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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
9と2分の1章

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899.1-13「未知」

「こンの小娘が……!」

 今度こそ、魔女は本心を表した。

 毒色の粘液により発生したガスが、彼女の本命だったのだろう。周辺にいるヒト全てを丸ごと葬る腹積りだったのだ。

 いかにも悪党が考えそうな一手である。


 だからこそリリィは、〝紅色の炎〟で地表を覆った。粘液もガスも燃やし尽くして、被害を最小限に止めるために。

 それ以上に魔女がイラついているのは……。


「ワタシのシモベが……! 何をしたッ!」

「あら。ほんの少しだけ、じっとしてもらっているだけですわ」

 〝紅の炎〟は、昔っから手のつけられないくらいの暴れん坊だった。何度火傷をして、何度モノを破壊したかわからない。

 母から受け継いだこの〝炎〟が、憎くて仕方がない時期もあったが……全ての感情をぶつけて向き合ったからこそ、完璧にものにすることができた。


 すると、どうだろう。

 あれほど反骨精神の凄まじかった〝紅の炎〟が、服従したのである。

 今や手足のように扱える。思った通りに、イメージ通りに……炎の海を造るも、その温度を操作するも、特定の対象だけを束縛するも、自由自在。

 悪魔たちのみを炎の檻で拘束するなど容易いこと。


 むろん、魂ごと燃やし尽くすようなこともない。

 とはいえ、今回ほど大掛かりな場合、敵の位置をある程度把握しておかねばならないが……幸い、魔女にはそうと悟らせずに立ち回ることができた。


「あなたは確かにわたくしたちにとって未知の存在ですが……あなたにとっても、同じことでしょう。そこを考慮しなかったのが、最大の敗因ですわね」

「――ハ! これしきのこと……!」

「あら。わたくしの魔法は、まだ続いてますわよ?」


 魔女はカエルからカラスに変身し、逃亡を図る。

 それをみすみす見逃すわけがない。

 〝加重詠唱〟により炎の海に干渉――天に昇る火柱を生み出す。噴火の如き勢いで魔女を飲み込み、


「クソ、くそがぁぁぁぁぁ………っ!」

 言葉そのままに、魂ごと焼き尽くした。


   ○   ○   ○


 〝イエスマン〟と名乗るその悪魔は、図体がでかいだけではあった。

 山羊の頭に、黒い体毛に覆われた体躯、長く伸びる尻尾……その全てが、普通生物では考えられない大きさである。


 ただ、攻撃は直線的で、読みが浅い。敵の動きに素直に反応して、あとのことはほぼ何も考えていない。

 見た目通りに愚鈍で、隙も大きい。そのすさまじいパワーは目を見張るものがあるが、それだけ。

 生半可な魔法では傷ひとつつかない防御力を誇るものの……戦士としては下の下の下。

 しかしそれでも〝元帥〟セレナは、攻めあぐねていた。


「ウゥ、ウ、ウラヤマ、シィィィイイイ!」

 空中であるにも関わらず、まるで大地を走る猛獣のように、〝イエスマン〟がドスドスと音を鳴らして突進してくる。

 避けるのは簡単。距離感を間違えなければどうということはない。

 セレナはひらりとかわし、吹き荒れる風をもいなしつつ、大きく距離をとる。


「どこに触れようと……間違って触っただけでも……。〝魔素〟を奪う」

 エルフの血を引くセレナの瞳には、自分の手が気味悪く映っていた。

 どこにも怪我はなく、血色もいい……が、〝魔力〟も〝魔素〟も一切失われていた。リーウの右脇腹の治療痕のように、循環不全を起こしている。

 このまま日常生活に戻れば、支障をきたすことはない。体内に流れる〝魔力〟が失った分をゆっくりと補填し、また循環を始めるだけ。


 ただ、戦場においては壊死する可能性すらある。

 魔法を使うには〝魔力〟が必要であり、消費した〝魔力〟を補うために体内の〝魔素〟も活動する。

 体のどこだろうと、一部でも欠けていれば、別から捻出しなければならなくなり……無理を通した反動は必ずどこかに現れる。


「ふうむ……」

 セレナは素早く右手の応急処置に入った。

 ナイフで手のひらを傷つけ、たらりと血が流れるのを確認。それから〝水の魔法〟で水球を作って、右手を浸す。

 その上で〝風〟を操り、〝魔素〟をかき集めて、〝水〟の中へ取り込んでいく……そうして、傷口から体内へ〝魔素〟を補填するのである。


「しかしこれだけの疲労感……到底〝魔素〟を奪われただけとは思えません」

 〝イエスマン〟から目を離さず、改めて思考を回す。

 不可思議なのは、〝魔素〟を失ったと同時に、どっと疲労感を覚えたという点。

 今この戦場にいるのは、急遽ブラックに連れ出されたため。

 事務作業で疲れていたならばまだしも、〝第五回恋バナ大会〟で盛り上がっていた最中である。

 そこに水を差されたことに苛立ちは覚えるものの、疲れとは無縁。


「人魂が悪魔に……。数千の〝悪魔〟が〝イエスマン〟に……。ということは、魂を吸収する……?」

 改めて、〝魔瞳〟で〝イエスマン〟を観察する。

 当たり前ではあるが、普通の生物ではない。

 ヒトや動物、〝魔獣〟ですら〝魔素〟を有しているというのに、〝イエスマン〟にはほとんどない。

 ヒトでいう心臓部あたりに、少量の〝魔素〟が漂っているだけ。


「私の魂ごと〝魔素〟を吸収した……と考えるのが妥当でしょうか。とはいえ、私はまだ生きていますから……魂を少し齧られた、あるいは、生気を吸われた、と表現した方が正しいのでしょうね」

 とにもかくにも、謎が多い。

 普通の生物ならば単に呼吸するだけで〝魔素〟を取り込むが、〝イエスマン〟はどうなのだろうか。

 〝魔素〟を取り込めたとして、体内で〝魔力〟に変換されるのだろうか。言葉を有するということは、魔法を使えるだけの知能があるのだろうか。

 次々と疑問が湧き上がり、その全てを解き明かしたくなる。

「ネ、ェ……。ネエ。ダレ、ガ、スキ?」


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