3話 決闘準備
レイラとシルの口論が終わると、二人はすっかり仲良くなっていた。今僕は二人の会話に入れなかったことを悔やみながら学校に来ている。
「き、昨日は申し訳ございません。つい盛り上がってしまいまして」
「ごめんアレス、完全に存在を忘れてた!」
「いや、いいんだよ。二人共楽しそうで良かったから」
シルはポケットの中から頭だけを出すと、僕に謝ってきた。レイラも僕に軽く頭を下げている。自分としては少し寂しかったのは事実だが、二人が仲良くなれたならそれでいい。
「おおアレスにレイラ無事だったのか!」
僕達が話していると、僕の友人である総一朗君が話しかけてきた。彼は極東の国から来た留学生で、妖術師の家系らしい。
「おかげさまでね。総一朗君も元気そうで良かったよ」
「ああ。実は俺の方にもモンスターやテロリスト共が来たが、周りの奴等が優秀で返り討ちにできた」
総一朗君は頭を掻きながら答える。彼の黒い髪が揺れ、太陽光に照らされて光る。
「おぉ、凄いね!」
「いや、俺だけの力じゃないからな。称賛には値しない」
「誇ってもいいと思うけどね。あ、そうだ! そのテロリスト達様子おかしくならなかったかしら?」
レイラは総一朗君に例の男の暴走について尋ねる。僕はその話を聞いて、あの異様な光景を思い出した。
「なったな。突然化け物に変わって拘束から逃れていた。あれは怖かった」
「やっぱりそうなんだ。急に強くなるからびっくりしたよ」
「だろうな。……そういやアレス、あのエギルと決闘するんだって?」
総一朗は急に真面目な顔になり、僕を鋭い目で見つめてくる。
「う、うん。その……ついカッとなっちゃって」
「別に責めてるわけじゃない。問題なのはお前の生死の話だ」
「生死って……大袈裟すぎませんか? たかが決闘でしょう」
シルはポケットの中から総一朗君にツッコミを入れる。総一朗にあまり見られたくないのか、出ているのは上半分だけだ。
「……なんだこの可愛らしいゴーレム。アレスのか?」
総一朗は目を丸くし、目の前にいるシルを見つめる。そういえば総一朗君には紹介していなかった。
「あ、うん。シルって言うんだ」
「こんなに小型で知能の高いゴーレムを作るとは。さすがアレスだな」
「そうでしょう、マスターは凄いのです!」
シルは何故か偉そうにしている。総一朗は面白そうにシルを観察していた。
「おっと、話が逸れてしまったな。確かに普通の決闘なら死ぬ心配はそこまで要らない。だが、武器ありの決闘なら話は別だ」
僕はあまり、武器の有無でそこまで差が生まれるかは懐疑的だった。僕のような非魔法使いならとにかく、エギルは立派な魔法使いだ。武器など頼る必要すら怪しい。
「ここでいう武器は魔道具とは違う。ここでの武器は少ない魔力で強力な魔法を撃つための物。魔法武器というものだ。」
「それの何が問題なのですか? マスターが使う魔道具とさほど変わらないような気がしますが」
「それが違うんだ。確かに最大出力はあまり変わらないだろうな。だが、魔法武器の火力は調整がしにくい。本人の意思関係なく殺してしまう可能性があるんだ」
「なるほど。だから危険なのね」
レイラの問いに総一朗君は頷く。そして彼は僕の隣の椅子に座り、リュックから一枚の紙を取り出した。
「そこでだ。俺とアレスで先に決闘をしてみないか? もちろんお互い怪我のない範囲でやるが、嫌なら断っても構わない」
「いや、お願いしたいな。僕も決闘なんかやったことないから不安なんだ」
「よしきた。それじゃ早速この紙を提出してくるから、放課後決闘だ」
総一朗はそれだけ言うと教室を飛び出していった。決闘は基本許可制で、監督が一人必要だ。だからこのように事前に申請しなければいけない。
「あの、マスター。もしかして彼、ただあなたと決闘したかっただけでは?」
「うーん、五分五分じゃないかな。僕を心配してたのは間違いないし、別に悪い気はしないけどね」
僕はシル達に微笑む。僕としても総一朗君との決闘は楽しみだった。初めての決闘は緊張するが、総一朗君ならきっといい試合になるだろう。
それから僕は決闘が楽しみでソワソワしながら授業を受けた。途中レイラから注意されたりもした。
そして決闘の時間になり、僕達は決闘場と呼ばれる場所に向かっていた。
