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13 ダンジョン対策会議

本日二つ目の投稿です。

 とある中央の政府関係の施設。

 その巨大な建物に無数に存在する会議室の中でも特別な時にしか使われない部屋で、スーツに身を包んだ大柄な男が手元の書類を見て顔をしかめていた。


「……うへえ、また【ユニークモンスター】の出現情報かよ。幸いどこも大したのは出てないけど、最近ちょっと増えすぎじゃねえ? なあ、上地(うえじ)


 大柄な男が顔を向けた先には、同じくスーツ姿の長髪長身の男が渋い顔で同じ書類を眺めていた。

 

「文句を言うな、比丘(びく)。脅威が現れたら倒す。それが俺たちの仕事だ」

「そりゃあ、そうだけどよ。最近、忙しすぎない? 見ろよ。俺のこの殺人的な予定表(スケジュール)

「何もない時の待機も含めて俺たちの仕事だ。暇な時と忙しい時、両方あるという前提でこの職場にいるはずだろう」

「……はあ、宮仕えはそういうとこ、辛いねえ。まあ、それなりの手当はもらってるっちゃあ貰ってるけどな。でも、最近の異様な駆除対象の増え方だと、流石に割りに合わなくない?」

「駆除対象が多いか少ないかは問題ではない。国民にふりかかる脅威を排除することが俺たちの仕事だ。割りに合う合わないの議論はするべきではない」

「……はあ。お前みたいなのが同僚だと、愚痴の吐きがいがねぇなぁ」

「俺は愚痴の聞き役ではない。待遇に不満があるなら上に掛け合ってみたらどうだ」

「それができたら、お前に愚痴なんか言わねえよぉ……」


 長身長髪の同僚に同意を求めたものの、特にこれといった共感を得られなかった大柄な男は頭を掻いた。

 彼らは共に警察庁の『特異災害対策局』の人間だった。


 大柄な方は名前を比丘(びく)末春(すえはる)。長身長髪の方は上地(うえじ)諒平(りょうへい)と言った。


 彼らが所属するのは特異災害対策局の特異第二課、通称「殲滅班」。

 彼らの業務は『幻想領域(ダンジョン)』が要因となる『危機排除』であり、早い話が民間の探索者では到底対処できない『強力なダンジョンモンスター』の駆除であった。


 表面上、比丘の愚痴には同意しなかったが上地も重々、現在の業務の負担が大きくなりつつあることは承知していた。

 二人は既にレベル500を超える世間でいう「超高レベル帯」の探索者で、普通の人間と比べれば超人的な体力を誇る。

 その二人が疲弊するほど、今の「殲滅班」の業務は多忙を極めていた。


 内心、上地は比丘の言い分にも共感していた。

 上地が比丘に対して口にした言葉は、自分に言い聞かせる言葉でもあった。

 

「そういえば、比丘。例の少年はどうなった。何か聞いているか」

「……例のって?」

「先日の新規の【ユニークスキル】取得者だ」

「ああ、あの【クラス】判定会場で派手にぶっ倒れたって奴か。確か、二ヶ月前だったっけ?」

「ああ。倒れて緊急搬送された後、搬送先の病院で「調査班」が経過を観察していた筈だが、未だに情報の共有がない」

「そんなの、お前と同じ「殲滅班」の俺に言われても分かるわけねえだろ。あの「調査班」の怖いお姉さん本人に言ってくれよ」

「────誰が、怖いお姉さんですって?」


 会話する二人の背後から、黒いスーツを纏った小柄な女性が現れた。


「……なあ、志摩。急に背後に現れるなよ。びっくりするだろ」

「最初からいたわよ。気づかないそっちが悪いんでしょ。それに心外ね。ちゃんと仕事はしてるわよ。例の少年のことも、今日の会議でちゃんと報告するつもりだったの」


 突然会議室に姿を現した女性は、腕組みをして小さくため息をついた。

 彼女は「殲滅班」の比丘と上地と同じ警察庁の特異災害対策局の人間で、その中の『特異第一課』、通称「調査班」に所属している。


 彼らは長年の同僚であり以前からよく見知った中であったが、ここ最近、三人ともひどく多忙な日々を送っていた。


「それで、志摩。例の少年の経過は」

「焦らないでよ、上地(うえじ)。詳細はこれから会議で説明するけど……例の少年、一ヶ月ほど経過観察したわ。でも、その間、病院のベッドから消えたり現れたりで。姿を確認できる期間はほぼなかったわ。それで実態の把握に時間がかかっていたの」

