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1 プロローグ

このプロローグは導入のために作ったものなので読まなくとも構いません。

本編は次話からです。

暗い部屋の奥、メガネをかけた一人の男が布団の上、うつ伏せになりながら投稿された動画を見ていた。画面の右下の時刻表示は、土曜日の午前8時を示していた。

画面には、何かの漫画の表紙のような絵を背景として、文字が浮かんでは消えていく。


‘主人公の行動に一貫性がない’ ‘作者の意図が透けて見える’ ‘商業化したのは失敗と言わざるを得ない’


「そうだ、こんなクソなろう作品を商業化するんじゃねぇ。この程度だったら俺でも書けるぜ」


動画を見ている男は呟いた。


その時、廊下から足音が聞こえてきた。

足音は男の部屋の前で止まると、直後に呼び鈴が鳴る。


部屋の中の男は呼び鈴に気づかないのか、そのまま動画視聴を続けていた。

呼び鈴が数回鳴らされた後、ドアノブが回ると扉がゆっくりと開かれる。


「鍵あいてんじゃねーか。……おーい、起きてるか……って、カーテンも空けず、電気もつけずに何してんだよ」


わずかに扉を開け、そこから部屋の中を覗き込んだ短髪の男は、部屋の入口でスリッパを脱ぐと部屋に入り込んできた。


ここはとある会社の独身寮。

築50年の独身寮は風呂、トイレが共同で洗面所や洗濯機が各階共通。各部屋は6畳の畳敷きでそこに一人ずつ入居している。壁の薄さはレオ〇レスと同レベル。時間が昭和で止まっている建物だ。


