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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第9章

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886.道しるべ

 キラは、改めて全てを説明した。

 そもそもこの時代に来たのは、〝始祖〟と呼ばれる者の策略であること。

 〝始祖〟が仕組んだ一手として、〝黄昏現象〟があったこと。

 〝黄昏現象〟との対峙により、〝六つ目の獣〟の存在を知ったこと。


 それらから繋げて、〝亜人〟から聞いた世界の成り立ち。

 五つの層の〝界域〟と、そこにいるであろう〝神〟の存在。

 〝混沌〟と呼ばれる最悪の現象。

 そして、〝六つ目の獣〟が暴れるに至った理由。


 話をするうちにネメアもレタも泣き止み、何を説明しているのか気になった古代人たちが多く詰めかける。

 先代たちですら知りようのない事実の数々に、みなが呆然としていた。


「想像を超えた重い事実の連発だな……」

〈正直、私たちも受け止め切れてないんだよね〜……〉

「だろうな。普通であれば、誰も信じてはいないだろう。だが、他ならぬ〝福音教〟の主……。信じるなという方が非常識となる。安心しろ」

〈……どこに安心の要素があるんだろ?〉

 イロンの謎理論にエルトでさえ困惑していたが、周りはそうでもなかった。


「え〜? なんで? もはや信頼の象徴じゃん」

 ネメアの言葉に、レタが続く。

「〝亜人〟を……〝カミ〟を打ち倒した。貴方たちにはなんら関係なかったのに。逃げに徹していれば元の時代にも戻れたはずなのに。――あなたたちの精神性は、〝カミ〟をも上回ると証明されたの。ならば、賞賛しないわけにはいかない」


 話を聞いていた皆が、それぞれにうなづく。

 その様子を目にするのが気恥ずかしくて、キラは話を逸らす他に受け答えはできなかった。


「ネメアたちはこれからどうするの? 〝亜人〟も〝六つ目の獣〟もいなくなったけど、かわりに〝魔物〟なんてものが解き放たれた……。何か手伝えることがあれば……」

 右肩に顔を埋めていたネメアが、とんでもないとばかりに体を起こす。

「何言ってるの、キラくん? ここからは私たちの番だよ。君たちは、君たちの時代に帰らなきゃ」

「や、でもさ。当面の脅威は去ったわけだし、もともと帰るのはもう少し後だったわけだから……」

「ダ〜メ。色々と計算した結果、割と猶予はないみたいだから。今すぐにでも帰った方がいいかも」

 ネメアは名残惜しそうに、しかしながらさっぱりとした顔つきで離れた。レタも同じようにして、身軽に立ち上がる。


「ブラックくん。キラくんを背負ってくれる? 手当てはしたけど、まだ疲れてるだろうから。どういう状況でこっちに来たかは分からないけど……できるだけフォローしてあげて」

 キラは反論しようと口が開きかけたが、何も言わなかった。これだけの心配を無碍にするようなことはできない。


「そう言えば、ブラックは平気なの?」

「我が主のおかげで、戦い始めてからほぼ無傷。平気だ」

「その呼び方で定着させるの……?」

「忠誠の証と受け取ってほしい」

 随分と妙な関係に落ち着いたものだと思いながら、キラはブラックの背中によじ登った。


「〝座標〟までは二百キロ近くあるけど、〝界域之力〟でゲートを開いたから。すぐそばにあるようなものだよ」

 ネメアが指し示すと同時に、集まっていた者たちが左右にさっと別れる。

 この場に集っているのは千人以上。彼ら彼女らによって、ゲートまでの花道が形作られる様は圧巻だった。


「さて、忘れ物はないかな?」

〈あ、私から一つ〉

 エルトが〝声〟をあげて、表面化を果たす。ズズ、と右目が赤くなる。

「約束、覚えてるよね?」

「うん。もちろん」

 今度は、エルトもネメアも涙の一つも流さず、笑って確認しあった。びし、と親指を立てて最後の挨拶とする。

 エルトが満足して引っ込んだところで、キラはイロンに一言声をかけた。


「イロン。最後までありがと。助かったよ」

「俺からも礼を。オロスにも、改めて伝えておいてほしい」

 するとイロンは、ネメアとは逆に、何も言わずに俯いてしまった。そっと手のひらで目元を覆ってから、一度だけ大きく頷く。

 そんな彼の代わりというように声を出したのが、総司令のマントスだった。


「はあ、よかった、間に合った」

 どうやら走ってきたらしく、玉のような汗を浮かべている。

「作戦前はそれどころではなかったのは確かなのだが……見送ることすらできなかったのが心残りだった。最後に言葉をかわせて何よりだ」

「マントスさん……。あの、本当に……ありがとうござました」

「ふっふ。敬語はなくともよいが……心地良いのも確か。戦いの後で疲れているだろうが、どうか、皆の声に応えながら帰り道を辿ってほしい。誰もが、心の底から、感謝しているんだ」


 それ以上声を出してしまうと、溢れるものがありそうで……キラは頷くだけに留めた。

 それから、なんとか〝ムゲンポーチ〟からスマホを出して、インカメラを起動する。

 最後に、キラもエルトもブラックも、ネメアもレタもイロンもマントスも、できる限りの人たちと一緒に写真を撮った。

 そうしてキラたちは、皆の声援と感謝の言葉に手を振りって返しつつ、元の時代に戻るに至ったのだった。


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