「病院のベッドから消えたり現れたり? ……どういう【スキル】だ、そりゃあ」

「本人の自己申告によれば『トレーニングルーム』という異空間と行ったり来たりできる【スキル】らしいわ」

「ってことは、転移系のユニークスキルか? すげえじゃねえか。まだ世界に前例がねえだろ」

「いえ、出入りできるのは元いた場所だけよ。それ以前に、常時全ステータスマイナス100という強力なデメリットがあって普通に呼吸するのも困難で、何度も心臓が止まりかけたらしいわ」

「えっ。全ステータスマイナス100? よく、それで生きてたな。じゃあ、メリットは?」

「……『トレーニングルーム』に入れること、だそうよ」

「…………それだけ?」

「今のところは、ね」

「……そりゃあ、なんというか……悲惨だな? まだ15だろ」

「ええ。でも、最近動けるようになって退院したと聞いたわ」

「じゃあ、今も監視はつけているのか?」

「本来、そのはずだけど……うちの職員を使った監視は打ち切ったわ」

「打ち切った? なんで?」


 志摩、と呼ばれた小柄な女性は不満顔の横に書類の束を持ち上げた。


「……わかるでしょう? この異常現象の数。調査班の仕事は他にも山ほどあるの。職員の手が全く回ってないわ。そっちから人を貸してもらえたら別だけどね」

「いやいや、無理無理。冗談言うな。うちから人を貸すなんて、できるわけねえだろ。こっちだってカツカツなんだ。地方警察の特異対策部にも頭下げて応援求めてるぐらいなんだぜ? 野良猫の手でも借りてきたいところなんだ」

「でしょ? その中で、何を優先するかって言ったら、わかるでしょ。人畜無害そうな少年のお尻を追っかけてる暇があったら、一つでも多くの『幻想領域(ダンジョン)』の調査をするのが先決でしょ」

「お前、年下好きそうだと思ったけどな」

「…………は???」

「いやなんでもない」


 小柄な女性に鋭く睨みつけられて目を逸らしながら、比丘は再び書類に目を落とした。


「にしても、新規発生の『幻想領域(ダンジョン)』の調査、ね。こりゃあ、大変そうだな。数が多すぎる」

「……それだけじゃないわ。既存の『幻想領域(ダンジョン)』の変異についての調査も同時にやらなきゃいけなくなってるの」

「既存の『幻想領域(ダンジョン)』の変異? なんだそりゃ?」

「あなた達も言ってたでしょ。【ユニーク】の出没が多すぎる、って。それと時を同じくして、出没するモンスターの質が変わってるの。ダンジョンの脅威度の査定も軒並み変更せざるを得ないわ」

「えっ……『幻想領域(ダンジョン)』の脅威度が変わるって、一大事じゃねえか」

「そうよ。幸いまだ深刻な負傷者は出てないけど、このままだと時間の問題よ。それで急遽、その情報を上に上げるために奮闘してたってわけ」

「なるほどな。それはそれは、大変そうだな」

「でしょ。私たちの献身的な仕事に感謝なさい、比丘」

「ああ。いっつも感謝してるぜ。俺たちに仕事くれるのはお前らだもんなぁ……今日なんて、ありがたくって涙が出そうだぜ」

「何よそれ」

「いやあ、これから更に仕事、増えそうだなぁと思ってなぁ。な、上地?」

「そのようだな」


 三人が険しい表情で会議室に置かれた書類を見ながら会話をしていると、無機質な会議室のドアが開き、長い髪を靡かせて一人の少女が入ってきた。


「比丘さん、上地さん。遅くなりました」

「あれ、お嬢? なんでここに」


 大柄な男、比丘に「お嬢」と呼ばれた少女はその会議室に完全な場違いな学制服(ブレザー)を着ていた。

 その少女は見た目からして女子中学生か高校生、といった感じで、実際、彼女はこの春に名門と言われる『私立桜峰(さくらみね)学園』の中等部から高等部に上がったばかりの女子高生だった。