部屋に光が差し込んだことで扉が開いたことに気づいたメガネの男は顔を入口に向けた。

そこでようやく短髪の男に気づいた。


「なんだ、短髪か。どうした?」

「どうしたじゃないだろ。今日は遠征しようって言ってたの忘れたのか?」

「いや、忘れてはない。ついつい動画に夢中になってしまった。すまん」

「珍しいな。そんなに面白い動画だったのか?」

「面白くはない……と思う。むしろ人の悪い面を見せられるというか、何とも言えない心地になる動画だ」

「ふーん。まぁいいや。行こうぜ。10分後に玄関に集合な」

「分かった。着替えて行くから待っててくれ」


短髪は部屋から出て行った。

メガネは着替えをバッグに詰め込み、最低限の身なりを整えて部屋を出た。


玄関で短髪と合流したメガネは車に乗り込んだ。メガネが運転席、短髪が助手席。

二人は社会人2年目の同期。配属先が関係性の深い部署だったこともあり、入社時から何かと共に行動している。

車を出すのは毎回交代、行先は運転担当が決める。


「今日はM町の温泉な」

「いいね。だったら昼はラーメン食おうぜ」

「そうしよう」


二人の趣味は微妙に守備範囲が異なる。

筋トレとゲームが趣味のメガネに対し、野球とギャンブルが好きな短髪。

そんな二人だが、共通点もある。ドライブ、温泉好き、彼女なし、漫画好きである。


独身寮から車で1時間程度の距離にある混浴温泉が最近の行きつけである。

短髪が助手席からメガネに話しかける。


「今日はかわいい子いるかな?」

「だといいな。前回来てた女子大生っぽい二人組はよかったよな」

「ああ、かわいかった。惜しむらくは彼氏持ちだったということか」

「あのグループ、絶対自慢に来てたよな。ワンチャン狙いの俺らみたいなやつらをおちょくってた」

「それな。わざわざ彼女自慢に来るなんてふざけてるぜ。おとなしくプライベート風呂やらそういうホテル行って遊んでろよ!」

「違いない」


馬鹿な話を続けるうちに、話題はメガネが見ていた動画へと移った。


「メガネ、何の動画みてたんだ?ゲームのプレイ動画か?」

「いや違う。漫画のレビュー動画だ」

「漫画のレビュー……、amaz〇nのレビューみたいな感じか?漫画のレビューってどんなこと書いてるのかよく分かんないけど。あれか、あらすじを発売日前にバラすとか」

「それはネタバレ系だな。そっちは動画というよりも個人ブログとかに多いタイプ。発売日前の動画投稿はさすがに明確にアウトだし」

「でもさ、そうなると何をレビューするんだ?あらすじについて話さないとなると、漫画の技法とか?」

「そもそもの前提がちがうんだよ。俺が言ってる漫画ってのは週刊誌のことじゃない。単行本についてだ」


短髪は考えているようだった。


「単行本のレビュー……あ、分かった。おまけ漫画の有無とかだろ?カバーを外したら裏表紙に㊙情報がのってるから必見、とかさ」

「いや、そんな内容ではない。もっと過激な内容だ」

「過激ってなんだよ」

「作品の矛盾点を指摘してバカにするのがメインかな。主人公の言行不一致とか、タイトル詐欺とか」

「レビューってネタバレ喋っていいのか?というかそれ、本当に面白いのか?」

「面白いかと問われると……微妙?ワイドショー見てるみたいな感覚だ」

「つまり、時間の無駄ってことね」

「身も蓋もない言い方だが、そういうこと。でもそれが数千~数万アクセスあるんだぜ。ちょっとした小遣い稼ぎだよ」

「そんなアクセスあるのかよ、病んでる奴って多いんだな」

「病んでるってのは言い過ぎだろ」

「お前は病んでる + お前が見てる → お前が見てるものを見てる奴は病んでる。Q.E.D.」

「ひでぇ」



馬鹿な話をしているうちに、目的地の温泉に到着した。

まだ午前中ということもあり、駐車場に車の姿は少ない。


「よし、行くぞ!」

「おうよ!」


二人は鼻息荒く温泉の暖簾をくぐった。





2時間後、二人は温泉から出てきた。


「いい湯だった。女性という点では空振りだったが」

「こういう日もあるさ。ラーメン食って遊技場行こうぜ」


温泉から出た二人は昼食を取り、行きつけの遊技場へ。

ゲームセンターとパチンコ店が同じ敷地内に建っている。


「とりあえず5時までな」

「了解」


メガネはゲームセンター。短髪は隣の建屋のスロットへと別れる。





5時になり集合した二人の表情は対照的だった。

明るい表情のメガネと暗い表情の短髪。


「どうした短髪。また負けたのか?」

「ノーコメントだ。そういうメガネは調子よさそうだな」

「レアカードが出たんでな。……晩飯どうする?金ないなら俺がおごるぜ」

「……頼む」



牛丼屋に向かい、晩飯を食らう。

その途中、短髪が呟いた。


「なぁ、今日話してたことなんだが」

「ん?」

「漫画レビューってあっただろ。それと同じようなこと出来ないか?スロットレビューとかゲームレビューとか」

「難しいな」


メガネは短髪の提案を却下した。


「どちらも既に飽和状態だ。何のとりえもない俺たちがレッドオーシャンに飛び込んで、勝てるわけがない」

「ぐぬぬ……」

「小遣い稼ぎがしたいなら、投資とかどう?同期のKは株で稼いでるらしいぞ」

「株はもう懲りた。やりたくない」


今度は短髪がメガネの提案を却下した。


「何かないのか?俺たちができそうで、ブルーオーシャンの世界が?」

「そんなこと言われても……じゃあ、漫画レビューのレビューとかやってみるか?このレビューは役にたつ、このレビューは役に立たないって、独断と偏見でさ」

「そんなこと……アリかもしれんな。俺たちの中途半端な知識でもそれっぽいことを喋れそうだし、グダグダの話を適当にアップすればいいんだろ?楽勝だ」

「楽勝ではないと思うぞ……」


二人は何も機材も持ってない。

動画投稿するには多少の勉強が必要だが、真面目系クズの二人としてはできればそんな労力を払いたくない。


「一度やってみようぜ。飲み会のネタにもなるし。動画の扱いを勉強するのは今後の仕事にも役立ちそうだし」

「まぁ、必要最小限の体裁を整えるだけなら、手持ちでもできるかもな。ただ、動画、収益化はやめよう」

「どうしてだ?」

「今のトレンドは、‘商業化作品叩き’だからだ。お金を払ったものに対する批判は正当、という意見だな。これは見方を変えると‘商業化されていない無料のなろう作品’に対して批判することはご法度ということだ。俺は豆腐メンタルだから叩かれたくない。まぁ、ルールなどはなく紳士協定でしかないのだが……」

「紳士協定ね……あれ、そういう意味だとレビューをレビューするというのはマズくないか?レビュー動画は商業化されているわけではないぞ」


短髪の言葉に、メガネは考え込んだ。数秒のち、メガネは自分の意見を口にした。


「そうだな。難しい所だ。下手するとただの誹謗中傷とみなされる。話は変わるが、そもそもレビュー動画は本当に全て個人の意見だろうか?材料集めから意見まとめ、収録、テロップつけ、効果音、全て一人でやってると思うか?」

「いや、俺はレビュー動画見たことないしわかんねーよ」

「ま、そうだな」

「有名投稿者には裏方のスタッフがついてるってのは有名だよな。でも個人の投稿者はそんなことないんじゃねーの?わからんけど」

「そう。わからないんだよ。いち視聴者として、一人で全てを考えて、動画を作って投稿している投稿者さんをレビュー対象にするのはどうかと思う。ただ、動画をグループで作成して、公開することで収益を得ているのであれば、それはもはや商業化だと思う」

「ふむ」

「グループでやっているかどうか、収益状況がどうか明確なソースなんてどこにもない。であれば、先の紳士協定を守るため、俺たちができる判断基準は何か?」

「……収益化?」

「まぁ、そうなる。俺たちとしては、その動画で収益を得ているか、を判断基準にするしかない。収益を得ている動画=商業化作品ということだ」

「かなりの暴論だな。その理屈だと、閲覧回数の多い動画とか、登録者の多い投稿者の作品は商業化作品になってしまうぞ」

「収益から税金を払ってるならそれは収入だと思う。そこに経済活動がある」

「定義的にはそうかもしれないが……」


納得していない短髪に対して、メガネが話を続ける。


「まぁ収益化云々は置いておいてもだ、動画にはコメント欄がある。肯定的な意見もあれば、否定的な意見もある。おれたちは、動画のコメント欄ではなく、無料の別作品でコメントを言う。それだけだ。漫画レビュー動画だって、漫画の販売ページにはレビューの仕組みがあって、そこでやればいいのに、わざわざ別サイトに意見をあげているんだぜ。俺たちがやろうとしていることと何も変わらない。いや、収益化している分俺たちよりも過激だ」

「まぁ、そういう体ならいいのかもしれんな。……よし、早速明日やろうぜ」

「明日!?随分早いな」

「こういうのは、思い立ったときにやるものだ。そうだろ?」

「……違いない」


意見の切り替えが早い短髪に多少呆れつつ、メガネは明日の予定を考え始めた。

独身社会人の夜は更けていく。

読む専でしたが、一念発起して書いてみました。

誤字脱字がありましたら報告お願いします。

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