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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
9と2分の1章

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901.1-15「さらに先へ」

   ○   ○   ○


 実体化と幻体化を自在に操る双子の門番は、最後の最後まで面倒だった。なにせ姿形まで変幻自在に変えてくるのだから、その都度対処を変えねばならなかった。

 〝波動術〟を使えないからと、圧倒してもダメ。

 双子の門番は〝魂之神〟と直接繋がっている可能性が高く、調子に乗って追い詰めると何が起こるか分かったものではない。

 それは〝界域之神〟でいやというほど学んだのだ。


 門番の力を測りつつ、連戦続きの自分の状態にも気を払い、なおかつ不気味な共闘を結んだ〝くまーの〟の動きにも注意しなければならない……。

 空の裂け目が閉じた時には、キラは肩で息をするほど疲弊していた。


「なん……。ほんと……。の、脳みそが擦り切れるかと思った……」

〈代わろうかって何回も言ったのに〉

 それはなんとなくプライドが許さない。と口に出す気は起きず、生返事に留めておく。

「で……? 〝くまーの〟……。〝始祖〟が……なんだって?」

「はなしがあるってさ〜。したでまってるって」

「……ま。乗ってあげよう」


 ブラックを呼ぶべきかとも思ったが、キラはエルトと二人で対応することにした。何かあって三人とも捕まってしまったら元も子もない。

 そんな警戒心を〝くまーの〟は気にした風もなく、ゆらゆらと揺れながら地上へ降りていく。


「今更だけど……。君、何者? あのヘンテコ門番にも引けを取らなかったでしょ」

「〝くまーの〟は〝くまーの〟だよ〜。たんれんしてるから、あんなのはへっちゃら」

「ふん……?」

 言わないようにしているのか、言えないようにされているのか。

 どのみち〝くまーの〟は肝心なことには言及せず、また自分からも話しかけるようなことはなかった。

 妙な沈黙を保ったまま降り立ったのは、〝パサモンテ城〟。正確にはその跡地。


「薄々感じてはいたけど……。やっぱ……」

 目には見えず、感知もほぼ働かなかったが、〝パサモンテ城〟跡地には〝亜空間〟が展開されていた。

 紛れもなく〝界域之力〟によるものである。

 その中央にあるのは、闇色のクリスタル。

 ふよふよと浮かぶそれに、〝くまーの〟は躊躇なく近づき、声をかけた。


「ぼす、つれてきたよ〜」

 そう言いながらクリスタルの表面に手を触れ……その中に入る。

 〝界域之力〟による転移が目の前で行われたことに、キラは一層警戒した。


「まさか、僕らにもその中に入れって?」

 真っ当な答えが返ってくるとは思わなかった。

 だからこそ、クリスタルから〝始祖〟の声が静かに響いたのには少し驚いた。


「招待できるものならばそうしたいが……。望まぬのならば、それも良し」

「……あっそ。それで、話があるって?」

「――手を組まぬか?」

「……は?」

 想像もしていなかった誘いの言葉に、キラは思考が停止した。何を言っているのか理解ができず、咄嗟の拒否もできない。

 エルトもエルトで、予想だにしない事態に口出しできないでいる。


「単なる邪魔者としか思うてなかったのだがな……。だが……〝原初の時代〟から戻ってきたのならば、話は別となる」

「……別?」

「左様。〝界域之神〟と邂逅し……交戦……生き延びただけでなく、殺して見せた。そうであろう、〝神殺し〟を成した者よ」

「……」


 正直に言って、何をどう答えたものか、全くわからなかった。

 ネメアたちは、〝始祖〟に対抗する手立てを考えると言っていた。

 今やもう何万年も前の約束になろうとも……それでも、最後の最後まで力になってくれた彼女たちを、信じ抜かないわけにはいかない。

 どんな手立てを残してくれたにせよ、たった一つの情報を引き渡すことで、彼女たちの思惑が崩れてしまうかもしれない。


「あの時代でどれだけの知識を授かったかは到底図れぬが……。その上で、〝神〟の領域に至った。そちと手を組むのは合理的といえよう」

「ふん……」


 重要なのは、ネメアたちと共に過ごしたあの時代には、『ディオ・アルツノート』は存在しなかったこと。

 そしてもう一つ。

 あの時代で散々活躍していたタブレットやスマートフォンといった電子機器を、今の時代では全く見かけないということ。文明そのものといっても過言ではないというのに。


 すなわち、〝原初の時代〟は歴史から消えているのだ。

 間違いなく、ネメアたちの策略。

 〝原初の時代〟を見たことがない〝始祖〟を欺くための一手である。

 だからこそ、その意図するところをいまいち掴みきれない。彼女たちと同等の頭脳を持っていればと思うものの、願うだけ無駄。

 ゆえに……。


「で? 手を組んだ先に、何があるって? まさか世界征服を企んでるわけでもないでしょ」

 別の形で、ネメアたちの作戦に繋げる。

 情報は与えない。何か一つでも聞き出す。

 気をつけることも、成すべきことも、実にシンプル。

 この先ネメアたちと再会を果たした時、もう一度、一緒に戦えるように……さらにその先で、平和へと至れるように。

 戸惑ってはいられないのだ。


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