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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第1章

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94.エルト

 自分の中に巣食っていた”誰か”に体を乗っ取られたのだと気づくのに、そう時間はかからなかった。


「その赤い瞳……見覚えがある。貴様は誰だ」


 ”五傑”たちもブラックも、目の前の異変に気づかないわけがなかった。

 マキシマは両の拳を燃やし、マルトフが一歩退いて杖を構える。ドラゴンに乗ったロキは特に様相も変わらなかったが、幾分高度を上げて、インコを自らの肩に引き寄せた。

 そうしてブラックは、血のような赤い瞳を瞼で引き絞り、透き通るような白髪まで”闇”の色に染めて警戒した。


「あらら? やっぱり目の色が変わる?」

 ”誰か”は首を傾げつつ、キラの身体を操り、落ちていた刀を拾った。

「う〜ん、上手くイメージ通りに行かない……。……気持ち悪くないように声も口調も寄せたのに、バレちゃったら意味がないじゃん。まあ、それはそれでいいけど」

 のんきにぶつぶつと呟く様子にキラが呆れていると、しゃがれたガナリ声が響いた。


「小童! 質問に答えんかッ! 貴様は何だ――何をした!」

「ん〜? そうだなあ……別人って思われてるなら名前も必要だよねえ。じゃあ、とりあえず……エルトって呼んでよ」

「呼んでだと? ふざけてるのか、貴様ッ!」


 マキシマは、見ての通り熱い老人だった。

 ざっくばらんに短く刈り揃えられた髪の毛はほとんどが白髪で、ゴツゴツとした顔つきはシワだらけ。張り付くような冷気の中、なぜか上半身だけ裸になったその体つきは、年齢を感じさせないほどに筋骨隆々だった。

