905.2-3「騎士たち」
「っていって……。そんな〝始祖〟に、お情けで見逃してもらってるのが現状なんだけどさ。腹立つ」
〈まあスッキリしないよね〜……。ラッキーはラッキーだけど〉
「心臓も刀も壊れかけのままじゃあね。ああ……そのあたり、リリィたちにどう説明しよう?」
〈いつか必ず明かすことを約束して、秘密にしておくしかないよ。ネメアちゃんたちもそうだけど、あの時代の全部が理解しがたいものだから。少なくとも〝神殿〟を見つけるまでは、言葉じゃ到底説明しきれないし〉
「〝ムゲン・ポーチ〟もスマホも、人前では当然使えないか……。この服は向こうのだけど……平気かな?」
〈まあ、いつもと雰囲気は変わらないけど、ちょっと上等すぎる気もする……っていうか、ほんと、あっちの縫製技術すごいんだよね。早めに着替えたほうがいいかも〉
「ん。ブラックも、気をつけとくこと」
ブラックは素直に頷きつつ、〝闇の神力〟によるゲートを作った。
「ああ、そうだ。エルト、リリィの前じゃ〝波動周波数〟変えて喋らないと。バレるよ」
〈わかってるよ。……もうそろそろ、話すべきかなあ〉
「……まあ。そこは焦らないほうがいいんじゃない? 僕とエルトの脳みそが合体して今に至るって……ちょっとどころか、かなりややこしい話になるじゃん。理解も納得も得られるようなタイミングじゃないと」
〈そうだよね〜……。あ〜……でも……喋りたい。ぎゅってして、なでなでしたい。で、昔みたく一緒のお布団でおしゃべりしながら眠りにつくの〉
「……それ、僕の体でやんの?」
〈もち〉
屈託なくいうエルトに、キラは少しばかりの危機感を覚えた。
「色々……。覚悟決めないとなあ」
ボソリと呟きながら、ブラックが作ってくれたゲートを潜る。
その先に待っていたのは、やはり変わらぬ瓦礫の景色。それから、リリィやセレナ、セドリックやドミニク……顔見知りが全員集まっていた。
「おぁ。たくさんいる」
想像していた以上に手厚い歓迎だった。皆がゲートに注目し、顔を合わすやワッと騒ぎ出す。
真っ先に駆け寄ってきたのはセドリックとドミニク。
「おお、おまえ! 無事だったんだな!」
「良かった……! ほんとに……!」
その次に声をかけてきたのはリーウ。
「ご無事で何よりです、キラ様」
左腕を失ったシスも、いつもの調子で話しかけてくる。
「いやあ。お互い、散々な目に遭いましたねえ」
ルセーナにレルマも大騒ぎ。
「ったく……! いなくなったって聞いて心配したんだぞ!」
「そうよ。あなたには死なれちゃ困るんだから」
顎割れ紳士なローランが、いつもの調子で腹から声を出す。
「さすがは我が友! あっぱれである――何があったかは知らんがっ」
彼らの陰に隠れているが、エリックも無事だったらしい。その腕には見知らぬ少女を抱え、そばには老齢の騎士がついている。
そして……。
「さあ。何があったか、話してもらいますわよ」
「ですね。そこのブラックに関しても、ぜひ」
リリィとセレナが両側を取り囲んでくる。わかってはいたが、その圧力はなかなかの物。
これに屈さずほぼ全てを秘密にしなければならないことの難しさを感じ、キラは乾笑いをしながら答えた。
「お、お手柔らかに……。でも……どこで話そうか。こんな状況だし、残ってる建物も少なそうなんだけど」
「そうですわね……。ひとまず皆が落ち着ける場所を探さねば……」
「ブラックに頼めば、セドリックたちは先に王国に戻ってもらうこともできるけど……。どうせ騎士団としては表立って活動できないんだし」
「わたくしたちもそのようにすべきかと検討していたのですが……」
リリィがチラリと視線を送ると、セドリックとドミニクが息巻いて言った。
「そりゃねえだろ。この状況に背中向けて帰れねぇって」
「うん。出来ることだけでも手伝って帰りたい」
やはりと言うか、二人とも生粋の騎士だった。消耗も激しく、疲れているだろうに、その目には強い光が伴っている。
「リーウとシスは……」
「むろん、私も残ります」
「左腕失くしてしまったので。リハビリがてらに身体を動かすのもありだと思うんですよ」
本当に頼もしい限りだと、リリィとセレナと顔を見合わせて笑ってしまった。
「わかった。じゃあ……まあ、今は疲れてるだろうから、僕らの拠点となるところを探してほしい。〝アサシン〟の隠れ家とか地下通路とか、あと〝アルマダ騎士団〟とか……融通が効きそうなところを中心にあたってみて。ルセーナとレルマには案内役を頼みたいんだけど……」
「もちろん、いいぜ。騎士団にはアタシがかけあってやるよ」
「アタシも。心当たりあるトコ探してみましょう」
そうして六人が話し合いに入る。
キラが口を出さずとも、〝リンク・イヤリング〟で即座に連絡を取れるリーウとシスを中心に、二つの班を作って別行動するらしい。
「あー……。で。君はどうするの、エリック」
喧嘩をするほどの仲ではないが、かといって馬が合うわけでもない。
そんな微妙な関係にあるエリックでも、まさか無視するわけにもいかず……キラは少しばかりどもりながら聞いてみた。
「……あんたの指示に従う」
「ぉん……?」