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9話 異変

 僕は妙な胸騒ぎがして、夜中だというのに目が覚めてしまった。仕方ないのでもう一回寝ようとしたが、どう頑張っても寝ることができない。


 困ったな。父さんも母さんも寝てるから下手に動いて起こすわけにはいかないし……


 僕がそんなことを考えていると、突然爆発音がし、空に煙が上がっていた。


 「な、なんだ今の……」


 僕は動揺し、シルを起動する。シルの力なら何か分かるかもしれない。


 「ん? マスター、まだ夜中ですよ?」


 「そうなんだけど……さっき爆発音がしたんだ、何があったか調べてくれない?」


 「分かりました、少しお待ち下さい」


 シルは少しの間止まっていたが、やがて僕に語りだした。


 「監視装置にハッキ……じゃなかった監視装置によると、どうやらある研究施設が爆発したみたいですね。」


 待って今ハッキングって言いかけたよね!? 僕のゴーレム思いっきり犯罪犯してるんだけど!?


 僕は怖くて心の中でツッコミを入れる。ハッキングというのは宙に漂う魔力を利用して相手の魔道具を操る手段だ。僕はそんなのシルに教えた覚えはないが、一体どこから知ったのだろう。


 「他にも勝手ながらマスターの魔道具も使用して色々調べました。我々に被害が及ぶことはありませんよ」


 「そ、それならいいんだけど。じゃあ素直に寝るよ」


 僕はどこかすっきりしなかったが、大人しく寝ることにした。寝不足は敵だ。


 しかし次の瞬間、家のチャイムが鳴り僕の眠りは妨げられた。


 こんな時間に家にやってくるなんて! 誰だか分からないけど怒ってやる!


