1話 非魔法使いの戦い方
僕、アレス・ターナーは今、学校の廊下にて複数の男子に囲まれていつもの様に悪口を言われている。
「ようアレス。ガラクタの整備の調子はどうだ?」
「ガラクタじゃないよ、これはちゃんとした機械なんだ」
このやり取りも何回もした。でも彼らは僕の道具を見ようともせず、ただガラクタと決めつけるだけだ。この反論に対し、彼らのリーダー格であるエギルが嘲笑うのも、いつものことだ。
「いやどうみてもガラクタだろ、特に――」
そこで彼は言葉を切った。彼らの真後ろに赤髪の少女が仁王立ちをしていたからだ。
「あんた達邪魔だよ。どいたどいた」
「ゲッ、レイラだ!」
レイラは彼らを手で退けると、僕の手を掴んで引っ張っていく。僕はなすがままに彼女についていく。
彼女は僕の幼馴染みで、僕とは比べ物にならないぐらい強いエルフの少女だ。だからエギル達も恐れているのだろう。
そうして彼らから遠ざかった所で彼女は立ち止まり、こちらに振り返った。
「あいつらいい歳こいてあんな事して本当に馬鹿よね。大体魔力以外なんにもアレスに勝てる要素ないのに喧嘩売るし」
「まあでも実際魔力は重要だからね。魔力のない僕があまり良い目で見られないのは当然だよ」
普通、生物には魔力を作り出す器官が存在しているが、僕には生まれつきの病気でそれがない。だから魔力がないし、自分で魔法を使うこともできない。
「アレスには魔道具があるからいいじゃない。大体さっきだってあんな奴等アレスが作った魔道具で懲らしめられたでしょ?」
魔道具。それを使えば、たとえ僕のような人間でも魔法が使える道具だ。魔道具の使用には魔力が必要だが、魔力自体は家畜が作った物などが手に入れられる。
「あれはそういう目的の為に作った訳じゃないよ……あれは単純に人助けの為に作っただけで、私利私欲を満たす物じゃない」
僕は顔を曇らせながらそう答える。すると、レイラは呆れたような嬉しそうな表情を浮かべた。
「うーん、まあアレスがいいならいいけど。でもあんまり酷くなったら先生に言いなよ?」
「う、うん。分かったよ」
僕は素直に頷くと、レイラと共に教室へと戻る。正直、先生に言った所で解決するとはあまり思えないが、レイラに心配をかけるのも良くない。
そんな会話をしている時だった。モンスターが現れ、校内の壁を破壊したのは。
「な、なんなのこいつら……」
レイラは動揺を隠せないようで、震えた声を出しながら一歩後ろへ下がった。
反対に僕は一歩前に進むと、ポケットからパラライザー(電撃銃)を取り出し、モンスター達に向ける。
そしてモンスター達を素早く撃ち抜くと、レイラに手招きをする。
「大丈夫、もう倒した」
「あ、あんたなんでそんな冷静なのよ! 普通こんな状況なら戸惑うでしょ!」
「い、いやごめん普通に腰抜かしてるよ。今僕が動けたのはこの子のおかげ」
そう言って僕は胸ポケットの中から一体の人型ゴーレムを取り出す。ゴーレムというのは魔力を使って自律的に動く機械で、作るのには魔法に関するかなりの知識がいる。
僕はつい最近、自分自身の力で一体の小型ゴーレムの作成に成功した。大型のものならいくらでも作れるが、小型になると難易度が一気に跳ね上がる。だから作るのには相当な時間がかかった。
「もしかしてそれ、この間作ったって言っていたゴーレム?」
「うん。シルって言うんだ。生活・戦闘補助用に作成したから今みたいに僕の動きをサポートしてくれるんだ」
「シルです、よろしくお願いします」
「レイラだよ、こちらこそよろしく」
シルはレイラに向かって挨拶をすると、僕のポケットの中に戻る。あまり魔力を消耗させたくないのだろう。
「それで、なんで急にモンスターが現れたのかしら?」
「うーん、見当もつかないなぁ。でも間違いなく異常事態だろうね」
