3 標準系投稿者B
ボロい独身寮の一部屋から、今日もレビューが始まる……
「なろう漫画レビューって、プロレスなんですよ」
「始まりました。レビューレビュー第2回」
「レビューレビュワー、メガネです」
「同じく、短髪です」
「今回のレビュー対象はこちら、‘標準系投稿者B’です」
「またよくわからないのが来ましたね。何ですか?標準系投稿者って」
「そのあたりの話は最後の方に出てきます。今回の内容を一文で表現すると、第2回ということで、ある程度無難そうな方を選ぶと、逆に無難な話ではなくなった、という内容になっております」
「これ以降はネタバレを含みますので、気分が悪くなりそうだ、読みたくない、という方はブラウザパックをお勧めします」
「では、始めたいと思います。よろしくお願いします、メガネさん」
「はい。改めまして、今回のレビュー対象‘標準系投稿者B’についてです。以降Bと表記させていただきます。敬称がないのはご了承ください。さて、この方の動画投稿傾向についてです」
「サムネは前回レビューしたフリー系投稿者Aと似ていますね。作品の画像と、その画像に対するBの意見をセットにしたものです。いいですね。視聴者としては動画の内容が分かりやすくて好印象です。また、感想には酷評するものもあれば絶賛するものもあり。多少文言が長いものもありますが、色使い等を工夫しています。サムネだけでもなかなかバランスの取れたレビュワーだということがわかりますね」
「バランス感覚に優れた投稿者、これは内容も期待できそうですね」
「早速クリックして視聴してみましょう」
動画を開始します
「自己紹介から入りましたね、メガネさん」
「自己紹介と、動画の内容の一言まとめですね。分かりやすくていいですよ」
「前回の方もそうですが、投稿者名が特徴的ですね」
「動画投稿者は覚えてもらってナンボですから。分かりやすい名称を選ぶのは当然でしょう。加えて、自分が異常者ですよ、ということを自然に主張できるものが望ましいですね」
「その心は?」
「レビューなんていうのは、そのレビュー先から恨みを買うことも多いんです。恨みを買わないような、ヨイショするだけのレビューでは刺激が足りないので視聴者を引き付けられない。かといって作品に真正面から喧嘩を売るような内容では、その作品の利害関係者や作品ファンから反撃を受けます。たとえその指摘が適正なものだったとしても、それを指摘することによって何かしらの反発が生じるのです」
「まさに今の我々ですね」
「その通り。しかしご安心ください。反発を和らげる方法があります」
「その方法とは?」
「ずばり、弱者主張です。自分は精神的にちょっと弱いんです。自分は生まれつきハンディキャップがあります、というような予防線を張っておけば、多少炎上したとしても、許されます。弱者であるので仕方ない。弱者に反撃した時点で、被害者と加害者の関係が逆転するのです」
「某女子テニスプレーヤーのように?」
「そんなことを言っては駄目です。消されてもいいのですか?あの方はそんなことはありません」
「思いっきり長いものに巻かれましたね……」
「んんっ!もちろん、投稿者名なんてものはいくらでも変更できるものだということは視聴者も理解していますので、効果は小さいです。しかし、何も対策しないよりはマシでしょう。また、投稿者自身が自称しているものなので、視聴者は事前に身構えることができるというのもグットポイントです」
「投稿者名からもレビュー動画の傾向を推測できるということですね」
「その通り。逆に、投稿者名と動画の内容が乖離していれば反発を受けることもあります。純愛系に偽装したNTR系はクソゲーという評価を免れない。そういうことです」
「ん?ちょっと待ってください。今回の投稿者さんは、弱者を連想させる名前ではありませんよ?」
「弱者ではありませんが、辛口レビューをしても可笑しくない、ズケズケとものを言いそうだと連想できる名前ですよね?」
「まぁ、自称しているくらいだし、そういうことを言うだろうなぁって予測はできますね」
「名前を見た時点で、我々は既に投稿者の術にかかっているのですよ」
「ブーメラン発言ですね。このなろう作品、大丈夫でしょうか……」
~動画視聴中~
「この方は、動画の途中で、これ以上はネタバレになるということを明確に示していますね。メガネさん、このやり取り、必要でしょうか?」
「必要です。このやり取りはいくつもの利点がありますから」
「そうでしょうか?いち視聴者としては、くどいという気持ちになります。わざわざレビューを聞くために動画をクリックしているのに、ここでブラウザバックするとは思えません。1分程度しか聞いていないんですよ。レビュー内容が分からないじゃないですか」
