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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
9と2分の1章

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946/961

918.2-16「盾」

「もち! ……王都?」

「まあ、パクス……旧エマール領に戻るのも手だとは思うけど、騎士団にいた方が何かと都合がいいし。入るかどうかは別として」

「なるほど。距離が近い方が、キラ様の手を煩わせることもねえもんな! けど……王都に行ったことなんかないし、住むとこはどうすんだ?」

「エリック次第かな。竜ノ騎士団は雑用係なら誰でも入れるし、寮だってある。それ以外なら……そうだな……冒険者にでもなったら、僕が住んでたとこを紹介できるよ」

 キラは、アテナというよりエリックに話しているつもりで言った。

 そのエリックはそっぽをむくようにして顔を背けている。視線を辿ってみると、セドリックとドミニクにいきついた。


「セドもドミニクも、見習いなんだろ?」

 二人ともサンドウィッチを頬張っていて碌な受け答えができず、キラが代わりに応える。

「まあね。だからこそここに来れてるわけだし」

「なら、俺は雑用係からだ」

「ふん……? まあ、採用試験は当面の間ないみたいだけど……。それでいいの?」

「ああ。最速で見習いにあがって、そんで追い抜いてやる」

「ん、そういうこと。……いいと思うよ」

「あんたもだぞ」

「え?」

「あんたをも蹴散らして、俺らがいるってことを知らしめてやるんだ」


 エリックの目は本気だった。

 何もかもを受け止めた上で、それでも進み続けることを選んだ強者の目つきである。勇敢さと無謀さを履き違えていたような以前とは、まるでワケが違う。

 そうはいっても随分と生意気な宣戦布告ではあったが……悪い気はしない。

 一方で、喧嘩を売られたセドリックとドミニクは、卵サンドを無理やり飲み込んでやんややんやと反論にかかっていた。やれ試験は難しかっただの、大会では活躍しただの……。これに対してエリックも、俺なら余裕だっただの、結果は見えてるだの。

 とにもかくにも。友達関係がずっと未来まで約束されたかのような光景を目にして、キラは少しばかり羨ましくなった。


「――キラ。来ましたわよ」

「ん……? ……なるほど」

 リリィに言われて、キラも近づく複数の〝気配〟に気がついた。リリィと顔を見合わせて頷き、一緒になって立ち上がる。


「セレナ。リーウたちを頼むよ」

「おまかせを」

 緊急とはいえ竜ノ騎士団の本部にズカズカ乗り込んできたのは、〝カール哨戒基地〟。その司令官バリオスが、武装した騎士たちを連れて得意げに口を開いた。


「あぁ……。ようやく姿を現しましたな。随分と探しましたよ。なにぶん、お仲間は一向に教えてくれないもので」

 バリオスという男は、蛇のような男だった。スラリとした体つきから、いつも後手を組む立ち方、さらには顔立ちまで、蛇に似通っている。

 アベジャネーダ入国前に会った時にも思ったことではあるが……その嫌味ったらしい口調が、より一層蛇を思わせる。


「はあ……。そりゃ……。ご苦労さま?」

 特に煽ったわけではなかった。そのつもりならもっと言い返しているが、エステルが来る前に状況を悪くするような真似はできない。

 しかし、〝カール哨戒基地〟にとってはそうではなかったらしい。バリオスをはじめとして、全員の目つきがぎらつき始める。


「状況を、解ってないようですなぁ」

「状況……? 君ら……というか君が率いている騎士たちは、随分物々しい雰囲気ではあるけど……。それと何か関係が?」

「ああ、良かった……そこは汲み取れたのですな。ならば話は一言で終わります――あなたを、逮捕しに参りました」

 そのいきなりさは、帝都での誤認逮捕騒動を思わせる。

 あの時はペルーンが相手であり、彼の内側にはドス黒い思惑が渦巻いていたわけだが……堂々とした様子といい、一切反論を認めない姿勢といい、バリオスにも似たものを感じた。 


「どういうことか、説明をいただいても?」

 リーウやセドリックが真っ先に噛みつこうとするのを制するかのように、リリィが鋭く問いかけた。

「説明も何も……。散々話したことでしょう。〝元帥〟でありながらこれほどの被害を食い止められなかったなど……。恥晒しもいいところ」


 バリオスの明確な煽りに、〝カール哨戒基地〟の騎士たちのうっすらとした笑い声。

 キラとしては特に思うところはなかったが、リリィもセレナも頭に来ていたようだった。今にバリオスの顔を腫れるほどぶん殴りそうなほどに、ぎらりと睨みつける。

 〝元帥〟の怒りが解き放たれればどれほどのものか、その噂を知るものならば考えたくないほどであるが……バリオスは違った。余裕の姿勢を崩さない。


 それもそのはずで、竜ノ騎士団は今現在、アベジャネーダにはいないはずの存在。秘密任務で潜入している以上、公言などできはしない。

 潜入していると公に知られれば、竜ノ騎士団ひいてはエグバート王国に疑いがかかる。潜入して、調査して、国の乗っ取りを画策していたのでは……と。

 そうなれば、もう疑心暗鬼は止まらない。敵は増え続ける一方で、エグバート王国が分裂する可能性すらある。

 バリオスには……〝カール哨戒基地〟には、その盾があるのだ。


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