僕は肩をすくめてそう答える。先程からあちこちから物音や叫び声も聞こえていて、正直僕は少し怖くなってきた。だからシルの話をして気持ちを誤魔化したのだ。
「そうね。なにかある前にさっさと避難しましょう」
僕はレイラと共に慎重に廊下を進み、中庭へと向かう。すると突然レイラの足が止まり、彼女はこちらに振り返った。
「アレス、あれ……」
僕はレイラの指を指す方向を見ると、そこには一人の男と、倒れているエギル達が居た。
「ま、まずいねあれ。止めないと!」
「待ちなさい! 今飛び出したらあんたもああなるわよ!」
僕はレイラに首根っこを掴まれ中庭に行こうとするのを止められた。
「で、でもあのままじゃエギル達がやられちゃうよ!」
「……別にいいじゃない、あんな奴等。いい気味よ」
レイラは冷たい声でそう呟く。レイラは心の底から彼等の事が嫌いらしい。
「駄目だよ。確かにあいつらは正直嫌いだよ。でも、だからって助けない理由にはならない!」
僕は強い口調で言い返す。僕は昔、ある人に命を救ってもらった。だから僕は誰かを助けられる人間でありたい。
「……アレスがそう言うなら私も協力する。でも危なくなったら即撤退よ」
「ありがとう、レイラ。シル、マジカルアーマーを用意して」
「かしこまりました」
シルは地面に魔法陣を描くと、中から金属でできた鎧を取り出した。鎧はゴーレムのような見た目をしていて、白く塗装されている。
「それ、ゴーレム?」
「いや、鎧だよ。シルみたいに魔法で動くけどね」
僕は鎧を装着し、魔道具として起動させる。すると視界に様々な数値が現れた。
「マジックアーマー、起動完了。これよりシルとの接続を開始します」
僕の耳元から機械音声が流れる。シルはマジックアーマーの中に入り込み、マジックアーマーの頭脳として働く。
「さて、それじゃ行きましょうか」
「うん!」
僕達は男が気づかない距離まで近づく。
そしてレイラが右手を男にかざし、呪文を唱えた。
「エアブレイク!」
レイラの右手から発射された空気弾が男に一直線に飛んでいく。
しかし男はするりと身を交わし、こちらに向けて炎を放ってきた。
僕はそれを防御魔法で防ぐと、お返しに左手から電撃弾を放つ。
「ぐわっ!」
男はまたしても避けようとしたが、シルによって照準が合わせられて男は電撃弾に直撃してしまった。
男は痛そうに左肩を抑えつつも、左手に魔力を込めて、反撃の準備をしていた。
「ウィンドカッター!」
そこにレイラの魔法が炸裂し、男の左手をかまいたちで切り落とした。
「うぐぁ!」
「よし!」
レイラは軽くガッツポーズをすると、とどめを刺そうと右手を構えた。
だが突然男は喉を押さえて苦しみだし、地面にのたうち回った。
「な、なに?」
レイラは困惑した表情で男を見つめる。
僕はレイラの前に立ち、防御魔法を展開する。
そして男の体は光に包まれ、姿を変えていく。僕はそれを見て激しい不安に襲われた。
「ウォォォォォォ!!!!」
男は人間としての原型を持たない怪物へと変貌し、僕達に襲いかかる。
「うわっ!」
僕の防御魔法は飴細工のように簡単に打ち砕かれ、僕は近距離で爆発魔法を撃たれてふっ飛ばされる。
「アレス! あがっ……」
レイラは僕に気を取られ、お腹に蹴りを食らってしまった。レイラの体はくの字に曲がり、彼女はそのまま倒れてしまった。
「レ、レイラ……」
僕は力なく少女の名を呼び、男に照準を合わせる。
これだけは使いたくなかった。これを使えば間違いなくあの男は死ぬ。だが、先程の電撃弾でも気絶しなかった辺り、生半可な攻撃は通用しないだろう。
僕は覚悟を決め、左手から必殺の魔法を放つ。魔法の名前は「プレデター」。意味は――捕食者。
男の胸に当たったそれはあっという間に男の体を喰らい男を絶命させる。
こうして僕達は保護され、僕は人殺しとなった。
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