10 『疾風迅雷』
俺が『幻想領域』に潜る方法を模索していると、いきなり大きな発見があった。
「……どうなってるんだ、これ……?」
見つけた時、俺はかなり動揺して何度もその表示を見直した。
あるはずのないものが、そこにあったからだ。
それを発見したのは、俺がまず自分が取得できる【スキル】を確かめよう、と思って『スキル取得画面』を開いた時だった。
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取得可能スキルリスト - 残りSP 81
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「残りSP……81?」
俺はまだレベル1。
なのに、レベルアップしなければ手に入らないSPが、なぜか大量にあった。
理由がわからない。
もしかして、例の『トレーニングルーム』内でやったトレーニングが影響しているのだろうか。
「なんで、こんなにあるんだ……?」
原因はわからないが、そこに全く期待していなかったSPが余分にあることは確かだ。
ひとまず、俺はこの「81」というSPで自分がどんなスキルを取得できるのか、改めて『スキル取得』画面を眺めた。
どうやら、俺が取得できる【スキル】は【戦士】と【盗賊】を足して二で割ったようなスキルの構成の中からであることがわかった。
これは俺が取得した【クラス】の『トレーナー』の特性であるらしい。
そうして、それぞれの【スキル】の効果と取得SPを確かめ、ネットで各種【スキル】の有用性が細かく評価されているレビューサイトを開き、一つ一つ見比べながら自分が取得するスキルを検討していったのだが。
「最初は……やっぱ、これしかないかなぁ」
俺が取得できる【スキル】の中で目に留まったのは、【盗賊】系の『疾風迅雷』というスキルだった。
それは「消費SP50」という、本来かなりレベルアップしてからでないと取得が不可能な、最初に取得するには勇気がいるスキルだ。
効果は短時間ではあるが「【敏捷値】+100」という効果が俺の目を引いた。
だから、最初はこれにしようと思った。
でも評判を確かめようとのぞいたレビューサイトのとある記述が俺の判断を迷わせていた。
その記事にはこうあった。
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『これだけは取るな! 〜目利きレビュワーが選ぶクソスキルランキングワースト100〜』
<ランキング 3位>
『疾風迅雷』
効果:10秒間、【敏捷値】+100 クールタイム15秒 (取得SP 50)
選評:
名前こそ厨二心をくすぐる良い響きですが、今や初心者騙しのカススキルの『御三家』の一角として知られる地雷中の地雷です。
発動中の補正値の『ステータス+100』は一見良さそうに見えて、レベルを上げていけばレベルによる恩恵で簡単にどうにかなる数値であり、他にも『装備アイテム』の市場を冷静に見渡してちゃんと投資すれば、装備の合計値でそれに近い補正値はちゃんと得られます。
しかもそちらは永続的。
他にも、このスキルが取得できるレベル50を超えるそこそこ高いステータスであれば、倍率補正で他に優秀なスキルはいくらでもあります。
このスキルで得られるたった10秒の加速の為に貴重なSPを「50」も振る価値は全くない、と断言できるでしょう。
これに振るぐらいだったら、他の持続時間の長い倍率系のスキルを総取りしてしまった方がはるかにSPの効率がいいです。
『幻想領域』出現初期にはこれを取る探索者も多く見受けられましたが、現在の高レベル帯の冒険者には見向きもされないどころか『疾風地雷』との異名を持ち、持っているだけで「SPの無駄扱いをした可哀想な人」扱いされる特大級の地雷です。
絶対に取らないでください。
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「……」
散々な言われようだった。
ちなみに、一位も二位も『剛力』と『剛体術』という似たような効果のスキルが上位を占めていた。
俺は半分、もう『疾風迅雷』に決めるつもりで情報を漁っていたのだが、ここまで言われると若干ひく。
だが、俺はまさに『疾風迅雷』のような効果のスキルを探していたのだ。
これさえあれば、10秒間だけだが俺の【ユニークスキル】『トレーニングルーム』のマイナス補正を打ち消せる。
この『疾風迅雷』という【スキル】、確かに普通はいらない子扱いされても仕方ないスキルなのかもしれない。
このレビューの筆者の言う通り、効果時間は短い上に「SP50」はかなり大きいし、装備で補える数値だというのもその通りなのだろう。
でも、俺の場合はそもそもの事情が違う。
何せ、元々のステータスが全て「1」なのだ。
普通なら有用とされる他の『倍率系』の【スキル】だが、むしろ俺の「オール1」のステータスにはなんのメリットもないと言ってもいい。
たとえ、超高倍率とされる「三倍」の補正【スキル】であっても「1」が「3」になったところで大した差はないのだ。
このクソスキルとして名高い『疾風迅雷』の方が、はるかに恩恵が大きい。
それに俺の場合、不意に降って湧いたような「SP81」があるし、これを使うことでスタートが有利になって今後の探索が捗るなら、さっさと使ってしまってもいいと思えた。
何せ、俺のステータスはオール「1」。
俺にとって残酷なことに全ての『装備アイテム』には「ステータス下限値」が設定されており、ごく弱い武器アイテムすらまともに装備できない。
取れる手段は他の人よりずっと限られている。
となると、意思は固まった。
「とるか、『疾風迅雷』」
色々と検討した結果、このクソスキルと名高いスキルが今の俺にとっては大きな助けとなりうるのだ。
正直、クソスキルランキング1位の『剛力』とどっちにするか迷ったが、でも、俺はより確実性のある方を選ぶことにした。
この『疾風迅雷』で敏捷性だけ元に戻れば、とある武器アイテムとの組み合わせで、低難度ダンジョン限定ではあるが比較的安全な戦法が可能だと思ったのだ。
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『無頼の短剣』 希少☆
攻撃力 +0 固定ダメージ +1 (必要筋力値:1)
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この、希少等級にもかかわらず不要物扱いされ市場で投げ売りされている『幻想装備』。
これが唯一、俺が装備できる武器だった。
でも、こいつと【スキル】を組み合わせれば。
「今の俺でも、たぶん、安全にダンジョンモンスターを倒せる」
この判断、明らかに倒すことよりも逃げることに重きを置いている。
普通の冒険者としてまともに稼ぐ道は果てしなく遠い。
とはいえ、俺はこうでもしないと最初の一歩が踏み出せない。
覚悟を決めた俺は早速、メニューを開いて目的の【スキル】を取得する。
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【スキル】『疾風迅雷』を取得しますか?
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「YES」
そして早速、得たスキルの効果を試す為に近くの運動公園を訪ねることにした。




