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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
9と2分の1章

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923/960

895.1-9「カワイイ」

 高度を上げて、地上を観察する。人魂は確かに雨のように街全体に降り注いだらしく、各地で戦いが勃発していた。


「リーウさん、聞こえますか」

『あっ……はい。……〝リンク・イヤリング〟あるの、忘れてました』

「気づいていたとしても、〝魔素〟の循環不全で使えはしなかったでしょう。意外と神経を使うものですからね。これを機に覚えておくことです」

『はい……』

「何やら街の至る所に船が刺さっていますが、これはどういう状況だったのでしょうか」

『〝ローレライ海賊団〟が空から侵攻してきたのです。船が次々と降ってきて……。――え? あ』

 リーウの声が不自然に途切れたかと思うと、今度はブラックの声が〝リンク・イヤリング〟から届いた。


『その当時は、俺も〝ローレライ海賊団〟にいた。俺の仕業だ』

「あなたの? ……なぜ〝授かりし者〟であるあなたが、〝リンク・イヤリング〟で話せるのです?」

『俺だけではない。キラ殿もそうだ。なぜかは……秘密だ。説明に時間を割いている余裕はない』

 何やら勝ち誇ったかのような声音に、セレナはイラッとした。

 と同時に、ブラックが本当にキラのことを尊重しているのだと判断でき……複雑な気分になる。


「とりあえずは後回しにしておきましょう。イヤリングのことも、海賊団のことも……。聞きたいのは、街の状況です」

『――。諸々厄介ごとに見舞われたことで、どうやらある程度固まって行動はしているようだ。避難の最中に悪魔どもが現れた……といったところだろう』


 街の中心部にある小高い丘には、城があった。正しくは城跡……何か激しい戦いがあったのか、誰か一人倒れている。

 その周りは、リケールの中でもとりわけ酷かった。

 ほぼ更地となり、生存者は見つからない。瓦礫に紛れて遺体が散らばっている。皮肉なことに、だからこそ、悪魔たちが群がるようなこともなかった。

 見たこともない凄惨な光景に目を細め、しかし、セレナは観察をやめなかった。


「十……十一……十五。十五の地点で避難行動が見られますが……リケールには地下でもあるのでしょうか。到底避難場所とは思えない小さな家屋に飛び込んでいくのが見えます」

『それなら、私が。〝アサシン〟による秘密通路だと思います。私たちもその通路でリケールに潜入したので』

「なるほど……。瓦礫が悪魔に変容するならば、地上で右往左往するよりかは幾分マシといえましょう。ありがとう、これだけ聞ければ十分です」

『では……?』

「ある程度の算段はつきました。もうこれ以上、被害が出ることはありません。〝全てを、妥協なく〟……私たちの信条をもとに、約束いたしましょう」

『私、たち……? ――! では、リリィ様も……!』

「ええ。なので、もう心配はありません。ゆっくり休んでいてください」

 返事はなかったが、心底気が抜けたのが〝リンク・イヤリング〟を通して伝わる。セレナは〝念話〟を切り、緩みそうになる頬を引き締めた。


「相手は悪魔……否、人魂。私たちの常識が通用するとも思えません。しかし――〝錯覚系統〟の通じる生き物であることに間違いはなし。突くとすれば、そこですね」

 ぶつぶつとつぶやいて頭の中を整理し、高度を下げる。


「とりあえず――雑に。空にお招きいたしましょう」

 大気中の〝魔素〟を味方につけて、突風を操る。〝風の魔法〟で風そのものを巻き込みつつ、水底をさらうようにして、悪魔たちを誘拐。

 地上からは悲鳴が上がり、何匹か取りこぼしもあったが、概ね想定通り。数千の悪魔たちを巻き上げることに成功した。


「アァっ? なんだ、テメェ、この野郎ッ!」

 近くにいた一つ目の気色悪い悪魔が、牙を剥き出しにして怒鳴る。

 セレナは思っても見なかった事態に、口が緩むのを感じた。

「おや。まさか対話のできる個体もいるとは。これは興味深い」

「オウオウオウオウッ! 随分と、随分とォ、舐めてくれんじゃねぇか!」

「そちらは、どうやら私のことを警戒してくれているみたいですね。話が早くて助かります」

「アァ〜っ? ア、ァ……?」


 セレナはまだ何もしていない。魔法を使って縛り上げることは考えていたものの、行動には移していなかった。

 というのに、一つ目の気持ち悪い悪魔は一人でにうめきだし……まるで紙を丸めるように、ぐしゃぐしゃに縮まっていく。

 一体だけではなく、何体も、何体も。同じようにもがき苦しみ、肉塊になる。

 そうして出来上がった数千の塊が、まるで竜巻にでも巻き込まれたかのように一箇所に集まり――姿を変える。


「ア……ァ……ア……」

 出来上がったのは、どでかい悪魔。山羊の頭に、黒い体毛に覆われたヒトの体躯を持ち、コウモリのような翼を広げている。

 その大きさは、おおよそ二十メートル。そのガタイの良さも相まって、生物としては規格外のデカさに、さすがのセレナも開いた口が塞がらなかった。

 しかも。


「アタシ……イエスマン……」

 ヒトの言葉を持ち、話しかけてくる。

 その声は、地獄の底を這うかのように、とても低い。

「ネエ……。アタシ、カワイイ……?」

 見た目にそぐわぬ自我。悪魔の肉体に人の魂が取り憑いたかのようで……ある意味、セレナは得心していた。


「降り注いだ人魂は本物であり……あの空の切れ目は、あの世とこの世をつなぐものといったところでしょうか。ヒトが悪魔に……随分とおぞましい話です」

 数千の魂の果てに〝イエスマン〟がいるのか、はたまた、〝イエスマン〟が数千の悪魔に分身していたのか。

 何があったにせよ、哀れには違いない。

 だが。


「アナタ、カワイイ……。イイ、ナア……!」

 この化け物を野放しにはできなかった。


   ○   ○   ○


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