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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
9と2分の1章

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907.2-5「責務」

「まったく……。ヒトの気も知らないで。きちんとした説明をもらいたいところですけど? 一時は行方不明になったというじゃありませんか」

「うぅ……。それはまだ言えないんだよ。タイミング見てからじゃないと」

「むう。ではいつ教えてくれるのです?」

「ん〜……。どうだろ。一年以内?」

「……いやに具体的ですわね」

「っていうか……ほんと、言葉だけじゃ信じられないことなんだよ。その〝ムゲンポーチ〟にしても、スマホにしても……モノがなきゃ説明しきれなかったよ」


 キラはずれ落ちそうになるタオルを手で押さえつつ、ちらりとリリィの方へ目をやる。

 ベッド近くの椅子に座る彼女の膝上には、ネメアからもらった〝ムゲンポーチ〟が鎮座している。

 何を取り出すわけでもなく、手を差し入れたり引き出したりを繰り返していた。やはりエルトの愛娘……彼女もその感触が楽しいらしい。


「確かに……。セレナがあれだけ興奮しているところはなかなか見れませんもの。最後までリケールに戻るのを躊躇ってましたし。これらは〝旧世界の遺物〟……という認識でよろしいのでしょうか?」

「まあ……。そうなるのかな」

 本当は教えるつもりはなかったものの、あっという間にばれてしまった。

 本物とは比べ物にならないほど微弱であるとは言え、〝界域之力〟が込められているのには間違いないのだ。流石に、リリィとセレナの目は誤魔化せなかった。


 ただ、だからと言ってこのまま勢いで明かすわけにはいかない。

 一つ話すだけでも、〝始祖〟への〝作戦〟に繋がってしまう。

 それ以前に、現段階でできることはほぼない。ネメアたちとの合流を果たさねば……最低でも、彼女たちの残した〝神殿〟を見つけねば、何も始められないのだ。

 それに何より、〝リリィ・エルトリア〟は話を聞くだけでは終われない。


「では……。あの〝波動術〟とやらは、一体……? これもまた教えてくださらないのでしょうか?」

 少し拗ねたようにいうリリィに、キラは思わず笑ってしまった。すると彼女は機嫌を損ねてしまい、ぷっと膨れてしまう。

 それもまた可愛らしくて……。キラはひとしきり笑ってから、きっちりと応えた。


「リリィには一番に教えるつもりだよ」

「まあ。そうなのですか?」

「その前に〝覇術〟を自覚してもらわなきゃだけど」

「〝覇術〟……? 自覚……?」

「リリィのお母さんが、それを一番望んでるはずだよ」

「……!」


 リリィは非常に表情豊かだった。喜んだかと思えば困惑し、うんうんと悩んでいた途中で、驚きをあらわにする。

 見ていて飽きない様子の彼女に、キラは頬が緩み……ふとそれを自覚する。気づかれないように、額のタオルをなおすふりをして顔を隠した。


「で、さ。〝宵闇現象〟……あー……アベジャネーダで起こったあの災害のことなんだけど」

「ん……。それも重要なことですが……。身体は大丈夫なのですか?」

「まあね。まだ身体は熱いし……なんか節々も痛いし……ちょっと頭痛もするけど。とりあえずは平気」

「普通、もっと寝込みますわよ……」

「怪我がない分、いつもよりマシだよ」

 リリィはなおも心配そうに眉を歪め、世話を焼いてくれる。タオルを新しいものに変えて、ついでに汗を拭い、手を取ってもみもみ揉んでくれる。


「それで? 改めて、アベジャネーダで何がありましたの?」

「〝宵闇現象〟……そういう災害が起こった、って今は解釈しておいてほしい」

「ということは……。キラの行方不明と深く関係がありますのね?」

「そ。いや、まあ、正確に言えばその半分。僕が巻き込まれたのは前半部分」

「前半……。そういえば、わたくしが到着した時点で、街はすでに崩壊していましたわね」

「後半部部分……空にできたあの裂け目は、僕も完全に想定外だったんだよ」

「ふむ……。ではその二つは、実は全く別の災害だったと?」

「んー……まあね。根本的なところは繋がってんだけど」

「では……。あれは、自然発生したものではなく、意図的に引き起こされたもの……と?」

「……言い過ぎた」


「はあ……。キラが頑なに話さない理由が理解できました。わたくしを思ってのことですわね?」

「まあ。リリィは〝元帥〟で、〝公爵家〟の次期当主だから。それだけの立場背負ってて、この秘密を抱えるってのは……ほぼ不可能でしょ?」

「……ええ、確かに。国に忠誠を誓った身としては、これほどの危険を孕んだ情報を見て見ぬ振りはできません。王国議会ならびにローラ女王陛下には、報告せざるを得ないでしょう。セレナも、同じことだと思いますわ」


「だよねぇ……。まあ、僕も〝元帥〟ではあるんだけど……」

「〝元帥〟は、各自の判断によってのみ動くもの……。キラが報告をしないという選択をするのならば、わたくしには強制する権限はありませんわ」

「理解が早くて助かるよ。リリィに責任押し付けてるみたいで、ちょっと心痛むけど」

「そんなことありませんわよ。キラはいつも正しい判断をすると信じていますから。……たびたび勝手にいなくなるのは、もうよしてほしいですけど」

「ぜ、善処するよ……」


 キラは苦笑いをしつつ、そっと体を起こした。風邪でもひいたかのような頭痛に目を細め、するとリリィがさっと体を支えてくれる。

 手渡された水をゆっくりと飲んで、もう一度横になった。

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