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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
9と2分の1章

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902.1-16「調停」

「この世には、〝調停者〟が必要である」

「〝調停者〟……?」


 その言葉には思い当たるところがあった。

 〝界域之神〟が口にしていた〝真なる人属〟。

 〝神〟に至る〝知能〟を有し、世界の原型を造ったという〝人類の祖先〟……彼らが、〝調停者〟としての役割を与えられていたという。

 その中でも特別な存在が〝神の使い〟らしいが……。


「〝今〟を見てみよ……〝人〟で溢れ、〝神〟などいないかのように振る舞っている。これは、正さねばならぬ」

「言ってる意味がよくわからないな……。なにが、正しくないって?」

「〝神〟も〝人〟も、欠けてはならぬ。その均衡が鍵なのだ。嘆かわしいことに、〝神〟すらもその意味するところを理解しておらぬ」


 〝始祖〟のその言い方には、色々と引っ掛かるものがあった。

 字面だけを考えれば、世界征服を企んでいるのではなく、むしろ平和を望んでいるようにすら思える。

 〝始祖〟のいう〝均衡〟とやらも意味深である。

 〝混沌〟を恐れているにしては、意味合いがずれている。

 〝力〟が溢れてはならないのはそうだが、その釣り合いを取るのはまた別の話である。他に何か脅威があるのか……。


 そしてそれを、『〝神〟も理解していない』。

 今の〝時代〟にも〝神〟はいるのだろうが……その口ぶりからして、一柱しか存在していない。

 思い当たるところと言えば、帝都で〝始祖〟を追い払った〝力〟の持ち主だが……。


「こういった惨状であるため、〝調停者〟が一人で事足りるとは思えぬ。そちが一人目、余が七人目……その合間の頭数を埋める。そういった算段である」

「……? なんで僕が最初で、自分が最後?」

「……裁定のための番人は必要であろう」

 不思議な考え方ではあったが、それはひとまず無視しておいた。

 キラとしては、言いたいことは一つ。


「悪いけど、到底受け入れられないね。第一、君にその信用はない」

「……で、あろうな」

 随分と潔く拒絶を受け取ったことに、キラは逆に恐ろしくなった。

 将来的に〝調停者〟とやらを担う気でいるならば、自分の提案にどんな反応が返ってくるか予想はしていたはず。

 その上で話を持ちかけたのには、何か必ず意図がある。まさか、ただ提案してみただけ、ということはないだろう。


「――一年、待とう」

「……?」

「約一年後。再び、同じように問いかける。それまで、余からは何も仕掛けることはないと約束をしよう」

「なんか。勝手に裁定始めようとしてない?」

「余に、信用がないのであろう? なれば、作るのみ。至極単純なことよ」

「その約束を違えることがないって証明するものは?」

「なし」


 いっそ心地の良い潔さに、キラは思わず唸りそうになった。

 これは、言ってみれば〝始祖〟にとって都合の良い口約束。その解釈の仕方は複数あり、認識の違いを悪用して仕掛けてくることも考えられる。


 とはいえ、全てが害意に満ちているわけでもない。

 現に、こうして対話が成立している。

 〝チルドレン〟だの〝人形〟だの〝宵闇現象〟だのを駆使すれば、拉致監禁は簡単なはず。なにより、そうやって〝原初の時代〟に飛ばされたのだ。


 しかしこの対話もまた作戦の内なのだとすれば……。

 考えれば考えるほどにわからなくなり、キラはため息をついた。


「……わかった。なら、一年間の休戦協定ってことで……受けて立つよ」

「念の為に言及するが。そちか、そちの手の者が、余の領域に侵入しようとした際には、容赦ない歓迎をする。上手くやることだ」

「ご忠告どうも」

 闇色のクリスタルが空間に溶けるようにして消え、同時に展開されていた〝亜空間〟もなくなる。

 キラは辺りを見回して、少しばかりほっとした。


「随分と酷い有様だけど……」

 久しぶりに感じるリケールは、もはやその面影を失っていた。

 〝パサモンテ城〟をはじめとして、どこもかしこも瓦礫だらけ。無事な家屋は少なく、それらしい形を残すだけで精一杯。


 ただ、空に裂け目もなければ、〝宵闇現象〟もない。

 もちろん〝六つ目の獣〟も、かつての凄惨な戦争で生み出された分厚い雲も、数千年間日光を浴びることのなかった赤茶けた大地も……。

 そのことに少しばかり寂しさを覚えるが、いつもの空の下、いつもの風を浴びることが、どれだけ心地よいか。

 キラはどさりと座り込んで、ぐぐっと伸びをした。


「ともかく、帰って来れてよかったぁ……!」 

〈ね〜! あとはネメアちゃんたちを見つけるだけ。ってこと考えれば、〝休戦協定〟は都合が良かったんじゃない?〉

「それでも気は抜けないけど……。まあひとまずは、リリィたちに礼を言わないと。……怒られるかな」

〈なるようになるんじゃない?〉

「他人事だと思って……」


 とにもかくにも……。

 こうして、〝原初の時代〟からの帰還を果たしたのである。


一週間ほど投稿をお休みいたします。

再開は10月13日(月)。

よろしくお願いします。

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