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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
9と2分の1章

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938/961

910.2-8「山の都」

〈〝教皇庁〟……? ……! ああ、そういうこと!〉

 キラが頭の中にハテナマークを浮かべていると、エルトが説明してくれた。

〈きっと〝アルマダ騎士団〟……ていうか、〝カール哨戒基地〟としては、本国に知られないうちに何もかもを済ませておきたいんだよ。極端に言えば、書類一つ送って現状の説明が完了するように。そのために査問会議を開く、ってわけ〉

「あ〜……。こざかしいというか、なんというか……」


〈逆に言えば、〝カール哨戒基地〟にはそれしか道はないってこと。〝カール哨戒基地〟の騎士たちはリケールにいて甚大な被害を被ったわけだけど、その理由を明らかにはできない。だって、本国には内緒で侵攻作戦を進めちゃってて、その過程で〝宵闇現象〟が起きちゃったもん。だから……〉

「そこらへんの前後関係を、〝宵闇現象〟で有耶無耶にしたいわけだ。そのうえで〝元帥〟がどうすることもできなかった、って流れを作れたら……。〝カール哨戒基地〟は矢面に立たずに済んで、僕ら竜ノ騎士団だけが非難を受ける。けど……それ、あんまり意味なくない? だって、侵攻作戦については共有されてたじゃん?」


〈それを誰に訴えかけるの? っていうのがキモなんだよ〉

「んー……。〝教国〟とか〝教皇庁〟に……。お」

〈そ。普通に考えたらさ。私たち竜ノ騎士団と〝カール哨戒基地〟、どっちが早く〝教皇庁〟に掛け合えるかって言ったら、もちろんあっちに分がある。だって身内なんだから、手紙一つ飛ばすだけで理解してくれる〉

「だけど今回は違う。なにせ、ブラックがいる」

 ちらりと白髪赤目の男の方を見る。壁際で腕を組んで立っているブラックは、それと見てわかるほどに自慢げになっていた。


「だから僕らの方が〝教皇庁〟に早く接触できて……。……それで?」

〈まあ、一番手っ取り早いのは、〝教皇庁〟にも査問会議に出席してもらうことだよね。実際のところはブラックくんに聞かないとわかんないけど〉

 エルトに促されるようにして、ブラックは壁際から離れた。ベッド近くに椅子を寄せて、深く腰掛けてから話し始める。


「順を追って説明すると……。まずあの姉妹から頼まれたのは、国からの了承をもらうこと。すなわち、あの小さな女王とエルトリア父」

「エルトリア父……シリウスさんか」

「その二人から〝教皇庁〟への手紙を受け取り、〝教国〟ベルナンドに向かったのだが……。実を言えば、まだ明確な回答はもらっていない」

 エルトはある程度予想していたのか、頭の中でムムッと唸った。


〈やっぱり、一筋縄じゃいかないよね〜……。ましてや、ブラックくんは竜ノ騎士団に所属してる訳じゃないもん〉

「いや……。俺はもう雑用係として登用されてる。〝総帥〟自身がそういったのだから、間違いはないだろう」

〈ええっ? ――あの真面目シリウスが、そんなあっさり?〉

「俺としては、あなた方お二人以外に忠誠を誓うつもりはないが……。何か前例があるのか、意外とすんなりと納得した。とはいえ、さまざまな方面に説明が必要らしい……根回しは自分で済ませろということだな」

〈へ〜……。まあ、それは後回しでいいや。で、回答がないってのはどういうこと?〉

「〝教皇庁〟から要求があった。キラ殿が直接、教皇カスティーリャに話を持ってくるように……と」

〈……へ?〉


 目を丸くするように、エルトが唖然と声を漏らす。

 キラも、いきなりの名指しにブラックをまじまじと見つめた。


「なんで?」

「意図はわからん。何かくだらん罠でも仕掛けているのかとも思ったが……時間の指定は無し。同行者も自由。査問会議のことを考えるならば、早く行動するべきだと妙なアドバイスも受けた……。どう考える?」

「んー……。じゃあ、今から行こかな。早い方がいいってのは事実だし」

「ふむ……。それがよかろう。何か仕掛けてくるつもりならば、こちら側から動いた方が手っ取り早い。それに何より、たかが数時間で往復できるとは思わん」

「そう言えば……。ブラックは、体調とか大丈夫なの?」

「平気だ。配達以外は寝ている」

 もともと一匹狼なところのあるブラックは、誰かと一緒に行動するということが苦手なのだろう。それでもなお連携を取ってくれているのだから、頭が上がらない。


「ありがと、ブラック」

「……礼を言われるのは慣れてない」

「じゃあ、慣れなきゃ。ってことで、羽織取りに行きたいからさ。僕の〝元帥室〟に寄ってくれない?」

「承知した」

 〝元帥羽織〟に袖を通し、〝センゴの刀〟を携帯し、きっちり身支度を整えてから〝教国〟ベルナンドに向かった。




 と、いっても。

 〝元帥羽織〟を羽織って、〝闇〟のゲートを潜ればすぐ到着。旅というには拍子抜けなほど気楽なものだった。

 しかし、〝山の都〟と謳われる〝教国〟首都を目の前にした感動は、少しも薄れることはなかった。


「すっ……!」

〈っっっごぉぉぉおおい! 壮観! 雄大!〉

 アベジャネーダに潜入する前。教皇の娘であるエステルの護衛として送り届ける際に、一度立ち寄ってはいる。

 ただその時は、案内人のルセーナと合流し、秘密任務に切り替わるタイミングでもあった。

 昔のヒトは思い切った街づくりをしたものだと感心したものの、それどころではなかったのだ。


 だからこそ、タガの外れたアルメイダの外観に目を奪われる。

 目の前にあるのは、のしかかってくるような圧迫感のある山一つ。それが、丸ごと街に改造されていた。

 麓に広がる街並みといい、中腹に刻まれた階段や坂や洞窟といい、山頂の巨大な神殿といい……。山の形に沿って整えられた街並みは、歪でありながらも理路整然としていた。


「竜ノ騎士団〝元帥〟キラ殿をお連れした。……その警戒に意味はない」

 キラとエルトがアルメイダの街並みに気を取られている間に、ブラックが殺気立つ門番たちを宥めていた。にしては、随分と物騒な物言いではあったが。

「嘘をつくな……!」

「つい数時間前に出て行ったばかりではないか!」


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