15 トレーニングルーム改装
俺は一日ぶりに『トレーニングルーム』に入室すると、早速自分のステータスを確認した。
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御山深人【レベル】1
【筋力値】 23 (* 28.2621)
【体力値】 25 (* 23.8963)
【魔力値】 10
【精神値】 18
【敏捷値】 26 (* 33.7712)
【幸運値】 19
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やはりここに来るとステータスはオール1から俺の本来の値に戻る。
でも、退院時から何もしていないので、ステータスの右側の数値には変わりなし。
レベルもユニークモンスターを倒したのでもしかしたら……と思ったが前のままだった。
理由はよくわからないが、そもそもレベルが「1」から「2」に上がった程度で俺のステータスにかかっている「マイナス100」という絶大なデバフに対して影響があるとは思えない。
レベルのことはあまり気にせず、俺はステータスの右側の謎の数値を伸ばすことに集中することにした。
「じゃあ。早速やってみるか」
この部屋に来ると現実世界にいる時より身体がずっと軽くなり、ほんの少しあった眠気も吹き飛んだ。
いきなり体調が万全になるのが少し不気味だが、とりあえず俺は『ベンチプレス』に近づき、立ったままの状態でバーベルを持ち上げた。
バーベルの重さの設定は『1200』。
スキル『マッスルアップ』を常時発動状態にして、やっと持てる重さだ。
そして、そのまま重いバーベルを肩に担いだまま、少し屈み込んでみる。
(……う。思ったより、キツい)
ネット上で「バーベルは持ちながらスクワットするもの」というにわか知識を仕入れたので、それを実際にやってみたのだが、かなりキツい。
太ももと全身にくる。
これはかなりいいトレーニングになるかもしれない……と思って、謎の数値の伸びを見ながら膝の曲げ伸ばしを繰り返していると、明らかにスクワット一回当たりの伸びがいい。
なので、しばらくこれを続けていこうかな……と思ったところで、ふと、バーベルを『ベンチプレス』から離しても問題なくトレーニングができるのなら、他のやり方もできるのではないかと気がついた。
そこで俺は思い立ち、バーベルを担いだままの状態で『ルームランナー』に乗ってみた。
「おお……? 同時使用でも動くんだな」
バーベルを持ったまま『ルームランナー』を動かしてみると、ちゃんと動いた。
そこで俺は『ベンチプレス(バーベル)』と『ルームランナー』を同時に使うトレーニングを試してみることにした。
まずは担いでいるバーベルの重さを少し限界値より軽めに設定して、歩くような速さから始めてみる。
左右のバランスをとるのが難しいが、一応ちゃんと歩ける。
そして、歩くのに慣れてきたらバーベルを持ちながら軽く走ってみる。
これも最初は怖いが、走れないこともない。
だんだん小走りにも慣れてきたら、今度は一気に全速力のダッシュに持っていく。
そしてさらに慣れたら、バーベルの設定を重くして、ルームランナーの速度設定も上げていく。
正直、キツいし、バランスを崩したらかなり危なそうだ。
でも、それでも無理ということはない。
ここでは怪我をしたとしてもすぐ治るし、怖がる必要はない。
限界ギリギリを維持しつつ、トレーニングを続ける。
そして、しばらくバーベル&ダッシュの運動を続けて、例の謎数値を確認してみると────
「うわ、めちゃくちゃ伸びてる……?」
数値の伸び率が、それぞれを個別でやっている時より、格段に上がっていた。
この複合トレーニングは効果が高いらしい。
そうとわかれば、他の組み合わせも試してみたくなる……というわけで、次は『ベンチプレス』と『サンドバッグ』の組み合わせに挑戦してみることにした。
言い換えれば「バーベルを振り回して、サンドバッグを殴りつける」という、現実のスポーツジムでやったら確実に怒られそうなメニューなのだが。
幸い、ここには誰もいない。
