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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
9と2分の1章

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913.2-11「玉座」

 キラは、随分とその場に立ち尽くしていることに気がついた。さながら河川の中州に取り残されたかのように、ヒトの流れの中にとどまっている。

 不思議なのはセラフィムも微動だに動いていないということ。てっきり、先へ先へと歩いているものかと思ったが……。


「……?」

 チラリと視線を送ると、それに気づいたかのように、ぼそぼそとつぶやくように言った。

「ついてこい」

 どうやら行き先は〝地下御堂〟にはないようだった。再び、ゆったりと、大股に歩き始める。


 偶像とその参拝風景をぐるりと迂回。

 〝地下御堂〟につながる通路の一つに入る。

 先ほどとは違い、そこは人気がなかった。松明はめっぽう少ないために薄暗く、しかも少しばかり狭い。

 妙な圧迫感を覚えていると、行き止まりに当たった。もはや目を凝らさねばならないほどの暗がりで、そこに扉があるのがなんとか目視できる。

 セラフィムの案内に従って、キラとブラックも扉をくぐり……。


「吹き抜けだ……。けど階段がない……?」

「〝地下御堂〟から〝天上御堂〟へつながる道だ。――よもや、空を飛べないわけはあるまい」

 そういうとセラフィムは、返事を聞くこともなく深く屈んだ。ぐっと力を込めて、凄まじ勢いで飛び上がる。

 その衝撃で土埃が舞い、キラは目を細めた。


「わぷ……。はあ……そういうこと。上に行く階段がないってのは、確かに防犯にはもってこいだ」

「ふん……。合理的だな。よくできている」

「あれ……。ブラックはここから行かなかったの?」

「……。〝教皇庁〟に直接降り立った」

「……それでよく〝スローンズ騎士団〟が出なかったね」

 〝パサモンテ城〟に海賊船ごと突っ込んだりと、意外と考えなしなところのあるブラックに呆れつつ、キラは〝覇術〟を使った。

 一応病み上がりのため、心臓の動き方に気をつけつつ、上を目指す。


「はぁ……。はぁ……。け、結構しんどい……」

〈〝ラキア山〟、かなり高いからね〜。三千はあるんじゃない?〉

「そ、それ……。事前に聞いておきたかったかも……」


 到着したのは〝天上御堂〟、すなわち聖堂内。

 岩肌と石像が視界を埋め尽くす〝地下御堂〟は地味な印象が強かったが、〝天上御堂〟は打って変わって豪奢だった。

 ピカピカの大理石の床といい、柱頭に凝った細工が施された白亜の柱といい、日の光を取り込めるよう工夫された天窓といい……。


 とはいえ、〝地下御堂〟に比べるとさっぱりとしているところもあった。

 参拝者たちのための椅子が一つとしてない。それどころか、祭壇も説教台もない。

 あるのは、例のマント姿の偶像と、その足元に据えられた豪奢な椅子のみ。


「なんか……。見た目は聖堂だけど、あの椅子だけ見ると玉座にも思えるね。謁見の間、みたいな」

〈確かに、不思議な並びかも……〉

「似たような話を聞かなかったっけ……? あー……〝空の玉座〟……?」

〈ああ……! ルセーナちゃんが散々悪態ついてたやつ。エマール家の帰還のための王の座。うん、言われてみれば似てるかも……ってか、こっちが元じゃない?〉

「じゃあ、あそこに教皇カスティーリャが座って……。でも、いないや。セラフィムも待ってないじゃん」

〈私たちが押しかけたようなもんなんだし。ここで待っとくしかないんじゃない?〉

「座りたい……。でも椅子がない……。あそこ、座っていいかな」

〈だめ。やめて。だめ〉

「え〜……」


 随分不便な場所だと独りごちながら、改めてまわりを見回した。

 マント姿の偶像を迎えるかのように、〝天上御堂〟は細く長い。玉座のような司教座からは赤い絨毯が伸び、これまた豪奢な扉にまで続いている。

 この絨毯を挟むようにして白亜の石柱が等間隔に並び、そのまた外側……壁際に〝地下御堂〟へつながる通路の入り口がある。

 その見た目は暖炉のようで、先ほど使った箇所以外にも三つある。おそらくは、地下への緊急避難経路も兼ねているのだろう。

 キラは椅子に座りたい欲を抑えて、ブラックがそうするように石柱にもたれかかった。


「……背負おうか?」

「子どもじゃあるまいし。頑張るよ」

 そうこうしているうちに、扉が開いた。

 潜るようにして現れたのはセラフィム。そして……。


「ああ、キラ様。よくぞいらっしゃいました」

 無骨な騎士と比べるととても小柄な少女が、続いて現れた。

 まるで修道女のように質素な格好をしているものの、胸元では〝聖母のタリスマン〟が輝いている。〝聖母教〟においては〝タリスマン持ち〟と呼ばれる高位の神官である。

 そんな女性神官を、キラは一人だけ知っていた。


「あれ。エステル様。そういえば、教皇……猊下の、娘さんだったっけ」

「ふふ。ええ、その通りです。こうして再びお会いできるとは、至極光栄……。さあ、こちらへ。父が待っております」


 随分と丁寧な出迎えに、キラは首を傾げた。

 王都で初めて会った時もそれからも、ある程度上から目線だった。

 〝転移の魔法陣〟に怖がっているくせに『手を取ることを許しましょう』だの、〝元帥羽織〟を着て『気に入りました』だの……。

 可愛らしいものではあったが、下手に出るような人物ではなかった。


 というのに今は、腰が低いというかなんというか……。まるでセレナやリーウがそうするように、案内係を買って出ている。

 これこそ罠かもしれないとも思ったが、〝スローンズ騎士団〟がいる以上、自分を曲げてまで仕掛けることはない。

 不思議に思いつつも、キラはエステルの案内に従った。


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