 ところどころ痣や傷跡が目立ち、ズボンも千切れて七分丈になってしまっている。

 おそらくはロジャーと戦ったのだろうと、キラはエルトの中から観察し、推察した。


「齢を重ねただけの愚か者か、トーマス・マキシマ。敵が真実を語るわけがなかろう」

 もうひとりの男は、マキシマと同じ程の年齢ではあろうが、見た目がかなり違っていた。

 すらりと背高な身長を真っ黒な詰め襟の軍服で包み、制帽を目深にかぶっている。髪も眉も体つきも隠れているために、マキシマよりかはすこし若く見えた。

 戦争に備えて常日頃から鍛えていることは、その引き締まった顔つきから伺える。


 ”軍部”の人間であることをことさら象徴するかのような姿ではあったが、帝国城で見たアバルキンとはまるで雰囲気が違っていた。

〈”軍部”にもいろいろな人がいるってことか……〉

 キラはそうつぶやき……そこで、己の声が妙に反響するのにビクリとした。

 身体と意識は完全に切り離されているようで、声も出なければ、肩をビクつかせもしない。

 ホッとしていいやら、恥ずかしいやら。

 奇妙な気持ちになっていると、頭の中にエルトの女声が響いた。


〈私が”覇術”を使っている影響かしら? あなたの声、はっきりと聞こえてるわよ。ユニィに話しかけられてるみたいに〉 

〈え……。じゃ考えてることも筒抜け?〉

〈そこ? もうちょっと聞きたいことがあるでしょうに……。あなたって、結構ユニークなところがあるわよね〉

〈だって、気になる〉

〈ま、安心しなさい。どれだけエッチなこと考えてても、私が分かるわけもないから〉

〈この状況でエッチ……?〉

〈ふふ、ものの例えよ。――まあ、今は私が戦ってあげるから。ゆっくりしてなさい〉


 エルトの気遣いをむず痒く感じていると、マルトフの厳粛な声が聞こえてきた。

「赤眼の少年よ。よもや、この場から逃げようと画策しているのではあるまいな? なれば、今一度この布陣に刮目せよ――逃げる隙など、ありはしない」

 確かにと、キラは今更ながらに焦りを感じてきた。

 今や敵はブラックだけではない。

 マキシマとマルトフの実力は未知数だが、相当な実力者であることは手を合わせずとも分かる。

 ドラゴンもいれば、ロキも要るのだ。


〈あのさ、もしかして……〉

〈あら、気づいた?〉

〈リヴォルから聞いた時に……。ブラックとロキが同時期に帝国軍に入ったって〉

〈忘れておきなさい――レオナルドの言ったように、あのロキは口にするのも憚れる”ヤバイやつ”なんだから〉

〈だとしたら、相当まずいなんじゃ――〉

〈大丈夫。だから、見て、聞いて、感じておきなさい。これからのためにも〉


 エルトはそう言うと、マルトフに向かって言った。

「逃げる隙なんていらないんだけど」

「何……?」

「全員、全力でかかってきなよ。戦争は終わったからね――殺さずにおいてあげるよ」

 キラもひやりとするほど、エルトが調子よく言い放つ。


 わかりやすくも癪に障る煽りにブラックがピクリと動き――それよりも先に、上半身裸の翁が怒髪天を衝く勢いで向かってきた。

 その両の拳を包む炎が、苛立ちを表すかのように、真っ赤に輝いている。

「殺さずにじゃとッ? 舐めよって――望み通り息の根を止めてやろう!」

「ふふっ――そうだよね、あなたがまっさきにくるよね、”燃える剛拳”」


 エルトも、マキシマと同じように前のめりに飛び出した。

 無駄なく、淀みなく。そして速い――”身体強化”を施したマキシマよりも、断然に。

〈お、おぉっ……!〉

 あまりに突発的なトップスピードは、身体の持ち主であるキラ自身が情けない悲鳴を上げるほどだった。

 これまで何度も敵の速さを目の当たりにしたことはあるが。

 自らが音をも置き去りにして、瞬時に動き始めた相手の無防備な懐に入り込むのは、初めての体験だった。


「なんじゃ、この速さ……!」

 エルトはそのままマキシマの太い首をひっつかみ、地面へ押さえつけた。

 勢いも相まって。そんな生易しい表現では通用しないほど、スピードの乗ったパワーは凄まじく、マキシマを土の中へ埋め込んでしまった。


 キラが唖然としていると、エルトが”覇”を通じて語りかけてくる。

〈これが”覇術”よ。まだあなたは使えないけど、いずれ身につける時が来る――だから、ちゃんとこの感覚を覚えておきなさい〉

〈ん、うん……〉

〈それにしても、あなたのこの身体、想像以上に鍛え抜かれてる。筋力がぐっと落ちてるけど――おかげで、テンション上がるくらい動きやすい!〉


 エルトは楽しそうに声を響かせ、迫りくるブラックに振り向いた。

 突然の事態にも動揺を見せず、驚くべき冷静さで距離を詰めてくる。

 全身からは黒い”闇”が立ちのぼり、蠢くそれらが黒剣に巻き付いている。


 さらに、その動きに合わせるかのように、

「本当に――貴様は何者だッ!」

 マルトフが強大な魔法を放ってきた。


 背後から迫る太陽のような炎の塊に、前方から放たれる”闇”をまとった刺突。

 キラが息を呑むのとは対照的に、エルトは楽しそうに口を歪ませた。

 そして、

「――ッ!」

「なん――!」

 ブラックもマルトフも目を見開いた。


 それもそのはず。

 エルトは背後も見ずに刀を振り払って、炎の塊を真っ二つに斬り。”闇”をまとった黒剣を、素手で掴んで止めたのだ。


「チッ……!」

 ブラックは、剣ごと”闇”に身を包んで姿をくらまし。

「何のこれしき……!」

 マルトフは斬られた炎を杖で操り、二つの火の玉を再利用した。


 回避を試みたエルトだったが、

「ん、っと……やるぅ!」

 意に反して足が動かない。

 ブラックが”闇”の沼を作り出し、身動きを取れなくしていたのだ。足元に広がる黒い沼は、ずずっ、と白い雪の上で広がり、蠢いた。


〈黒い棘が来る!〉

 キラは思わず叫び――エルトは刀を逆さまにして両手で握った。

 白銀の刃に”白い稲妻”が絡みつき、地面に突き刺さると同時に放出。強烈な”白雷”は、全てを弾き飛ばした。


 いくつもの黒棘となって迫りくる”闇”を、地面ごとえぐり。

 今に振りかかる二つの炎球を、逆巻く白雷が粉々に打ち砕いた。


〈ンンッ! これ、ほんっっと、身体に来るわね。キラくん、あなたこんなものを”覇術”なしでぶっ放してたの?〉

〈うん、ま――って、前!〉

 エルトが”雷”の反動に呻いていると、その好機に影が飛び込んできた。


「ハッ、小童が! 調子に乗りよったな!」

 マキシマだった。地面に埋めつけられたダメージはなかったのか、年に似つかない俊敏な動きで殴りかかってきた。

 燃える拳が腹に迫り、

「ヌァ……ッ!」

 呻いたのは、老人のほうだった。

 見れば、叩き込んだ拳が奇妙な形に歪んでいる。痛みに耐えかね、たまらず大きく後退する。


「そのまま我慢すればこっちも危なかったのに――甘すぎ、だね!」

 エルトは燃えかけた白シャツを一回はたき、逃げるマキシマをすぐさま追った。

 老人が唇を噛み締め、エルトの握る刀が今に届きそうになったその時。

 地面がモコリと動き出した。


〈ゴーレムッ!〉

 キラが叫ぶと、エルトはその声に弾かれたように一歩下がった。

 想像通り、盛り上がった地面はまたたく間に土塊の柱となり、その先端が手の形を模し始めた。


「そうはいかなーい」

「さあ、それはどうかなっ」


 エルトは、ぐっと刀を背後にまで引き、一気に振り抜いた。

 ヴンっ、と。地面から生えた土塊を根本から刈り取る。それだけにとどまらず、鋭い斬撃によって発生した衝撃波が、マキシマを吹き飛ばした。

 悲鳴もうめき声も置き去りにして、ほぼ瞬間的に帝都の防壁へとめり込む。


「これはおまけってことで!」

 くらりと倒れる土の柱を、エルトは蹴り上げた。別のゴーレムを作り出そうと集中するロキに向けて、脅威的な牽制を行う。

 が、土塊はロキを乗せるドラゴンによって難なく焼き尽くされる。

 エルトは舌打ちをしながら追撃をかけようとして――はたと振り返った。


「まったくいいタイミング!」

 ”闇”より飛び出るは、白髪を黒く染めたブラック。

 降りかかる黒剣を、エルトは刀で受け流した。

〈う〜っ! やっぱ刀使いにくい! 教えてっ〉

〈えっ、今っ?〉

〈このままスイッチするから! 体動かして――それで覚える!〉

〈このままって――〉

「えっ!」


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