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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
9と2分の1章

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898.1-12「起点」

「〝神殺し〟……? 大罪人……?」

 次善策は……と考えるものの、話に気を取られてしまった。

 キラには記憶がない。彼があまりにそれを気にしないため、すっかりと忘れてしまっているが……記憶を失うほどの何かが過去にあったはず。


「もっとも、アナタたち〝咎人〟にとっては救世主も同然なのでしょうけど。記録が抹消されてなお……〝時代〟が変わってもなお……誰もが知る〝英雄〟であり続けている。〝時代〟によっては、原初の神の一柱とされるほど」

 魔女のいう〝大罪人〟とやらが、キラの失われた過去なのかと思った。

 だがリリィは、眉を顰めていた。

 仮にキラが〝神殺し〟を本当に成していたとして、それを大罪人として捉える派閥があったとして。そのどちらも、到底隠し立てできないほどの大きな事態……というのに、噂話でさえも聞き覚えがなかった。

 〝時代〟という言葉の意味もどこかズレがあるようで……。


「今も、なお。あの獣のような男は、あまねく人間の支えとなっている……。許されざる存在よ」

 根本的に、謎の魔女は見えているものが違っているように感じた。

 ゆえに、リリィは簡潔に結論を出す。


「では、あなたはわたくしたちの敵ですわね。たとえそれが真っ当な理由だろうとキラを渡すわけにはいきませんし、この地での行いも認めるわけにはいきません」

「さすが〝咎人〟。話が通じないのね」

「見解の相違というべきですわよ。それを正そうとしないあなたこそ、まさしく獣。というより……そのつもりがないのでは?」

「……ええ。ええ、そうね。だって、力づくで奪った方が早いんですもの。仕方がないわよね?」


 魔女の意思を汲むかのように、悪魔たちが襲いかかってくる。

 白銀の剣を振るって熊の悪魔の一撃をいなしつつ、回り込んで襲いかかる小鬼には蹴りを見舞う。


 結局のところ、この悪趣味な戦い方に対する完璧な解決策は見つかっていない。

 ただ、こうして戦いを重ねるたびに、少し思うところがあった。

 悪魔たちには、ヒトらしいところが一つもない。

 見た目はもちろん、その行動にも戦い方にも人間だった頃の名残は一つもなく……まるで、これまでずっと悪魔として生きてきたかのような動きをしている。


 それはつまり、ヒトが悪魔に転じたわけではないということ。

 あくまでも、瓦礫が悪魔に成り変わっただけ。悪魔という檻に魂が囚われていると言い換えることもできる。

 ならば、〝紅の炎〟で焼き尽くすのではなく、その檻だけを壊せば……。


「――」

 賭けではあったが、迷うことはなかった。

 背後に回ってきた狼男に狙いを定める。


 鋭い爪を屈んで避けて、反転――剣を体で隠しながら、狼男の胸を切り裂く。

 心臓を一刀両断するほどに深く入り、狼男は絶命。

 血の一滴も出すことなく、どうっと後ろ向きに倒れるや、全身がぺしゃんこになる。


 気色の悪い死に方ではあったが――リリィの想像が当たった。

 死骸から抜けていく魂は消えていない。どういうわけか、〝紅の炎〟は効果がありすぎたのだ。


「これで、少し楽になりましたわね」

「は。だからどうしたの? そんなことでワタシの支配からは——」

「気が楽になった、と言いましたの」


 〝爆炎ホバー〟で、ジグザグに戦場を駆け抜ける。

 悪魔たちの巨体に隠れつつ、あるいは邪魔な個体を切り倒しつつ。魔女の視界に映るのは一秒以下に留める。

 速さで撹乱し、撹乱して速さを生み出す。

 そうして魔女の背後をとった。


「くっ……!」

「あら。随分と綺麗な顔立ちではないですか」

 とんがり帽子を目深に被った魔女は、そこで初めて表情を崩した。茶色い瞳が瞼で鋭く引き絞られ、濃い目の口紅の乗った唇がひどく歪む。


 その顔つきを見て、リリィはなおのこと気を引き締めた。

 相手は『〝魂〟を操る』という未知の領域にいる。人魂が悪魔という檻に閉じ込められる事象一つにすら、まともに解明できない。

 追い詰められようとも、何か策を持っているはず。

 それを前提として、リリィは〝紅の炎〟を操った。右手の剣を引きつつ、左手を押し出す。


「あは。随分考えなしだこと」

「――」


 やはり、表情はブラフ。

 魔女はニヤリと笑い――変身した。

 白く綺麗な肌がぶくぶくと膨れるや、顔貌が蛙そのものとなる。頭だけではなく、魅惑的だった体つきもブクッと丸まる。


 鈍重な見た目にも関わらず、巨大蛙となった魔女はビョンッと跳ねた。

 リリィはすんでのところで〝炎〟の無駄打ちを止め、その行方を目で追う。


「――死ねやゴラァッ」

 容貌とともに性格も変わったらしい。随分と口汚い言葉とともに、紫色のどろりとした液体を吐き出す。

 直撃を喰らってはならないのは明白――避けるのは簡単――そのあとどうなるかが肝心。


 リリィは一瞬にして頭を働かせ、回避行動をとりつつ、今度は〝紅の炎〟を剣に宿した。

 地面に突き刺し、その勢いで炎の海を造る。


 直後、毒色の粘液が地面に着弾。

 ぶちゃっ、と周囲に飛び散り、濃い霧まで発生する。

 リリィは息を止めて、できるだけ距離を置く。それでも少しだけ吸ってしまったが、影響は皆無。


「こンの小娘が……!」


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