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プロローグ

 それはまるで白昼の幻想(ゆめ)のように青空の中に突然に現れた。


「……あれ、なに?」

「うわ、気持ち悪っ! 太陽が歪んでんじゃん」

「あの黒い点みたいなの、何だろうね……?」


 街の空の見慣れない変化に気がついた人々は皆、それが何かと興味を持って眺めた。


 最初、そこにあったのは小さな黒い点だった。

 目を凝らさなければ見えないような極小の黒い球体の周りで、空と太陽が空間ごと捻じ曲げられるように歪んでいる。

 見る者によっては不吉の象徴そのものに思えたその現象は、空を見上げる人々が静観するうちにだんだんと大きくなり、次第により多くの者がそれを視認するまでに至った。


「……なんなんだ、あれ……? だんだん、大きくなってる……?」


 人々は不安と好奇の両方の視線で膨張し続ける黒い物体(それ)を見守り、多くの者の手には大小まちまちのカメラが握られた。

 そして、人々がその様子を見上げているうちに急速な勢いで空を覆うまでに膨張した黒い何かは、立ち並ぶ高層ビル群の先端に触れると、それらの硬い建造物を柔らかいパンケーキのように圧し潰し、上から順に微細な瓦礫に変えていった。


 辺りで大きな悲鳴が起こったのは、それと同時だった。


 ────《黒い空》が突然、落ちてきた。


 奇跡的にその日を生き延びた者は後にそう語った。


 《黒い空》と表現された闇色の塊は、すぐに高層ビルを根元まで飲み込み、触れたもの全てを細やかな粒子に変えた。


 その光景にただならぬ異変を感じ、すぐに背を向け全力で逃げ出した者が半数。現実の出来事として受け入れられず、その場で立ち尽くした者が半数。

 《黒い空》はそれら、咄嗟の判断が別れた人々を皆平等に包み込み、速やかに全員を肉片と血飛沫に変えた。

 その未知に対して人はあまりに無力だった。


 それは、後に『大災害』と呼ばれる惨事だった。

 唐突に現れた《黒い空》は、やがて世界の一部を構成する『幻想領域(ダンジョン)』と呼ばれるモノを生み出す予兆現象に過ぎなかった。

 だが当時の人々はそんなことを知る由もなく、惨劇を目撃した人々はただただ呆然とし、恐怖するしかなかった。


 そこで起きたことは何もかもが異常だった。

 怯える子供たちの目の前で道路のアスファルトが剥がれて舞い踊り。

 道路標識と信号機が生き物の触手のようにうねり、ビルのガラスが砕けて落ちるかと思えば重力に反して浮き上がる。

 闇に呑まれ消えゆく街は音もなく破壊されていき、人々の絶叫だけが反響(こだま)した。

 それらの異様な光景は自分達が慣れ親しんだ常識(ルール)が、もう何の役目も果たしていないことを人々に報らしめた。


 知恵のあるものを含めて、誰もそこで何が起きているか理解できなかった。

 そこでは全ての既知のものが壊れていたから。

 ただ膨張する《黒い空》が鮮やかな血のような色に割れていく様を見て、皆が漠然と思った。


 ────ああ、これで世界は終わる(・・・)のだ、と。


 世を支配してきた物理法則が節操なく荒ぶる空間で、皆が一様に自らが享受してきた平穏が崩れ落ちる音を聞き、堅く動かないと信じていた常識があまりにもあっけなく砕け散る様を目撃した。


 唐突に訪れた、信じていた世界(げんじつ)の終わり。


 その日、人々の現実であった日常は粉々に打ち砕かれた。

 基盤を失った世界の未来のことなど誰も想像できなかった。

 皆、自分達の信じてきたものの終わりを目撃し、その後に今までと同じような日々が戻ってくるとは思わなかった。

 だから、その場に居合わせた人々は一様に、これが全ての終わりの合図なのだと直感した。


 だが、実際はそんなことにはならなかった。

 世界は終わらず、なんの動揺もなく、まるでその状態がそれまでも当然だったかのように新たな『法則(ルール)』を丸ごと受け容れ、その後も問題なく続いていった。


 その日はまるで世界の終わりのような日だった。


 でも、世界は終わらなかった。

 それが地獄にしろ、天国にしろ。

 その日、また新たな法則を備えた世界(ゲーム)として生まれ直したのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ローファンタジーへの回帰ですね。
[良い点] プロローグの書き方上手いなあ 主人公が出てきてないってのもいい……感じ?
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