18 母(まま)を訪ねて三万年 2
本日二話目の投稿です。
俺はわけもわからず昨日訪れた『幻想領域』の中で立ち尽くしていた。
ここは確かに、昨日俺が『ゴブリンジェネラル』と戦った場所だった。
……なんでいきなり、こんなことに。
あまりのこと頭が追いつかず、戸惑うばかりだった。
いや、考えてる場合じゃないだろう。
とにかく早く『幻想領域』を出ないといけない。
そう思って俺は辺りを見回し、そこにあるはずの『光の渦』を探した。
でも、いくら探しても、出口となる『光の渦』が見つからない。
「……なんでだ」
昨日『光の渦』があったはずの場所には、何もなかった。
クールタイムがあったことを思い出し、しばらく待ってみたが、それでも何も現れる気配がない。
……いったい、どうなってる?
まさか、『幻想領域』に閉じ込められたのか。
「そうだ、『トレーニングルーム』」
俺は自分の【ユニークスキル】のことを思い出し、早速、『精霊の声』を呼び出してみる。
すると────
─────────────
:: ! FATAL ERROR ! ::
管理者により『幻想領域』区域内からの『トレーニングルーム』への入室は禁じられています。
当該召喚プログラムは『幻想領域』区域外で再度実行してください。
─────────────
「……なんだよ、エラーって……!?」
『精霊の声』のウインドウには真っ赤な文字でゲームのエラーメッセージのようなものが表示された。
しかも、『深刻なエラー《FATAL ERROR》』。
これって出たらまずいやつじゃないのか。
他にもわけのわからない用語が並んでいる。
……それに、なんだ、その『管理者』ってのは。
こんな画面を見るのは初めてだった。
ともかく、『トレーニングルーム』には『幻想領域』内からは入室禁止となっているらしかった。
俺の【ユニークスキル】を使っても、ここからは出られない。
「……となると」
どうやら、俺はここに閉じ込められたらしい。
絶望的な状況だった。
……いや、まだだ。
まだ、きっと何か方法があるはずだ。
俺はまず心を落ち着かせ、自分が置かれた状況への対処法を考える。
「そういえば……こんな状況の講習、あったな」
俺はまず『探索者』としてのライセンスを取得する時に見せられた講習ビデオの内容を思い出した。
────『もし、ダンジョンから出られなくなったら〜初級編〜』。
並外れて大きな体格の教官がフリーイラスト素材を駆使して自分で製作したというその映像マニュアルには、ダンジョンに閉じ込められたり迷ったりした時の為に、いくつかの対処法が示されていた。
まず、一つ目。
自分が入ってきた『光の渦』の様子をもう一度確認すること。
『幻想領域』に入った直後、しばらくの間、力を使い果たした『光の渦』は一時的に使用不能になる。
これは初心者がパニックになりやすい現象なのだそうだ。
でも、落ち着いて『光の渦』に力が復活するのを待てば、無事に脱出できる場合がほとんどだという。
……でも、そもそも、俺は『光の渦』から入ってきたわけじゃないし、確認なら既に何度もやっている。
この方法は今の状況には適さない。
二つ目。
その場で下手に動かず、じっと耐えて救援を待つという消極的方法。
下手にその場を動かない、というのは遭難者が救助を待つ時の基本だ。
でも、それはその場で動かずに生き延びられる自信がある場合に限る。
凍死が確定している状況で何もしない、というのはおすすめされなかった。
それに、俺は今、誰にも言わずにこの『幻想領域』に来ている。
誰かが俺を救助に来てくれる、というのは絶望的な話だった。
当然、『幻想領域』内ではスマホも圏外で外との連絡は取れない。
たまたま運よくここに探索者が訪れるのを待つとしても、最悪数日は覚悟しなければならず、自分がそこまで生きていられるかどうかは自信がない。
最後の三つ目。
あえて『幻想領域』の奥深くに進み、『転移門』を探す方法。
『幻想領域』にはどういうわけか、一定の深さごとに必ず『転移門』と呼ばれる脱出ポイントが存在する。
まるでゲームのセーブポイントのような仕組みだが、迷った『探索者』でもある程度奥に進み、『転移門』を探し出すことさえできれば『幻想領域』から外に出られるという。
「……それしか、ないか」
幸い、ここは『Fランク』ダンジョンだ。
奥に進んで先日のようなイレギュラーな【ユニークモンスター】が出現しないとは言い切れないが、少なくとも、今の俺は同じモンスターと再会してもなんとか対処できるぐらいにはなっているはず。
一度は倒せているのだし、戦って勝つこともそんなに難しくはないはずだ。
あれぐらいのモンスターだったら、きっとなんとかなるだろう。
────でも。
《《《《《 まま。どこ? 》》》》》
頭の中に、またあの声が響く。
さっきより、ずっとはっきりと聞こえる。
《《《《《────まま。そこ、いる?────》》》》》
あの声は「まま」と言っているが、多分、呼ばれているのはきっと俺だ。そんな気がした。
あの声の主が、洞窟の奥で待っている。
『幻想領域』の奥に行くとなると、俺はあの声の主に近づいていくことになる。
俺はできれば会いたくない、と思った。
「……行くか」
洞窟の奥で何かが蠢く音がする。
俺は得体の知れない状況に恐怖を感じつつ、たった一つの武器である『無頼の短剣』を握りしめ、暗闇の奥に進むことにした。




