表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
9と2分の1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

931/948

903.2-1「無頼」

「さて……。とりあえずは、合流しなくちゃ」

〈そうはいっても連戦続きだったんだから、休憩したら?〉

「や、まあ、そうなんだけどさ……。あんまりここじゃあ落ち着かないというか……」

〈あー……。ね〉


 今や見る影もない〝パサモンテ城〟跡地。

 周りは瓦礫だらけ。かつて王様が住まう城が建っていたなど、誰も思わないほど……潰され、粉微塵にされ、埋もれていた。

 遺体がほとんど見当たらないのは、幸運と取るべきか。どうやら〝宵闇現象〟に飲み込まれたことで、跡形もなく消え去ってしまったらしい。

 ただ、それでも何人かが地面や瓦礫に横たわっている。


 中でも目を引くのは、闇色のクリスタルの真下に現れた大男。大量の血を地面に流しながらも、細く薄い呼吸でなんとか生きながらえていた。

 一見すれば、何か得体のしれない化け物。

 背中から巨大な翼が生え、左の方が半ばからちぎれている。右腕と左腕にはごつごつとした鱗が張り付いており……それもまた剥がされていた。

 だがよくよく観察してみれば、キラも見知った種族の成れの果ての姿であるとわかった。


「竜人族……? もしかして……〝ローレライ海賊団〟の……」

 肝心なところで名前を思い出せなかったが、その答えは突如として現れた〝闇〟のゲートから返ってきた。


「ヒューガか……。随分と容赦なくやられたな。〝神力〟も奪われている」

 ブラックが、ぴくりとも動かない竜人族のそばに立つ。長い白髪が風で靡く中、いつもの冷徹な面持ちと血色の瞳でじっと見下ろす。

 〝海の王者〟のあっけない最期を蔑んでいるかのようにも見えるが……律儀で思慮深いことを知っていれば、哀れみを持って接しているのがわかる。


「は……。ざまぁねぇ……ってか……」

 おそらくヒューガは、最後の最後まで〝宵闇現象〟に抗ったのだろう。

 つまりはあの〝始祖〟に対して一人で立ち向ったということであり……その事実を考えれば、今こうして言葉を交わせることが奇跡のように思えた。


「まがりなりにも師として仰いだ。〝覇術〟をもらった恩もある。……悪く言うはずもなかろう」

「け……。あい、かわらず……よめねぇなぁ……」

 哀れな竜人族の命は、一秒ごとにすり減っていく。細く薄い呼吸が、だんだんと途切れている。もう言葉すらも考えられないだろう。

 それでも、なお、ブラックは言った。


「生きたいのならば。いくつか手段がある」

 キラは、ヒューガのことをよく知らない。

 竜人族で、〝センゴの刀〟を盗んだ無頼漢で、師匠のランディたちと交流があったことくらい。

 ただ、答えは分かりきっていた。

 ヒトよりも破天荒で型破りな人生を歩んできた男が、今際の際にその全てを台無しにするようなことは望まない。


「へ……。おことわりだ……!」

 キラも人のことを言えないが……無茶をしたらどれだけ自分に返ってくるかはよく知っている。

 この無頼漢も、おそらく同じ部類。

 恵まれた大柄な身体は、その無理無茶無謀にどれだけでも応えてくれたのだろう。試さずにはいられないことが山のようにあったはず。

 だからこそ、ケリは自分でつけなければ気が済まないのだ。


「まぁ……せいぜい……きを、つけるこった……。アイツの……よ……」

 安らかに、とはいかないだろうが。何事も、不平不満なく、〝海の王者〟は自らの意志で人生に幕を閉じた。


〈……大丈夫?〉

「……少しだけ。昔を思い出した」

〈昔?〉

「俺はコイツに救われたことがある。なんの因果か……今、思い出せた」

〈じゃ、多分、知ってて近づいたんだね〉

「……読めないやつだ」

 ブラックはぽつりとこぼしてから、近くの瓦礫の山に近づいた。埋もれていたカーテンを引っ張り出し、ばさりと土埃を払って、遺体となったヒューガにかけてやる。


「少し話したいことがある」

 わずかな黙祷を捧げてから、ブラックは振り返っていった。

「この事態をどう収めるか……。エルトリアの姉妹に事情を聞かれる前に決めておきたい」

〈それなら、私に一つ案があるよ〉

 エルトがここぞとばかりに口をだす。

〈まず初めに言うと。一年の休戦協定結んだでしょ?〉

 ブラックは何も言わなかったが、じとっとした視線を向けてきた。

 キラは知らないふりをしてそっぽを向き、するとブラックが何もかもを悟ったかのようにため息をつく。


「……続けてくれ」

〈お? 飲み込みが早いね〜〉

「キラ殿はもちろん、エルト殿も、俺の先をゆく道標……。置いていかれないよう、どこまでも付き従うのみ」

〈ふふ、その意気だよ。――んでね。仮にこの休戦協定が一年間守られたとして。その先にはやっぱり〝始祖〟との戦いが待ってるわけだよ〉

「休戦協定はあっちが仕掛けてきたのだろう。何があった?」

〈味方になるよう提案してきたんだよ。〝調停者〟が必要……だとかなんとか。だけどまあ、キラくんの性格的に、一年待とうが十年待とうが結果は変わらないでしょ?〉

「……ま。同意ではある」

 ブラックが目だけを動かし、チラリと見てくる。ふ、と笑ったようにすら見えて、キラは勝手な頑固者判定に少しムッとした。


〈どう転んだとしても、何が起こったとしてもいいように……。私たちは一年後に備えておかなきゃいけないわけ〉


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=811559661&size=88
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