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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
9と2分の1章

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921.2-19「悪食」

「臆病風に吹かれたか」

「ハッ、言ってなよ……!」

 〝センゴの刀〟を納刀しつつ、

「〝術式:纏〟」

 〝未来視〟でセラフィムの動きを見切る。

 その長身と剣のリーチを生かした、神速の薙ぎ払い――左から迫り来るそれを。


「〝悪食〟」

 強化した右手で受け止める。

 正しくは、五本の指の腹で掴み取る。


 それだけでは終われない――指にグッと力を込めた。

 剣がミシミシと悲鳴を上げ始めたところで、今度はセラフィムが大きく距離を取る。


「名剣〝ガラハッド〟を折ろうなどと……。不届者め」

「残念」

 キラは、フ、と息を吐き――目を細めた。

 今の一瞬のやり取りが、隙と捉えられたらしい。


「……!」

 ぐら、と体が傾ぐ。想定外のタイミングの〝錯覚系統〟に舌打ちをしたい気分だったが、その時間さえ惜しい。


 〝覇術〟で〝錯覚系統〟を打ち消しつつ、倒れるままに任せる。

 〝気配面〟を展開しつつ、受け身をとる――地面に手をつき体を起こすその一瞬を、セラフィムは的確に狙ってきた。


 迸るは、飛ぶ斬撃。

 回避はできない――防御は可能――確実に吹き飛ばされる――その後の隙がセラフィムの本命。


 そこで。

 あえてセラフィムの狙いに乗る。

 下手なカウンターは通用しないというのもあるが――セラフィムが使うのが〝波動術〟であることが最大の理由である。


「――」

 〝波動術〟は確かに万能ではあるが、こと接近戦において〝覇術〟には劣る。

 強さにも速さにも、限りがある。だからこそ古代人たちは〝覇術〟の習得に貪欲になっていた。

 何万年経とうとも、その関係が崩れることはない。

 防御面を徹底していれば、どれだけの名剣だろうとも、〝波動術〟に斬られるなどありはしないのだ。


「フ、ン……ッ!」

 吹き飛ばされ、転がされて、斬りかかられる。

 そうなるとわかっていれば、対処は容易い。

 キラは油断なく体勢を立て直し、膝立ちになって両腕をクロスに掲げた。


 〝ガラハッドの剣〟がぶち当たり――もの凄まじい衝撃が身体中を駆け巡る。

 その破壊力は、ユニィの蹴りをも思わせる。〝センゴの刀〟を使っていたらどうなっていたか。


「二手で見極めるか……!」

 セラフィムも、素直に驚きを声に乗せた。

 ただ、キラとしても、セラフィムの素の能力を少しばかり見誤っていた。心臓も、その衝撃をカバーするようにひとりでに動き始めている。


 キラは深呼吸をして心臓の暴走を抑え――反撃に移る。

 〝ガラハッドの剣〟を引っ掴み、

「〝ショート〟」

 〝雷〟を流し込む。


 これで一秒二秒は隙を作れる――そこを狙いたかったが、当てが外れた。

 確かに、セラフィムは一瞬硬直した。くぐもった声こそでなかったが、小技であろうと〝雷〟が効いたのは確か。

 しかし即座に振り払い、再び大きく距離をとったのだ。


「ちっ……」

 〝界域之神〟にも、〝雷〟は効いた。義体にも本体にも、動きを阻止するだけの効果はあったのだ。

 セラフィムが〝神〟以上とは到底思えない。

 だとすれば、考えられるのは……。


「あの鎧か……」

 〝気配面〟で観察してみる。それまで気にも留めていなかったのが不思議なくらい、〝力〟が渦巻いていた。

 耐えずうねり続けているところや、波打つように強弱があることから、〝波動術〟で鎧の強度をコントロールしているらしい。

 〝ショート〟も、その鎧の特性とセラフィムの一瞬の判断により、カットされたというところだろう。


「厄介だな……」

 〝雷〟もダメ。〝センゴの刀〟も使えない。

 残るは〝覇術〟だが、今の一連の攻防から考えると、心臓が持つかは怪しいところ。

 ならば。

 やるべきことは一つ。


「〝術式:魔導〟」

 〝雷〟も〝センゴの刀〟もなしで戦う。

 すなわち、ぶっつけ本番の擬似魔法――〝魔導〟を中心に立ち回る。


「〝爆焔〟」

 失敗はできない。

 だからこそ、最初に使うのは最もよく知る魔法――〝爆炎ターボ〟で、一気に距離を詰める。

 ボン、ボンっ、ボンッ! と〝魔素〟の力を借りて、段階的に加速。


「魔法か……!」

 流石のセラフィムも、出方を伺う他にないらしい。

 今までになく、受け身的に構える。

 その動き方と姿勢を一瞬で読み取り、キラも爆発の角度と威力を変えた。


 そうして背後へ回り込み、

「〝冰結〟」

 セラフィムの右膝にタッチ。

 これに反応して剣を振り向けてくるが、想定内――剣を持つ腕を抑制しつつ、その手首にタッチ。

 斬撃を屈んでかわし――セラフィムが飛び退る直前に、今度は脇腹にタッチ。


「チ……! 今度は氷か……!」

 セラフィムが距離を取るのと同時に、三箇所が大きく凍り始めた。

 右膝と、左手首と、右脇腹。鎧の内側に侵食しつつ、氷柱を作ってセラフィムの動きを制限する。

 その氷による枷も、おそらく数秒も持たない。キラは羽織をはためかせ、一気に距離を詰めた。


「〝飄風〟」

 セレナがいつも見せるように、風を味方につける。


 三歩目からぐんと速度を上げ、セラフィムが構えるタイミングをずらした。

 そのまま勢いに乗ってピョンと跳び――〝覇術〟で強化した脚で蹴りを放つ。


「軽い!」

 セラフィムは巨躯。

 どっしりと構えて、腕を掲げるだけで、事足りてしまう。


 蹴りを防がれる――そこからが、キラの狙いだった。

 〝飄風〟は姿勢制御のための〝魔導〟。中途半端に宙に浮いた体を掬い上げる。そうして、そのまま文字通り風に乗って横移動。


 全身を捻りつつ、もう一度、

「〝剛脚〟」

 今度は、全力で。セラフィムの後頭部を撃つ。


 ガツンッ! とモロに入った。

 ただ、手応えは微妙。


 キラは眼を細める暇もなく、斜め後ろへ宙返りした。

 ふわりと浮かぶ間に、〝飄風〟から〝爆焔〟に切り替える。


 そうして、爆発と共に肉薄――

「〝悪食〟……!」

 セラフィムの顔面を引っ掴み、地面に叩きつけた。

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