「襲撃があったというのに、ここは何一つ壊れてないわね」
「そりゃそうだ。万が一でも中からの魔法を貫通させるわけにはいかないからな」
決闘場は3重のバリアと超合金によって守られていて、よほどのことがなければ壊れそうにない。現にここは緊急時の避難場所の一つとされている。
「さあ、それじゃ始めようじゃないか。準備ができたら呼んでくれ」
総一朗君は決闘場に入るや否や、真っ先に反対側に行き僕を待っていた。今にも決闘したくてたまらないのだろう。
「早いわよ戦闘狂。大人しくアレスの準備が終わるまで座ってなさい」
そんな総一朗君をレイラは嗜めた。まあ実際まだ監督の先生すら来ていないので、あまりに早すぎる。
「いや、俺は待てない。実はあの襲撃から戦闘してなくて禁断症状が出てしまってな。早く戦闘しないと身が持たないんだ」
「やっぱりあなた、決闘したかっただけじゃないですか! あの真面目な顔はなんだったんですか!?」
シルは総一朗に対して鋭いツッコミを入れる。僕も今となってはかなり総一朗君のことを疑ってしまっている。
「人聞きの悪いこと言わないでくれ。ちゃんとアレスのことも考えてるつもりだ。あくまでつもりだけどな」
「それじゃ駄目じゃないですか!!」
シルがワーワーギャーギャー騒いでいる間に、監督の先生がやってきた。僕の方も準備が整っている。
「それでは、今からアレスvs総一朗の決闘を行う。ルールは分かるか?」
監督の先生は決闘場の中央に立ち、決闘場中に響き渡る声で話す。
「実は、あまりよく分かっていません」
僕は非魔法使いだ。決闘とは本来無縁だし、知る必要もないと思っていて全く覚えていない。
「だろうな。ルールは簡単。相手をエリア外に出すか、倒してから10秒間相手が立ち上がらなければこちらの勝ちだ。何か質問は?」
「ありません」
「よし、なら始めるとしよう。両者、準備はいいか?」
「はい!」
「大丈夫です」
「それでは……始め!」
先生の合図と同時に総一朗君は一気に距離を詰めてきた。僕は距離を取ろうと後ろに下がるが、総一朗君は構わず突っ込んでくる。
総一朗君は僕のすぐそばまで近づくと、手から炎を出した。僕はそれを警戒していると、炎はみるみるうちに木刀へと変わっていた。
「うわっ!」
僕はシルの力を借りて総一朗君の木刀を避け、電撃銃で反撃する。だが、総一朗君はそれを謎の力でかき消してきた。
「いい反撃だ。だけどこれならどうかな?」
総一朗君は地面に手を付くと、地面から木刀を生やしてきた。僕はギリギリで跳ねて避けるも、空中で無防備になってしまった。
そこを総一朗君は見逃さず、的確に木刀で追撃をしてくる。
「うぐっ!」
まずい、分かってはいたけど経験値の差がありすぎる。シルの援護があるとはいえ、このままじゃ負ける!
「よく、妖術と聞くと幻覚を見せるイメージが強いと思うが、実際は違う」
「な、なにをいきなり……」
「実際は变化の術と幻影の術を合わせて使うのが基本だ」
総一朗君は戦闘中にも関わらず、自分の魔法についてベラベラと喋っている。
「敵にどちらの術を使っているか悟られないため、詠唱もすることはない」
総一朗君は木刀を振り回し、次々に僕の体力を削っていく。
「このように、魔法はただ使ってゴリ押しをするものではない。アレスもできていないわけではないが、まだ足りない」
次の瞬間、総一朗君は木刀を空中に放り投げた。するとそれは炎へと戻り、僕に襲いかかった。
僕はそれを電撃銃の追加機能であるバリア生成弾を利用して防ぎ、再び総一朗君に向けて電撃弾を撃つ。
「その戦闘の技術はどこから手に入れた? 見たところ、戦闘自体は明らかに不慣れだ。にも関わらずお前は確実に反撃してくる」
総一朗君は再び炎から木刀を作り出すと、こちらに斬りかかる。
「シルにサポートしてもらってるんだ。君から見たら滑稽だろうね」
「いや、そんなことはない。ただお前は魔道具に使われてしまっている。それでは俺には勝てない」
総一朗君は止めと言わんばかりに地面から木刀を大量に生やし、僕を場外にふっ飛ばした。
「試合終了! 総一朗の勝ち!」
先生のよく通る声が響き渡り、決闘が終わったことが知らされた。
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