サンドバッグだって壊れても幾らでも元に戻るので気兼ねなく叩ける。
「とりあえず、バーベルの重さは軽めの『500』で、サンドバッグは硬めの『2000』ぐらいでいいかな」
俺は手早く初期設定を済ませると、片手でバーベルをブンブンと勢いよく振りまわし、目の前のサンドバッグに思い切り叩きつけた。
「あ」
────サンドバッグ、爆散。
頼もしく見えた黒光りする袋が、あっという間に光の粒子となった。
設定『2000』では硬さがまったく足りなかったらしい。『2000』は俺がグローブで思い切り殴ってもびくともしない数値なのだが。
まあ、普通に考えてみればそれはそうだろうと思う。現実世界を基準にすれば、グローブで殴るのとバーベルで殴るのでは威力が段違いなのは当たり前だ。
ひとまずサンドバッグをあり得ないぐらいの硬さにして、最大負荷『1200』のバーベルで全力で叩いた時のサンドバッグの揺れ具合を見ながら、それぞれの設定を調整していく。
とりあえず、いろいろと試した結果、バーベルはギリギリ振り回せる『800』、サンドバッグの耐久設定は『8000』に固定した。
柔らかすぎるとすぐ爆散するし、かといって硬すぎると殴ったバーベルを伝って衝撃が俺の手元に返ってくるのでこれぐらいがちょうどいい。
そうして、手頃な設定を探し当てたところで同じトレーニングを続け、例の謎の数値の伸びを確認していくと────
「……これも、かなり伸びるな」
予想していた通り、これも【筋力値】の横の数値が異様に伸びる。
重たいバーベルを全力で振るのは結構きついが、それでもその分、結果はついてくることがわかった。
そこで次は片手で軽いバーベルを持ち、なるべく素早く振りまわし、サンドバッグを数多く叩いてみた。
すると、そのやり方だと【敏捷値】の数値が上がりやすくなる。
これは嬉しい発見だった。
今までよりずっと自由度が出てきて、単調になりがちだったトレーニングに変化がつくし、伸ばしたい数値があったら、それを重点的に上げられる。
あくまでも【筋力値】、【体力値】、【敏捷値】の数値限定だが。
そうして、さらに色々と試しているうちに俺はとある重大な事実に気がついた。
トレーニングに使う『ベンチプレス』、『ルームランナー』、『サンドバッグ』の三器具、どれも置く位置を好きに動かせるらしいのだ。
おまけに『ルームランナー』は走るベルトの広さを自由に拡大でき、『サンドバッグ』は何本でも設置できる。
これを利用しない手はない。
俺は即座に部屋の改装に着手することにして、床のほぼ全面を『ルームランナー』のベルトに変え、その上の適当な位置に『サンドバッグ』を15本吊った。
そして早速、『ルームランナー』を起動させるとトレーニングルームの床が風を切るような音を立てて高速で流れ始めた。
「……おお」
今の『ルームランナー』の設定は『500』。
ざっくり、時速500キロでベルトが回っていることになる。
現実世界でこのスピードで回るベルトに触れて巻き込まれでも起こしたら大惨事だ。
でも、『トレーニングルーム』内の俺なら、これぐらいのスピードであればなんとかなる。
むしろ、広い分今までよりずっと走りやすい。
部屋の幅と奥行きはちゃんと測ったわけではないが、少なくとも50メートルぐらいはあるので、前後左右にかなり自由に動ける。
「よし、やるか」
俺は重いバーベルを担いで『ルームランナー』のベルトに飛び乗り、全力でダッシュする。
床は絶えず高速で前から後ろに流れていくので、このままだと走るだけで精一杯だ。
でも。
「『疾風迅雷』」
この【敏捷値】加算のスキル込みだと、楽に動き回れるようになる。
俺は少し遅く感じるようになった時速500キロで流れる床の上を走り、バーベルを使って吊り下げられた15本の黒いサンドバッグを殴りつける。
(う、反動が結構くる)
バーベルを叩きつけた衝撃で倒れそうになるが、そこはなんとか持ち堪え、また走って殴る。
高速で走りながらバーベルを振るのはバランスを取るのが大変だが、慣れればなんとかなりそうだった。
スキル『疾風迅雷』の効果中はバーベルで叩かれて揺れるサンドバッグの動きもゆっくりに見える。
