表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
9と2分の1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

942/956

914.2-12「天上」

「おぉ〜……。すご」

 扉を潜ると、そこには絶景が広がっていた。

 三千メートルを超える〝ラキア山〟の頂上に位置するだけあって、何もかもが眼下にあった。地平線に消えていく太陽も、点在する雲も、無限に広がる大地も……。アルメイダの街並みは、もはや視界にも入らない。

 雲の海だらけだった〝原初の時代〟でもみられなかった、素晴らしい光景だった。


「〝天上御堂〟は特別な場所ですからね。我らが〝主〟が、この世の全てを見渡せるように……そう願いを込めて築かれた聖堂なのです」

「ふぅん……。あぁ……じゃあ、あの椅子に座るのは神サマ?」

「〝空の玉座〟といいまして。我らが〝主〟がおわす場所でございます」

「やっぱり……。ルセーナ……アベジャネーダの案内人から聞いたんだよ。エマールのお城にも、〝空の玉座〟があるんだってさ」

「解釈の違いにより、道を分つこととなりましたが……。初代エマール……〝イエロウ派〟も、元は志を同じくする者。三百年前は、確かに信念があったのでしょう。それを否定することができないがゆえに、打つ手がなかったのです……」


 〝天上御堂〟からは長く幅広な階段が続き、それを下ることとなる。三千メートルを超えた場所というだけあって、キラも慎重にならざるをえない。

 というのに、先頭をゆくセラフィムもその後ろに続くエステルも、慣れたようにツタツタと階段を降りていく。


「で……。この先の建物は何? 教会?」

「修道院です。父をはじめとして、高位の神官たちが住んでいるんです」

「修道院……? それって、修道士と修道女とか……見習いみたいな人たちの下宿先を指すんじゃないの?」

「公には〝マリアの家〟という宿舎としています。ただ、実際には我らが〝主〟の〝御言葉〟を授かるための修行の場……。私もつい先日知りまして……その所感が修道院というわけです」

「なぁるほど……? 〝御言葉〟……って、実際にお告げみたいなものがあるってこと?」

「残念ながら、過去に一度もその例はありません」

「へ……? んー……?」


 じゃあ意味がないじゃん。と口に出してはいけないということは、アベジャネーダへの行程でよくよく理解した。

 ましてや相手は教皇カスティーリャの娘……口が裂けても粗相はできない。


「不思議に思われますか?」

「ん、ん……。ちょっとは」

「ふふ。そうでしょうね。以前の私ならば、きっと同じ感想を抱いたでしょう。父は教皇という立場にありながらも、訳のわからぬ修行に心血を注いでいるのですから」

「今は……どう感じてるの?」

「〝今〟というものが〝未来〟への足がかりになる、と。ここ毎日、そう強く思っています」

「……?」


 要領を得ない答え方に首を傾げていると、〝マリアの家〟に到着した。

 〝天上御堂〟と同じく、〝マリアの家〟も見かけは厳かな建物だった。

 しかし中に入ると、びっくりするほどに素朴。

 敷かれた絨毯に模様はなく、柱や壁にも装飾はない。確かに、修道院と言われても不思議ではないくらい一切飾り気がなかった。


「――こちらです」

 〝天上大階段〟と呼ばれる階段から続く扉は、〝マリアの家〟の三階に繋がっていた。教皇カスティーリャの公務室があるそうで、それも相まって人気がない。

 それにしては随分と静かな〝家〟の中を歩いたのだが……そうはいっても、まっすぐに伸びる廊下を突き当たりまで進んだだけ。〝天上御堂〟から一切曲がり角がなかったことを考えると、〝主〟とやらのための通り道でもあるのだろう。

 どうやら〝主〟は随分と愛されているらしいと感じつつ、エステルの案内に従い室内に入った。


「――竜ノ騎士団〝元帥〟キラ殿、で間違いはないか?」

「……そう、です」


 その部屋は少しばかり奇妙なところがあった。

 部屋二つを繋げたかのように細長く、それに合わせたかのように長い机が中央に据えられている。

 ただし、用意されている椅子は二脚だけ。対面する形ではあるものの、ひどく距離感がある。

 そして極め付けは、〝マリアの家〟の飾り気のなさからは考えられないほど、内装が凝っていること。長テーブルも椅子も、敷かれた絨毯も、窓にかかるカーテンも……。職人の手によって生み出された芸術品だった。

 教皇の公務室ではないのは確か。かと言って、来賓を迎える場にも思えない。むろん、大人数で食事会を想定したものではない。

 観察すればするほどに、その用途がわからなくなる不思議な内装だった。


「話を聞こう……。掛けるとよろしい」

 仰々しい祭服に身を包んだその人物……教皇カスティーリャは、すでに長いテーブルの向こう側に座していた。

 想像に違わず、その見た目も厳格な人物だった。

 白髪の混じるブロンドをオールバックにしてなでつけ、剣呑な目つきには濃い眉が伴っている。顔中には年相応のシワが刻まれ、その全てをもって威厳としていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=811559661&size=88
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