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三頭犬の左側 ~残った二頭はバカとエロ~  作者: エル
一年目 シズクの章

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初めてのダンジョン探索(仮) 幕間1


  

『こちらスター(フォー)、二階層へと到達』


『こちらスター(ツー)お嬢さん(フロイライン)が階下に降りるのにもう少しかかりそうです』


『マスター(ワン)、了解。スター(フォー)お嬢さん(フロイライン)到着次第状況を開始する。それまで、時間を稼いでくれたまえ』


『了解』



◇◇◇◇



 魔道具による交信を終えて、アウル君の元へと戻る。


「済まないね。定時連絡はうちのルールなんだ。こんな時でも」

「いえ、大規模ギルドであればそれは必要な事かと」

「……分かって貰えるのなら嬉しい限りだよ。戦技科の人間なんかには、そういうのを軽視する者も多いからね」


 言いながら、確認する。


 あと、少し。


「さて、アウル君」

「なんです?」

「ここから先は、本格的な試験の開始となる」


 僕は今回の一件、ハッキリ言って乗り気ではない。

 だから。


「今なら、まだ引き返せる」

 

 今更。


「それでも、君は進むかい?」


 そんな言葉が、つい口をついて出てしまった。


「先輩」

「なにかね」


 僕の質問に、アウル君は答えず。


「人がいいんですね」


 そんなことを言われてしまう。


「その言い方じゃ、この先になにか仕掛けがあると言っているようなものですよ」


 ……何とも。


「やりますよ」


 その上で。


「今回の件、無理を言ってるのはこちらです。言われていない何かがあるのだとしても」


 そう、返されてしまう。


「それを跳ね除ける必要があるのは当然のことです」


 そうか。


『こちらスター(ツー)お嬢さん(フロイライン)が目標地点に到達』


 このタイミングで、状況開始の合図が送られてくる。


「惜しいな、本当に」


 真摯にそう思う。


「なんですか?」

「君が、去年入学してくれればと、そう思っただけだよ」

「それは、どういう……」


 アウル君が言い終わらないうちに。


 最速でホルダーから拳銃を抜き出し、アウル君へ向けて発砲する。


「―――!!」


 こちらの一方的な攻撃に戸惑いながらも、一応警戒はしていたんだろう。

 咄嗟に無詠唱による魔導障壁が展開し、銃弾を弾く。


(ますます、惜しいな)


 普通の生徒であれば、今の一発で終わっていてもおかしくはなかった。


 けれどきちんと反応して見せた。


「『パラライズ……』」

 

「『小さな解呪(リトル・ディスペル)』」


 麻痺呪文、撃たせない。

 短縮詠唱は、妨害に脆弱になる欠点がある。

 その脆さをついて魔術を紐解く。


「…………!!」


 対人の経験は薄いのだろう。

 魔術を剥がされる感覚に狼狽えたように、距離を取ろうとする。

 

 無理には、追わない。

 今度はしっかりと照準を合わせて、間違って当てないように引き金を二回引いていく。

 

「くそ!」


 魔導障壁に弾かれるが、構わない。

 それで選択肢は狭まる。

 

 攻撃は受けられる、けれど魔術は潰される。

 なら。


(そう)


 アウル君はこちらのことを視界に収めたまま、隣のフロアへと退避する。

 ここは比較的に広く、遮蔽物がない。

 同じフロアに居ては不利だと判断したのだ。

 

 それは、正解。


(君は優秀だ。故に、それを選べるだろう)


 そう、彼が足を踏み入れたエリアこそが。

 

(こちらの思惑通りに)


 僕たちの誘導したかった場所。



「なっ!!」


 

 人が足を踏み入れた瞬間、罠が起動する。

 フロア全体を覆う赤く励起した魔法陣。

 

 嵌められたと気が付いたアウル君は急いでその部屋から脱出しようとするけれど。


「……悪いね」


 ここまでやっておいて、そこを疎かにする我らが団長ではない。

 

「―――!」


 アウル君は悔しそうに歯噛みする。

 入ることは出来ても、出られない。

 そういう類の結界を張られていると理解したからだ。


 そして。


「……『小さな解呪(リトル・ディスペル)』」


 本当に彼は優秀だ。

 気が付いてすぐに、結界の解除へと動いた。

 僕は、それを隣から妨害する。


 これで、手詰まり。


(目標の半分は達成。後は――)


「クライム!」

「……フェイ教諭」

「なにやってんだ!」


 もう、半分。

 

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