 僕が玄関に行くと、父さんと母さんに会った。父さんと母さんは険しい表情をしていて、僕を見つけると手で離れるように指示する。


 「アレス、父さんに任せてあなたは下がっていなさい。危険よ」


 「覗き穴で見る限り、小柄な少女と言ったところか。レイラちゃんではなさそうだな」


 父さんは杖を持ちながら覗き穴を慎重に見ていた。ただでさえあんな爆発のあった直後だ、警戒しないほうがおかしい。


 「レイラはこんな非常識なことしないよ。でも誰だろう?」


 僕は父さんに代わり覗き穴を覗き込む。するとそこにはクラスメイトのマキナさんが立っていた。


 マキナの体には火傷や傷がそこら中にあって、服もボロボロだった。


 「マ、マキナさん!? なんでここに!?」


 「アレス、知り合い?」


 母さんが心配そうに声をかけてくる。母さんは手に拳銃を持っていて、いつでも撃てる体制だ。


 「うん。クラスメイトだよ。でもなんでここに……」


 「うーん、よく分からんが怪我してるみたいだしとりあえず話だけでも聞いて見るか。というわけでアレス! 後は頼んだ!」


 「え、えぇ!?」


 父さんは母さんを連れて一歩前に下がってしまった。僕は仕方なく扉を開け、マキナさんに話しかけようとした。


 だが、マキナさんは僕が扉を開けた瞬間、倒れてしまった。


 「マキナさん!」


 僕は慌ててマキナさんを家の中に入れると、彼女の体に素早く応急手当てを施す。そして自分の部屋から物質接着装置を持ってくると、彼女の傷を癒やした。


 「この子、悪魔族の人間か。悪魔族はよっぽどのことがないと死なないと聞くが、一体何があったんだ?」


 父さんは訝しげにマキナさんを見つめる。母さんもあまり信用していないらしく、警戒を崩さない


 「さあ、それは聞いてみないと分からないよ。母さんも父さんも寝てて。マキナさんは僕が見てるから」


 「……分かったわ。気をつけてね」


 母さんと父さんは僕の指示に従ってくれて、寝室へと戻っていった。


 それから日も昇ってきた頃、ようやくマキナさんは目を覚ました。状況が飲み込めていないらしく、辺りをキョロキョロと見渡している。


 そして自分の体に包帯が巻かれていることに気がつくと、ピタッと彼女の動きが止まった。


 「アレス君、その……ごめんなさい! 迷惑だったよね?」


 「いや、まあ迷惑ではあったけど別にいいよ。もしかしてあの爆発に巻き込まれたの?」


 あんな怪我をしていたんだ、誰かに助けを求めるのは当然のこと。ただ一つ気になるのは、うちからあの爆発地点からはかなり離れていることだ。


 「……違うの、あの爆発は私のせい。ごめん、これ以上迷惑をかけないうちにもう行くね」


 「待って! もう少し、話を聞かせて。じゃないとこっちも納得できない」


 僕はフラフラと体を揺らしながら出ていこうとする彼女を止める。勝手に自己完結されては余計に困る。


 「……分かったよ。説明するから手を離して」


 僕がマキナさんから手を離すと、彼女はソファに倒れるように寝転がった。そして僕に何があったか説明してくれた。


 父親を問い詰めたら殺されそうになったこと。自爆した後に瞬間移動で逃げたこと。瞬間移動に失敗して位置がズレたこと。そして近くに僕の家があったこと。


 僕は話を聞いていくうちに、恐怖を抱き始めていた。この子の父親はなぜ簡単に実の娘を手にかけようとしたのだろう。


 マキナさんの自爆の件も問題ではあるが、状況を考えると仕方なかったのかもしれない。


 あの時間帯は人はいないはずなので、マキナさんの父親以外は被害者はいないようだし。


 「お父さんの様子がおかしいと思ったのは、あの事件の前日だったの。急に学校休めなんて言い出してさ」


 「それで結局その日は休んだよ。なんか怖かったから。でもあの事件があってから、お父さんが怪しく思えてきて、しばらく尾行してたの」


 「そしたら人体実験やら何やらやっているのを目撃して、止めなきゃって思ったの。誰かに相談はできなかったから、一人で」


 「その結果がこのザマだよ。自爆しても私は生き残っちゃってるし、お父さんも絶対生きてる。できたことと言えば、あの人の計画を遅らせられただけ」


 マキナさんは話し終えると、紫色の長い髪を揺らして起き上がった。


 それ、無理心中しようとしてたってことだよね? と僕は内心思ったが、口には出さなかった。間違いなく今彼女に言ってはいけない言葉第一位だからだ。


 「……これからどうするつもりなの? お父さんが生きているなら家には帰れないと思うけど」   

  

 「とりあえず当分は野宿かな。君は気にしないで、自分のことは自分でやるから」


 マキナさんはそう言ってまた家から出ていこうとするので、僕は慌てて止めた。


 「まだ怪我治りきってないのに動いちゃ駄目だよ! それに、野宿するにしてもせめてこの子を連れて行って」


 僕はマキナさんにシルを渡す。僕は正直なにもできないが、シルならマキナさんの助けになるだろう。

 

 「ありがとう。それじゃもう行く」


 「ちょっと待ったーーー!!」


 マキナさんが玄関を開けると、そこにほ赤髪の少女が仁王立ちをして待ち構えていた。一体どこから嗅ぎつけて来たのだろうか。


 「話は大体シルから聞いた。マキナ、あんたもどっかの誰かさんみたいにはっちゃけてるわね。でもそこまで自暴自棄になることもないんじゃない?」


 「あ、あなたに何が分かると……?」


 マキナさんは苛立ちを隠せずに、レイラに突っかかる。レイラはそんなマキナさんを抱きしめ、耳元で囁いた。


 「ごめん、確かにあんたの気持ちは完全には分からない。でもさ、共感ぐらいはさせてよ。せっかく知り合った仲なんだからさ」


 「や、安い同情ならやめて!」


 「いやだから共感だって。私もあんたと同じ立場に置かれたらパパをぶっ殺しに行くわ。そんなの私のパパとして相応しくないもの」

  

 なんだろう、シンプルに怖い。僕も一線超えたら殺されるってこと? ……ちょっといいかも。


 「え、あ、うん。そんな理由……?」


 マキナさんはレイラにドン引きしたのか、すっかり毒気が抜かれてしまっていた。


 「あ、そうそう。もしよかったら私んち来ない? 親の許可は取ってるから気にせず来な」


 「なにふざけたこと言っているの? 私は犯罪者なんだよ?」


 「いやいや、そんなこと言って助けは欲しいんでしょ。違うならなんでアレスの家に来たのさ。あんたはくたばり損なった結果、死ぬのが怖くなったんじゃないの?」


 レイラの目がまっすぐとマキナさんを見つめる。僕は黙って二人のやり取りを後ろで見ていることしかできなかった。


 「もっと自分に素直になりな、あんた多分結構我儘なのに我慢してきたクチでしょ。まあ悪魔族は差別の対象だしその辺難しいのかもしれないけど」


 「う、うん。でも本当にいいの?」


 「私は構いやしないよ。両親もむしろ労働力増えるなら大歓迎だってさ」


 「それじゃ……お言葉に甘えて」


 マキナさんはレイラを抱きしめ返す。どうやら無事に解決したようだ。結局、僕はあまりいいとこなかったけど。


 「アレス君もありがとう。手当てしてくれただけじゃなくて、話まで聞いてくれて」


 「僕は褒められるようなことはやってないよ。実際、君を助ける手段を僕は持ってなかった」


 「そんなことないよ。君がいなければ私は死んでいたから」


 マキナさんはこちらに微笑む。その顔は先程と違ってさっぱりしていた。


 正直、彼女を巡って様々なトラブルが起きることは容易に想像がつく。


 僕達も彼女を通じて真実を知ってしまった以上、無事では済まないだろう。


 それでも僕はなんとかマキナさんの力になりたい。この話を聞いて黙って見ているだけの人間にはなりたくない。


 僕は強く拳を握り、決意を固めた。


 

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