「では、このやり取りが必要な理由を説明しましょう。理由は3つあります。まず1点目は、クリックミスへの対応です。」
「クリックミス(呆れ)」
「馬鹿にしてはいけません。貴方はクリックミスをしたことはないのですか?」
「ありますが……」
「見たくもないものを見せられるほどストレスのかかるものはありません。ミスでクリックした先が視聴者にとって嫌なものであれば、その動画の投稿者に悪い印象を抱くでしょう。石橋を叩くように、ミスクリックに配慮する姿勢は素晴らしいとは思いませんか?」
「うーん、分からなくもない。でも、そんなに重要かと言われると……クリックミスなんて極稀でしょ?」
「そうですね。実際、そこまで重要ではない理由だと思います」
「オイ!」
「二つ目の理由、それは‘尺のばし’です」
「またトンデモ理由がきたよ……」
「馬鹿にしてはいけません(再)。貴方は視聴者数を侮っている。このブラウザパック云々のやり取り、動画では何秒使っていますか?」
「えっと、5秒くらいでしょうか?」
「ではその動画の視聴者を、そうですね、仮に5000人としましょうか。合計時間引き延ばし時間はいかほどですか?」
「5秒かける5000で25000秒。およそ7時間!?」
「それが各動画に入っているのです。この時間に動画投稿件数をかけるとトータル時間はさらに増える。まさにチリツモ。こういう細かいテクニックもあるんですよ」
「安定して視聴者数を期待できるようになったら、こういうこともできるようになるんですね。あれ?ギリギリ収益化に足りない投稿者さんでしたらこのテクニックもアリだと思いますが、Bのように安定している投稿者にとってこの恩恵はそれほど大きくないのでは?」
「そうですね。これも、そこまで重要ではない理由だと思います」
「オイ!!」
「さて、最後の理由、それは‘ネタバレ回避’です」
「は?散々引っ張っておいてからの普通すぎる回答、ナメてるんですか?」
「待ってください。詳しく説明させてください。事実、B自身がネタバレ回避のためにこれ以上は駄目だよ、と告げているのです。現状それを否定する根拠は、レビュワーである我々にはない。まず我々が注目すべきは、‘漫画レビューにおけるネタバレとはなにか’です」
「……続けろ」
「ありがとうございます。さて、短髪さん、一般的に漫画において‘ネタバレ’とは何だと思いますか?」
「漫画において、以外な方向に物語が展開した、主要人物が大変な目にあった、とんでもないどんでん返しが起こったときに、読者が実際の漫画を読む前に、別媒体で内容を知ってしまうこと。広い意味だと、読者が知らない内容を事前に知ってしまうことでしょう」
「そうですね。このネタバレ、プラス影響とマイナス影響があります。まぁ圧倒的にマイナス影響が多いんですけどね。レビュー対象作品を読んでいない読者にとってのマイナスポイントは、実際の漫画へのイメージが変わってしまうことなんですね。事前情報なして漫画を読むのと、先のストーリー展開を予習した上で漫画を読むのは、その漫画への印象は異なります。どんなに斬新で新鮮な展開であってもネタバレで知っている内容であれば、多少なりともチープに感じてしまいます。初見では80点をつけれたであろう内容が、60点にしか見えなくなるようなものです」
「まぁ、タネを知ってる手品をみるようなものだからなぁ」
「ネタバレとして、事実を淡々と記すタイプはまだマシな方です。ネタバレと同時に個人の感想まで記すタイプであると影響は非常に大きくなります。ネタバレ記事作成者の意見はそのままネタバレ読者の意見として刷り込まれてしまいます。論外なのは発売前にネタバレとして漫画をそのままアップするような輩。これは犯罪者。地獄に落ちればいい」
「なるほど。読者はまだ実物を読んでいないから、ネタバレ作成者の意見に引っ張られるということですね。前回話した、レビューの特性とも似ていますね」
「その通り。本当に読者の利益を考えているのであれば、ネタバレには細心の注意を払う必要があります。読者が本来得られるはずであった新鮮な驚きを邪魔しないように行うネタバレ。それは、もはや職人芸・神業と呼んでいいでしょう」
「ほう、そんな職人気質な投稿者がいるのですか」
「いません。人は神にはなれません」
「……」
「では問いましょう。ネタバレを投稿するのは何のためですか?」
「それは……アクセス稼ぎ?」
「そう。WEB広告、動画収益、結局は金目なんですよ」
「でも、中にはお金を目的としていない方もいるはずです」
「そうですね。お金を目的としていない方がいる、という前提で話を進めましょう。では、金目じゃないのにネタバレを投稿する理由は何でしょうか?」
