる。


 それは一瞬のイメージ。


 風と、月と、それから、白い花の憧憬。




「あたしが!」


 踏み込み、振り向く。


「アウル君を!」


 そこは、竜とアウル君を結ぶ直線のその終点。


「守るから!!」


 何かの確信があった訳じゃなくて。

 ただ自身の魂の趣くままに、左手を巨竜に向けて突き出す。


 三つの契約紋が、輝き、あたしは叫び。


 

「『猟犬の秘儀(ハウンドアーツ)』!」


 再現する。


 重ねた魂の映し出す、あの日見た、感じた、情景を。



「『朽ち果てぬ城門(トライアド)』!」


 

 同時に、放射される竜種の息吹(ブレス)



 赤と灰銀の混ざり合った熱線が、三つの力によって支えられた盾へとぶつかり、過剰な魔力が閃光をまき散らして弾けていく。


「はぁぁぁぁ!!」


 盾越しに、じりじりと灼かれるような重圧。

 それだけの魔力と放熱が、障壁を通して伝わってくる。


 それでも。

 

「っぐ!」


 あたしの張った守りは、圧倒的な力を持った竜種の咆哮さえ、受け止めて見せた。


「―――――!!」


 けれどこの盾は、本質的に今のあたしには過ぎたるもの。


(これ)


 盾は砕けず、とも。

 

(あたしの方が、もたない)


 盾そのものを支えるあたしの力が、どんどん足りなくなっていって。

 足が地面から、浮き上がって。


「―――――!!」


 最終的にその出力に耐えきれず、吹っ飛ばされる。

 

(アウル、くんは)


 ダンジョンの地面を転がりながら、無事を確認しようとアウル君の方を見やれば。


「シズク」


 そこには。


「よくやってくれた」


 万全、全ての準備(オーダー)を終えた魔術師の姿が、そこに。



◇◇◇◇


(答えは、得た)


「『――――刻め(セット)』」


 伸ばしていた神経を手繰るように、魔力の枝葉を伸ばしていく。

 突き立てた儀礼剣と陣を起点に。


「……そもそも、最初からおかしいと思ってたんだ」


 追う攻逆、辿るは、七つ。

 

「安全に考慮されていないように見せた転移位置に、都合よく出現するモンスター。そしてそいつらが僕たちの出した結果に合わせるように、順々に強くなっていったこと。極めつけは、戻り道の終点に灰骸の竜(あんなもん)、っは!よっぽどのバカじゃなきゃ、気が付くっての」


 この試験には試験官が居て、戦闘によって僕たちを試していた。

 そして、試験官が要るのなら。


「あれに対する解答を用意してる」


 精査の魔術ですぐに分かった。


 あの『灰骸の竜(サニティ・ドラゴン)』は人為的な召喚術によって呼び出されたものなのだろう。

 そして、あれを維持するために刻まれた陣が、部屋の各所に七つ配置されている。


「隠蔽もせず、それどころか壊しやすいように陣を脆弱に作ってくれててさ。わざわざ、お疲れさまってやつ?」


 シズクに指示して、走り回って一カ所ずつ破壊してもらう手もあったけど、そんな案はすぐに捨てた。

 彼女に、そんな器用な真似ができるとは思えなかったし、なにより。 


 灰骸の竜(あれ)どうにかするのは、僕に任された役目だ。


「『―――――連結(ハック)』」


 仕掛けられた陣、七つすべてに、僕の魔力はすでに到達している。

 それら全てを、同時に。

  


「『―――――破壊(パニッシュ)』」


 浸食し、破壊する。

 


『ふふ、お見事』



 同時に、脳内に直接声が響いた。

 この声の主が、試験官役の術師なのだろう。


 直結させた魔力路を使っての、お褒めの言葉。

 ああ、なるほど。


「はぁ?」

 

 そいつを、思いっきり嘲ってやる。

 反吐が出るってな。


「なに勘違いしてんの?」


 繋いだ魔力の陣、それら全てを僕は。


 ()()()()()()()()


(『あんなの、倒せたら』)


 こんなのは、そう。


「鬱憤晴らし、ついでさ」


 そうさ。

 これはあくまで、ここまで弄んでくれたことへの鬱憤晴らしだ。



(『きっと完全、完璧だって!』)



 中途半端に破壊された陣によって、あれだけ強大だった『灰骸の竜(サニティ・ドラゴン)』は自己を維持できず、力を失い、地に伏して身体から灰を零れ落としながらも、まだ返還されずにこの場所にとどまっている。


「『その身に、刻め』」


 もう、すでに崩壊は決定づけられた。

 けれど。


「『定理、構築』」

 

 たっぷりと、余裕をもって魔力を練り上げ。


「『応えよ、我が血に流れる魔の系譜よ』」


 儀礼剣を、掲げる。


「『振るう、我が血に流れる技の継承を』」


 そこに、全てが収束される。


「『しかして、見よ。これは、我が系譜による秘奥』」


 短縮無しの完全詠唱魔術と、研磨されし剣技。


「『魔技(エクス)()叡智(アーツ)()切断(マギア)』」


 それらを、振るう。



「……我が家秘伝の一刀さ」


 竜種の護り、魔力の防護、竜骨に覆われた巨躯。

 ああ、どれも強力無比だろうさ。


 中途半端な魔術なんかじゃ、傷一つつけられない。

 けれど。


「詠唱は尊大なくせに限界まで魔力を込めた剣でぶった斬るだけなんて、エレガントさに欠ける、魔術と呼べるかも怪しい代物だけど」


 我が一族の技と魔の粋は、それらすべてを凌駕する。

 

「ま、威力だけは絶大ってね」


 放たれた斬撃は、ただの一刀で、最強種の紛い物を真っ二つに断ち切った。

 


『―――――――!!!』


 そして、今度こそ。

 最強種、僕たちの前に立ち塞がった最大の敵は。


「こういうことだろ?」


 その身体を完全に崩壊させて、これまで倒してきた召喚兵どもと同じように。

 魔力の残滓を灰の塵へと溶かしながら。


「完璧ってのはさ」

 

 あるべき場所へと帰っていく。


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