スキルの効果時間が終わると、遅れて部屋に重い音が響き、サンドバッグが同時に爆散する。
「────『疾風迅雷』」
俺はスキルのクールタイム中、光の粉となって散った15本のサンドバッグが消えていくのを、また復活するのを見届けると再び『疾風迅雷』を発動する。
サンドバッグの生成にかかる時間は十秒と少し。
『疾風迅雷』のクールタイムは十五秒。
時間的にはだいたい噛み合っている。
(次は、あれだけ)
俺はスキルのクールタイム中、サンドバッグの設定を一本だけいじり、試しに耐久設定を『8000』から『40000』に変えてみた。
『8000』だとスキル発動時間で殴り続けるには物足りず、もっといけそうだと感じた。
そうして、今度は『疾風迅雷』の発動中、耐久力を上げた一つの『サンドバッグ』に全力で打撃を叩き込むと、手の骨が折れそうなほどの衝撃が返ってくるが、幸い、ここではすぐ治る。
俺が腕に返ってくる衝撃と痛みに堪えつつ、黒いサンドバッグがのけぞる隙もなく殴り続ける。
すると、スキルの効果時間が終わった瞬間、耐久力『40000』のサンドバッグが爆ぜた。
「……これぐらいなら、ギリギリいけるかな」
これで耐久が『8000』を15本程度か、『40000』のサンドバッグ一本なら、スキル発動中に目一杯叩けるらしいことがわかった。
どちらが効率がいいかの検証もしたほうがいいだろう。
でも、まだどちらも余裕があるように感じたので、もう少し細かく設定を調整しながら試していく。
そうして────
しばらく続けた結果。
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御山深人【レベル】1
【筋力値】 23 (* 53.6114)
【体力値】 25 (* 39.2306)
【魔力値】 10
【精神値】 18
【敏捷値】 26 (* 56.7002)
【幸運値】 19
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「……すっごい伸びてる……?」
今までとは比較にならないぐらいの数値の伸びになっていた。
どういうやり方が一番効率がいいのかは、まだまだ検証の必要があるが、ともかく、この『複合トレーニング』はかなり効果が高いらしい。
それと、この数値の伸び方の要因には『疾風迅雷』を使い始めたこともあると思う。体感で、明らかにトレーニングの試行回数が爆上がりしている。
まったく。誰だよ、これが使えない地雷スキルだとか言った奴は。
まあ、単純に俺が誰も想像しないような特殊な状況に置かれている、という話なので、別にあのレビュワーを責める気は起きないが。
こうなると、残りの『御三家』の『剛力』と『剛体術』が気になってくる。
「しばらく、このやり方で続けていくか」
短い時間で色々と嬉しい発見があった。
俺が強くなるための展望が少し見えてきた気がする。
「……まずは、焦らず『Fランク』ダンジョンを余裕で攻略できる程度まで、だな」
俺はこれから、家事と食事の時以外は『トレーニングルーム』に引きこもることに決めた。
まずはここで鍛えに鍛えて、俺はあの『幻想領域』に戻って再挑戦する。
そうしてようやく気分が乗ってきたので、この調子で頑張っていこう……と思っていると、『トレーニングルーム』内に自分の部屋から持ち込んだ置いた目覚まし時計が鳴った。
「……あれ? もうそんな時間か。そろそろ、出なきゃな……?」
気づけば、もう朝になっていた。
トレーニングに夢中なって、時が経つのも忘れていた。
気分が乗ってきたところだったので少し名残惜しいところだが、そろそろ現実に戻って朝食と美羽の弁当の調理に入る時間だ。
どうせ、用事が終わればすぐに戻ってこれるし、ここで一旦、トレーニングは終わりにしなければならないのだが。
────でも、最後にあと10秒だけ。
「『疾風迅雷』」
俺は『2000』の設定のバーベルを叩き込めるだけサンドバッグに叩き込み、15のサンドバッグが同時に爆散するのを眺めると、気分良く『トレーニングルーム』を出て二人分の朝食の準備にとりかかった。