「それは……バズりたい?」
「中らずと雖も遠からず。私には、人を集めること、が目的になっているように思えます。自分の存在を誇示することが至上命題なのです。そこには、ネタバレを読んだ人に対する考慮はない」
「読者のことはどうでもいい?」
「いえ、そうではありません。前提が間違っているのです。ネタバレ投稿者はこれまでの話で私が想定している読者を、視聴者として想定していないのです」
「うーん?」
「分かりやすく言いますね。ネタバレ動画投稿者は、レビューを商品購入の参考にしようするような視聴者を、視聴者として想定していない」
「は?レビューですよね?どういうことですか?」
「ネタバレ投稿者が求めているのは共感。漫画を読んだ感情を誰かと分かち合いたい、自分の意見を広めたい。そのためにネタバレを含むレビューを作成し公開、意見を公開しているのです」
「……本当ですか?」
「さぁ。私は投稿者ではないので、本当のところは分かりません。あくまでも推測です。ですが、そうでなければ説明がつかない。ネタバレだと思う内容を詳細に話すことによる、未購入者の意識への影響を考慮していないのであれば、漫画レビュワーとして、表現者としてお粗末ですから」
「むう」
「補足しておくと、共感を求める行為そのものは悪いことではありません。作品に対する意見を言い合う。これは健全です。むしろ、コミュニティの在り様としては正しい」
「健全なコミュニケーションということですね」
「以上の話を踏まえて考えます。投稿者が想定する視聴者は、既にレビュー対象作品を読んでいる視聴者。では、そのように視聴者の属性を限定したいときに投稿者は何をすべきか?」
「あ!」
「そう。‘ネタバレ注意’です。この文言によって、投稿者は視聴者を、既にレビュー対象作品を読んだことのある視聴者に限定しようとしているのです」
「ちょっと待ってください。そうであれば‘ネタバレ注意’ではなく、‘ここから先は作品を読んだことのある方だけご視聴ください’という言い方の方がいいのでは?」
「その通り。文言も多いですし、動画の尺も稼げます。そういう言い方をしている投稿者は視聴者に対して誠実だと判断できますね」
「‘ネタバレ注意’にもちゃんと理由があるんですね」
「どうせなのでさらに話を進めますが、この‘ネタバレ注意’有効だと思いますか?」
「ん?どういうことですか?」
「最初あなたは言いましたよね。動画を見て数分しかたっていないのにブラウザバックするわけがない、と。貴方はレビュー対象作品を呼んだことがないと想定します。これまでの話を聞いた上で、貴方は‘ネタバレ注意’という動画に対し、どう行動しますか?」
「……ブラウザバックしません」
「なぜ?」
「なぜって、ひいきにしている投稿者さんの動画を見に来ているんですよ。自分がたとえ読んだことのない作品のレビューでも、視聴したいじゃないですか」
「私もそう思います。つまり、視聴者も悪いんです」
「え?視聴者にまで喧嘩を売るんですか?」
「いえ、どちらかというと、むなしさを感じるというか、そんな感情ですね。自分の知らない作品のネタバレレビューを見ている方、自分の行動の意味を一度考えて欲しいです。それでも見るという結論になるのであれば、ご自由に視聴ください。私がとやかく言う権利などありません。時間に追われるこの時代、仕方がないとも言えます。そういう意味で、視聴者と投稿者、どちらも罪深い」
「いやいや、投稿者は最初にネタバレ注意、と注意喚起していることが多いじゃないですか。視聴者のことを考えていますよ」
「あれは帳面消しです」
「そんなまさか」
「責任転嫁です。投稿者はここで忠告しましたよ。これから先は自己責任ですよ。そういうことをあの文言でアピールしているのです。本心では、ネタバレだからブラウザバックしてほしいとは思っていませんし、視聴者もブラウザバックなんてしない。プロレスなんです。投稿者はそこを利用して、職人芸のようなネタバレが出来ないが故に、ネタバレ注意ということを書いて、自己責任論に持ち込むのです」
「ストップストップ!メガネさんの思い込みが入ってます!!感情的になってますよ!!!」
「おっと失礼」
「ふぅ……。話を戻します。‘ネタバレ注意’聞いてしまえば、色々と議論の余地があるテーマですね」
「一度責任を転嫁してしまえば、それ以降は投稿者が好き放題に喋っても咎める人は少ない。責任回避と開き直り。非常に有用なテクニックですね」
「これも超ブーメラン発言ですね……」
「ネタバレと視聴者の心理については、機会があれば、また意見を上げたいですね」
~動画視聴中~
