エピローグ
〝歴史〟は、〝神〟よりも不変である。
その流れは常に一つ。
どこに枝分かれすることなく、この星の物語として紡がれる。
序章にあたる〝原初の時代〟は、キラたち〝迷い人〟により、その終焉を免れた。
とはいえ、これはほんの少しの延命。
キラたちが帰った百年後に、〝原初の時代〟は〝歴史〟ごと消し去られることとなる。
きっかけは、三度目の〝混沌〟。
〝命之神〟は、〝六つ目の獣〟の消失を境にして、人類への恨みを募らせ……神々を率いて人間界へ侵攻を開始したのである。
ネメアら古代人たちが、これを黙って見ているわけがない。
〝古代魔法〟を各自が身につけ、さらには〝雷之神〟をはじめとした神々を味方に引き入れて、対抗。
とても、とても、大きな戦いとなった。
それこそ、星そのものの存続に関わるような巨大な戦いに。
実を言えば、この最中にも幾度か〝混沌〟が訪れようとしていた。だがそれすらも、古代人と神々はねじ伏せたのである。
そうして、臨界点が訪れた。
ゆえに、三度目の〝混沌〟は、〝歴史〟の転換点となった。
世界の在り方がガラリと変わったのだ。
だからこそ。
ネメアたちは自分たちの意思で、〝原初の時代〟に関する一切を抹消することとなった。
遠い未来……〝天神〟という希望が〝歴史〟に誕生するその日まで、想いが守れらるように。
「『エグバート王国に新たな〝元帥〟誕生!』……。〝世界新聞〟もたまにはええ仕事するやんけ。テンション上がるなぁ」
――帝国、某所。
けたけたと笑う男が一人。
「やっとや……。ほんま、待ち侘びたで」
訛りの強い男がいたのは、鍛冶場だった。
炉の炎が真っ赤に燃えたぎり、男の鍛造作業にも力が入る。
「〝センゴの刀〟……名刀〝ムラマサ〟。待っときや……。カンッッッペキに修繕したるから」
黙々と刀を打ちつづける男に、軽やかな女性の声がかかる。
「ちょっと、ペンドラゴン! それも大事だけど、そうじゃないでしょっ?」
「そないにギャンギャンいわんでも。わかっとるがな」
「もう……。で……いつ来るかな? 明日かな? 明後日かな?」
「無茶言うなや。まずは見つけてもらわんと。そんための種はもう撒いとるが……まあまあキツイんちゃう? 〝始祖〟にも嗅ぎつけられんのんやし」
「じゃあ、もうちょっとセキュリティ低めてよ」
「アホ吐かせ! そないなことしたら瞬やぞ、瞬。心配せんでも、これまでに比べたら短いもんやろ?」
「うん。でも……早く会いたいなあ。知ってる? 一緒に冒険するって約束したんだよ。家族にも紹介してくれるって!」
「もう何万回と聞いたわ」
「へへ。楽しみだなあ」
キラと、エルトと、ブラック。三人との再会は、もはや古代人たちの悲願ともなっていた。
彼らへの感謝から始まった〝福音教〟は、今はもう世界中から忘れ去られた。〝聖母教〟として形を変えたものの、その事実を知る者は一人としていない。
しかしそれでも。もう何万年と前のことだったとしても。
キラたちへの想いを、彼らとの二十一日間を、人類が丸ごと救われたあの日のことを……古代人たちは、忘れることはなかった。
未来永劫そうありたいと、切に、切に、願い続けているのである。
「しかし、こっからが正念場よな。色んな英傑が立ち上がっては、姿を消してった……」
「〝覇王〟は惜しかったよね〜。あとはもちろん、記憶を失くす前のキラくんね」
「腹が立つんは……。そういう意味やと、ディオ・アルツノートも上がるんよなあ……。しかも現在進行形で」
「ふん。あんなん、紛い物だよ。〝天神〟にはかないっこない」
「そらそうや。まあ、何にしろ……〝歴史終末〟が迫っとる。それを乗り越えな、感動の再会もクソもない」
残り、約一年。
世界の消滅が、迫っている。
一週間ほど投稿をお休みいたします。
再開は9月11日(木)。
よろしくお願いします。