「私も「殲滅班」の一員ですから」

「それはそうだけどよ。学校はいいのか? まだ昼過ぎだけど」

「先生には仕事があると断ってきましたから。大丈夫です」

「そういう意味じゃなくてさ。お嬢は学業優先、って言われてなかったっけ。確か、部活みたいなのもあっただろ」

「部活ではなくただの生徒会ですし、皆さん融通はきかせてくれます。それに私は学生ですが、今の私の学費と生活費は課の予算から出ていますし、今後の任務遂行の為にも主要な会議は外せません。それで、志摩さん。今の状況は?」


 制服姿の少女にてきぱきと言い返されてため息をつく「殲滅班」の比丘から少女は顔を背け、「調査班」の志摩に目を向けた。

 

「……そうね。状況は端的に言うと、かなりまずい、ってところね。また、貴女にも頼ってしまうことになると思うわ」

「そうですか」

「ああ。あの有能揃いで名高い「調査班」が死力を尽くして頑張っても、な〜んもわからん困った状況だってさ」

「……ねえ、比丘。その言い方はやめてくれない? あくまでも総力を挙げて調査中ってことよ」

「いやあ、そんなつもりじゃなかったんだけどよ……? でも、今のところは原因不明でなんかやばそうだ、ってことぐらいしかわかってないんだろ」

「……現状はね。本当は私もこんな会議も出たくない状況なんだけど」

「仕方ねえだろ。お偉い方に情報を上げる為の調整会議だ。すっぽかしたら、それこそあのダンマリ局長が静かにブチ切れるぞ」

「黙ってても怖いものね、あの人」

「────おい、比丘。志摩」


 上地の声で二人ははっとした表情になり、少女の顔色を窺った。


「あ……悪い、お嬢。そういうつもりじゃ?」

「……そうね。ごめんなさい。私も配慮を欠いたわ」

「いいですよ、私は気にしませんから。それより、もう本人が来ますよ。さっき、廊下ですれ違いました」

「……おっと、そうだった。もう時間だな。いつものように襟を正さねえとな」

「いつものお前の服に襟などないだろう、比丘」

「……慣用句だっての。空気ぐらい読んでくれって、上地」


 すぐに赤い縁の眼鏡をかけた男が十数人の職員を引き連れ、ぞろぞろと会議室に入ってきた。

 緩やかな空気が流れていた会議室は、彼らが入ってきた瞬間、重く鋭い雰囲気に変わった。

 重々しい音を立てて会議室の扉が閉まり、鍵がかけられる。

 男は会議室を見渡し職員が所定の椅子に座ったことを確かめると、静かに椅子に腰を下ろした。


「これより政府の『ダンジョン管理委員会』に情報を上げるための相互調整会議を行う。各課、今の業務状況を報告しろ」


 その『特異災害対策局』局長を務める男の声で部屋の中が一層引き締まり、密室の中でその後の国の命運を左右する重要な会議が始まった。

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[良い点] 冒険者協会も、ちゃんと主人公のことは気にかけてくれてたんですね。ただ、優先順位を付けなければない事態で監視打ち切りにしなければならなかっただけで。 [気になる点] お嬢さんはまさか美羽…?…
[良い点] サクッと読めてスコ。妹ちゃんが曇ってるの最高に良いっすね〜(愉悦) 主人公がまた倒れたらヤンデレになりそう。てか、それでも良き。 [気になる点] 加算スキルを取って無双していく感じになるの…
[一言] 頑張ってください。応援しています。
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