「ネタバレ宣言後のストーリー解説、尺をとっていますね」
「そうですね。この部分はレビューの肝部分と考えているのでしょう。話の展開をある程度詳しく説明しています」
「ネタバレ宣言後というのがうまく免罪符として働いているようですね。おっと、レビューの本題ですか。Bの意見が入ってきましたよ」
「いいですね」
「……」
「……」
「いや、メガネさん、コメントはそれだけですか?このBのレビュー内容について、特筆すべきことはありますでしょうか?」
「特にありません」
「ないの?」
「はい。私の思うBの特徴は、Bの感情を重視したレビューを行うというところです。定量的な評価ではなく、定性的な評価なんですね。ストーリーが爽快、主人公の思考が気持ち悪いというようなレビューですね。これは私がどうこう評価するものではありません。Bはそう思ったという事実に対して、私は特に否定も肯定もしません。受け入れるだけです」
「仏や、仏がおる」
「いえ、そういうわけではありません。具体的なレビュー内容そのものは我々のレビュー対象外なのです。我々がレビューすべきは舞台装置。レビュー構成やレビュー方法についてのレビューなんです。投稿者さんがどう思った、ということは不可侵であるべきです」
「ふむ?」
「伝え方が下手だ、とか、何を言ってるのか分からない、という批評はギリセーフと考えています。作品を通じて作者の人間性を攻撃するのはいかがなものか、という批評もまぁセーフ。ですが、投稿者の作品に対する意見が間違ってる、というようなレビューはしたくない。というかできません。我々はレビュー対象漫画作品を読んでいるとはかぎりませんから」
「ふむふむ」
「これまで何度が述べたように、読んだことのないレビュー対象漫画作品に対する我々の感想は投稿者さんの意見に左右される。そんな曖昧なものを基盤に、漫画レビューのレビューを通してレビュー対象漫画作品の評価に繋がるような言動はできません。」
「責任回避ですね」
「そうとも言います」
「……」
「投稿者さんの作品に対する意見についての批評はしません。重要なことなので二度言いました。我々のレビューの矛先は、舞台装置、動画構成、表現テクニックに向いているということをご承知おきください」
「宜しくお願いします」
~動画視聴中~
「メガネさん、では、今回のレビューはこれで終わりでしょうか?」
「いいえ。舞台装置への言及だけでは書き物としての尺も短くなりますので、我々のBの動画に対する印象をここで述べさせていただきます。まず、参考として一つの動画を見た後に、次の動画を見たいというモチベーションが湧いてきませんでした。内容としてはそこまで過激でもない、プラス評価にしてもマイナス評価にしても突き抜けたものは少ない無難な評価。説明を聞いていても、まぁそうだよねという感想しか出てきません。斬新な視点から気づきを得るということもありませんでした。視聴後に残るものがないんです。かといって、視聴中に激しく感情を揺さぶられることもない」
「あ、だから‘標準系投稿者’なんですね」
「貶しているわけではないですよ。臭そうな投稿者が乱立していれば、無味無臭であるというのは逆に個性でもあります。また、Bの言っていることを良く理解できるということは、動画のプロットが優れており、説明が上手だということです。プレゼン能力の高さを感じられますね。レビュー対象作品を一度読んだことがある視聴者が、動画投稿者はその作品をどう評価してるのか、興味を持ったときにのぞくレビューとしてはアリなのではないでしょうか」
「動画構成がしっかりしている、と」
「さらに言うと、我々はまだA、B以外の投稿者さんの動画を拝見しておりません。今後の展開によっては、A、Bに対する評価が大きく変わる可能性もあります」
「このシリーズを続ける中で、実はA、Bは素晴らしい投稿者だった、最低の投稿者だった、みたいな手の平返しをしても怒らないでね(責任回避)」
「Bは数多くの動画を投稿されています。地道にコツコツと自分の思いを表現していたら、波長のあう視聴者が自然と集まってきた、というパターンなのかもしれませんね。その継続力はすばらしい」
動画を終了します
「さて、今回のレビューレビュー如何でしたでしょうか」
「このなろう小説では、皆さまにレビューしてもらいたいレビューを募集しております」
「今回のようなしょうもない話ではありますが、レビューしてほしいという方、お待ちしております(嘘)。また、ブックマークや評価がいただけると、我々のモチベーションもアゲアゲになります」
「最後に、今回の内容を総括すると…?」
「‘ネタバレ注意は有能’」
「「ありがとうございました」」